
東日本大震災によって消費は大きく変わったのか。結論を先取りすれば、「スマート」消費のトレンドは変わらず、その勢いが増したようだ。
1995年の「阪神淡路大震災」後は、一旦需要が落ち込んだものの、政府や地方公共団体の財政出動によって、特需が生まれ、個人所得が上昇し、一時的に需要は膨らんだ。しかしその後、消費は長期低迷となり、「失われた20年」へと繋がったことは言うまでもない。
需給のミスマッチを拡大し続けた「失われた20年」を「30年」にしないためにも、加速する消費者の変化を捉え続けていくことがますます重要となる。
今号は、「見えない需要を捉え、顧客接点の再構築」をすすめるための5つのコンテンツを掲載した。
冒頭の「見えない需要を掘り起こせ」は、『消費社会白書2012-浸透する嫌消費、拡大する潜在需要』から、どんな消費と購買行動の変化が生まれているのかに的を絞って紹介する。
「東京都心型ライフスタイルへの適合競争」は東京都心における新たな業態間競争をとりあげた。
「中堅企業のためのベーシック・マーケティング」は、中小企業の生き残りのためのマーケティング強化策として10のアクションを提言する。
「顧客視点の新規事業開発」では、衰退から脱出し成長するための新規事業開発の必要性を説く。
「高収益ビジネスへの挑戦」ではプラットフォーム発想による事業革新を提案する。

2012年は、震災の復興需要が立ち上がり、国内の消費が活性化し、日本経済が浮上する転換点となるだろうか。来年年初に今年を振り返ったとき、どうなっているかは、GDPの約6割を占める人々の消費行動にかかっている。
日本の人口は減少しているが、世帯数は増加している。単独世帯の構成比は全世帯の3割を超え、夫婦と子供からなる世帯を上回っている。
暮らしの単位が変わり、世代交代によって生活の重点が変わり、欲しいものも変わる。それに呼応して、大手組織小売業主導の業態間競争から新たな小売の競争段階がはじまっている。
ネットショッピングやリージョナルスーパーは客数と売上を伸ばし、特定の都心型スーパーは、商品の価格が高くても品揃えの独自性によって顧客の支持を得ている。生活者をつなぐコミュニケーションメディアも変わろうとしているのである。
弊社では、消費社会研究のために2003年から毎年継続して消費者調査を実施しているが、2011年
度は、3月の震災2週間後、7月、11月、2012年1月と、計4回の調査を実施した。
調査結果は、『消費社会白書2012 浸透する嫌消費、拡大する潜在需要』(2011年12月発刊)、『消費経済レビューVol.17、18』(それぞれ2012年1月、4月発刊)において、消費動向、価値意識や購買行動などをとりまとめているので、是非ご覧いただきたい。
本コンテンツでは、主に『消費社会白書2012』から、変化する消費と購買行動に焦点を絞り、そのエッセンスを紹介する。

消費における震災の影響は、直後の消費水準の落ち込みや、水などのまとめ買い行動、節電意識や食品選択における安全性意識、産地を気にする度合いの高まりなど、意識や行動のさまざまな面に見られた。
顧客接点という点で注目できるのは、コミュニケーションメディアに対する信用度の変化である。
新聞やテレビなどのマスメディア、家族の話などの口コミ、ネットのニュースサイト、SNSなどをあげ、各メディアの信用度と、震災後の信用度の変化を調べた。
その結果、もっとも信用するのは「家族の話」(73.2%)、次いで「新聞」(72.7%)、「友人知人の話」、「ラジオ」、「企業のホームページ」と続いていた。また、もっとも震災後に信用度が弱まったメディアは、「テレビ」(20.0 %)だった。
そもそものメディア接触率を世代別に比較すると、震災の影響を超えて、メディア接触の世代落
差が大きくなっている。テレビ、新聞といったマスメディアでは、若い世代ほど接触率が低く、特に新聞は、全体では「週3日以上接触する」人が80%以上いるのに対し、バブル後世代以下の若い世代では50%以下となっている。
一方で、SNSやTwitterなどの新メディアは、若い世代で急速に普及している。
この背景には、人間関係の志向性との関わりがある。「人間関係を拡げたい」と同時に「自分を
裏切らない人とだけ付き合いたい」という「インナーグループ志向」層は、若い世代に多い。そして、インナーグループ志向層ほどソーシャルメディアを利用している率が高くなっている。
今回の消費社会白書では、人々の価値観や考え方など、心理的な震災の影響にも注目した。
1953年以降におきた事件や出来事を55項目あげて、「自分と同年代生まれがもっとも影響を受けたと思う出来事」をたずねたところ、1位は「東日本大震災」(29.5%)、2位が「バブル崩壊」(7.8%)、
3位「阪神淡路大震災」(7.4%)と続いていた。
「東日本大震災にもっとも影響を受けた」と答えた人を世代別にみると、現在15才から22才の「ゆとり世代」が50.0%と、他の世代に比べて特に強くなっていた。
10代後半は、心理発達段階からみると価値意識の形成において社会的な事件や出来事からの影響をもっとも強く受ける時期にあたる。
バブル崩壊が、バブル後世代という「嫌消費」傾向を強くもつ世代を育んだと同様に、今回の震災が新たな世代形成の契機となって、時代の変化を加速させていく可能性がある。

2012年1月時点での家計支出について、人々の認識は1年前と比べて「変わらない」が56%と過半数、支出が「増えた」人が26%、「減った」人が18%と「増えた」人が上回ったが、今後についての方向性はまだみえない、ということであった。
観点を変えて、消費に関する態度を表す「嫌消費度」という指標からみてみる。
嫌消費度は「収入が増えても、支出を抑制したい」態度の強弱を示した度数で、嫌消費度の高い順に5点から1点の得点を割り振り、3点が中立となる。2011年7月では平均2.98点なので、ほぼ中立ということになるが、1年前の2010年8月平均の2.90点と比較すると、わずかに嫌消費度が高まっていることがわかる。
世代別に平均値を算出すると、嫌消費度がもっとも高いのは「ゆとり世代」であり、「団塊ジュニア」までの現在40才以下の世代が3.0点を上回っている。(「バブル後世代」を中心とする「嫌消費」については、松田久一最新刊『「嫌消費」不況からの脱出』(2012年1月)、『「嫌消費世代」の研究』(2009年11月)に詳しい)。
世代別に1年前との変化量をみると(図表1)、団塊ジュニア以降の成熟世代において嫌消費度が高まっている。
ここから、若い世代の嫌消費傾向が、本来は消費好きだった年配世代にも波及しているといえそうだ。
一方、内閣府「消費者態度指数」により短期的な見方をすれば、消費マインドは4月を底に回復
し、9月以降には震災前の水準まで戻りつつある。
■図表1 世代別嫌消費度とその変化
しかし、長期的な趨勢としては、消費好きの旧世代から、嫌消費傾向が強い若い世代への世代交代が緩やかに進行し、加えて旧世代が新世代の影響を受けて嫌消費傾向に傾いていることから、今後この嫌消費傾向が転換するとは考えにくい。

消費に対する世代の影響はさまざまな面で表れており、関心のある商品サービスの領域も世代によって違ってきている。食品から自動車などの大型耐久消費財まで、28の商品サービス領域を提示し、関心のあるものを分類(数量化V類)したところ、7つの消費パターンに分けることができた。
世代別に構成比を比べてみると(図表2)、若い世代ほど必需財が大きく、年上世代ほど選択財が大きくなる。典型的に、自動車や家事・調理家電などを含む「顕示家族選択財」は、戦後世代では19.7%であるのに対して、少子化世代は4.5%、バブル後世代が10.5%となっている。
若い世代では、自動車や家電などの選択的耐久財に対して関心を持つ人が少ない。特にバブル後世代は、将来への見通しが悲観的で借金嫌いであることも、高額の選択財の購入意欲を抑制する理由になっている。
さらに、家族形成期にあたるバブル後世代、団塊ジュニア世代について、結婚をしているかどう
か、子供の有り無しによって細かく分析してみると、バブル後世代の自動車保有率は、結婚を機に33.3%から58.8%へと25.5%アップする。
団塊ジュニアでは子供が生まれると13.3%アップして69.2%になる。薄型大画面テレビについても同様に、ラ
イフステージ変化に伴って所有率が上昇する。
旧世代が20代だった頃には、世代毎にオーディオブームがありバラコンからミニコンポ、ウォークマンと製品形態は変わっても、同じ世代にはオーディオマニアがいて、みなが欲しがることでブームを支えてきた。
社会人になったらローンを組んで車を買うのもあたりまえだったし、選択的大型耐久財が個人の欲望の対象だった。
それに対して新世代では、個人の趣味や欲望によって買うというよりも、結婚や子供の誕生などの家族形成に伴
う必要性が生じて購入するものとなっている。そして、新世代は、食品や飲料、ファッションや化粧品などの日常的で必需性の強いものへの関心が高い。
買い物についての意識をみると、「買い物が好きだ」という項目について「そう思う」とした人
は64.5%、2009年調査では56.4%と、8.1%増加している。
また買い物好き率は性別世代別に違いがあり、女性が74.9%と男性より20%程度高い。
女性の世代別にみると、バブル後世代86.7%、少子化世代87.2%と高く、かつ2009年より増加している。
新世代は買い物が嫌いなのではなく、むしろ好きであり、旧世代とは欲しいものの対象や買い物の仕方が違うと考えられる。
消費パターンは、世代により異なり、選択財から日常財への関心が拡がることで、多元化してい
る。消費の水準と選択される商品サービスにおいて、旧世代と新世代の世代ギャップはかなり大きく、その結果として旧世代の売り手には、新世代の消費が不活発にみえ、自身の経験からは理解できないものになっているのではないだろうか。
■図表2 世代別関心領域の類型(消費パターン)

全般的に嫌消費傾向が強まっているということは、裏を返せば、預貯金や手元現金が増え、潜在的な購買力が高まっているともいえる。
そのひとつの証左が衝動買いの多さだ。
1ヶ月以内に食品の衝動買いをした人は52.5%と過半数
を超える(図表3)。そもそも、ふだんの食品の買い物で、事前に「商品銘柄を決めて店に行く」という人は31.2%である。「商品カテゴリーまで決めて店に行く人」までを合わせても44.6%と半数に満たない。
衝動買いをした理由を聞くと「おいしそうだったから」(55.0 %)、次いで「安かったから」(43.8%)が二大理由である。衝動買いを引き起こす外部的な要因として、衝動買いをしたときの店内の印象を聞いたところ、「値引きしているプライスカードがあった」などの価格訴求がもっとも高く、次いで大量陳列や商品のPOP、試食や実演販売、売り場での見た目やにおい、調理の音など、「五感刺激」があげられた。五感刺激によって注意が喚起されて商品に接近し、「おいしそう」という購買理由を形成するものと解釈される。
買い物についての意識別に衝動買い率をみると、意外にも「最近節約を心がけるようになった」という人の方が、そうでない人よりも衝動買い率が高かった。
ふだん節約を意識している人の方が、店頭での刺激によって「思わず買ってしまう」衝動買いが起こりやすいという、一見矛盾した結果になっている。
また「食品の買い物は楽しい」「食品の売り場は楽しい」と思う人ほど衝動買い率が高いことが
わかっている。店頭で「思わず買いたくなる」刺激があると、売り場が楽しく、衝動買いをすることが買い物の楽しさにつながっているとも解釈できる。
店頭では、顧客に買い物の楽しさを提供し、顧客は購買を通じて生活の楽しさを実現する。
合理的な購買者を前提にした低価格・省手間な買い物から、生活に未着した買い物の楽しさをめぐる新たな競争が進行している。
■図表3 食品における衝動買いの経験とその時の店内の印象

節約志向が73.5%と依然として大勢となっている反面、店頭では日常的に商品が衝動買いされている。
買い物行動は衝動的で非合理的だ。売り手も買い手も何が欲しいかが見えているわけではない。
嫌消費意識が高まり潜在的な購買力が高まっていることをチャンスと捉え、この潜在的な需要に、顧客接点を再構築してどうアプローチするか。
これがマーケティング課題である。(大場)
弊社では、顧客接点再構築のためのソリューションパッケージをご用意しております。
是非お問い合わせ下さい。
■図表4 6 つのソリューションパッケージのご提案
※本提言「見えない需要への顧客接点の再構築」は、「営業力開発」誌 2012年・No214号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:JMR生活総合研究所)へ掲載されています。尚、誌面では以下の様な構成にて続きます。
「見えない需要への顧客接点への再構築」

T.見えない需要を掘り起こせ
U.東京都心型ライフスタイルへの適合競争
V.中堅企業のためのベーシック・マーケティング
W.顧客視点の新規事業開発
X.高収益ビジネスへの挑戦
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