「普及率需要から需要の質的変化を理解するための選択率需要の概念」(1981)の提唱をJMRでは行った。
「普及率需要の場合は、シェアが高いものが次もまた売れる可能性が高いが、選択率需要においては、今、シェアが高いものを、次のお客様がまた選ぶとは限らない」。
すなわち、「今の売上」と、「次のお客様の選択率」はイコールにならないという考えである。
これは、20年以上経過した今も、変わらない。
むしろ、より「売上」と「選択率」のギャップが広がってきているかもしれない。
20年前は、インターネットがなかった。
今は、キーワードをいれれば、インターネットで簡単に検索できる。
「選びたいと思っていなかったもの」や、「知らなかったもの」まで、急に、「選択」の中に入ってくる。
いろいろなところで、消費者の購買行動の変化は語られている。
そこで、今いちど、本稿では、「売上」=「売れ筋」を決める、購買の前の、消費者の「選択行動」について、その変化を分析する。
20年前と比べて、格段に、市場に存在する商品の量が増えている。
選べる商品の量も膨大である。
しかし、私達は迷って選べないということはない。
選ぶことが出来ている。
「売れ筋」がなくなった訳でもない。
毎年、日経MJでは、「ヒット商品番付」が出される。
大きな「売れ筋」がある。
一方、大きな「売れ筋」ではないけれども、一部の消費者には、爆発的に支持を得ている小さな「売れ筋」もある。
「売れ筋」に至る消費者の「選択行動」。
そこには、消費者の「選び」の「筋」が潜む。
本稿ではこの筋を、「選び筋」として提唱し、どのような「選び筋」があるかを考察していく。
毎年多くの新商品が発売される。
−例えば、ローソンは、おにぎりの新商品を、1年間で100品目以上発売している。
商品の新旧交代も激しい。
−例えば、カップヌードルの現在の発売商品は15商品。その内7商品は、2008年発売の新商品。2007年発売の新商品は、10商品あったが、現在残っているのは3商品しかない。2007年より前の商品では、5商品しか残っていない。
店頭に並ぶ商品数も多い。1アイテムで多くの種類、ブランドの商品が並ぶ。
−例えば、ある郊外大型スーパーに並ぶ豆腐は26種類もあった。
新たな商業施設における出店数も多い。
−例えば、イオンモールの中で、最も大きく新しいイオンモール羽生では、250ものショップがある。
−例えば、エキュート品川では、全く店がなかった駅の中に、70店舗もの店が生まれた。
これほど多く生まれる商品、ショップを、消費者はどのように知るのか。
まず、CM、雑誌を見て。インターネット、フリーペーパー、街に流れるデジタルサイネージ広告‥。様々な方法から、認知をすることが出来る。次に口コミから。フェイストゥフェイスでの口コミもあるが、大きな伸びを示しているのが口コミサイトである。グーグルで「口コミサイト」を検索してみると、ヒットした件数は、20,400,000件にも登った。矢野経済研究所調べでは、口コミブログ広告は、2005年度5000万円から、2007年度は31億円に上るとされている。
「商品」はいっぱいある。「ショップ」もいっぱいある。これらを知る「情報源」もいっぱいある。そして、「口コミ」もいっぱいある。
これほどまで「いっぱいある」と普通は迷ってしまう。それでは実際、消費者は、どれほど選ぶのを迷っているのか。
そこで、先程あげた「豆腐」を選ぶ人が、実際どれだけ迷っているのか、郊外大型スーパーで観察調査をしてみた。結果は、26種類の豆腐が並ぶフェイスの前に立ち止まってから、豆腐を選ぶまでは平均3秒。この結果だけを見ると、迷っていない。
一方、店頭決定率は「8割」ということも言われている。店頭に行くまで、購入する商品を決めていない人が8割いるということである。では、店頭だけが「選ばれる」勝負の場なのであろうか。
商品購入プロセスのモデルとしては、有名なAIDMAの法則がある。1920年代にアメリカ合衆国の販売・広告の実務書の著作者であったサミュエル・ローランド・ホールが著作中で示した広告宣伝に対する消費者の心理のプロセスモデルとされる。AIDMAの法則は、1つの商品に対して、Attention(何かなと思って注意をひく)、Interest( 関心をもつ)、Desire( 欲しいと感じる)、Memory(欲しいと思った記憶を思い出す)、Action(行動)と、順を追って購入意欲が高まっていくことを示したものであり、Attentionを「認知段階」、Interest、Desire、Memoryを「感情段階」、Actionを「行動段階=購入」とする。このモデルからすると、店頭での決定(勝負)の前に、その商品への「認知」があった上で、「店頭で商品を見て欲しいと感じた記憶を思い出す」という勝負があるということである。
さらに、こういう調査結果もある。調査会社comScore Networksが実施した調査では、上位25の検索エンジンを利用して、家電やコンピュータ製品の検索を行ったユーザーのうち、実際に製品を購入したのは25%にすぎなかった。また、実際に購入した人の内、検索した直後に続けて製品を購入したのは15%のみで、残る85%は、その後、別のサイトセッションでサーチして、もしくは店頭でサーチして購入していた。
このように、「自分が興味のある条件を入れて検索し、選ぶ商品を絞り込んでいく」ネット検索システムは、
1.「注意(認知)」の段階がなくても、「興味」の段階からスタートさせることが出来る
2. 『1つの商品』に対する「注意」→「興味」‥だけではなく、『いくつかの商品筋』に対する「注意」→『いくつかの商品筋』への「興味」→‥と、『筋』で商品をとらえていくことが出来る。
ネット検索シテスムは、このような、新たな購買行動の形を促進する。
但し、先に見たcomScore Networks社の調査結果から見ても、
3.このような「ネットサーチ(検索)」は、「興味のある『筋』の発見と絞り込み選び」の手段であり、購入へと決定づけるものではなく、
4. 最終的に「選ぶ」かどうかは、更なる「ネットサーチ(検索)」もしくは、「店頭サーチ」をした結果、「これだ」と感じられるかどうか、「共感」を感じられたかどうか、にかかってくると言える。
また、このことは、ネット検索システムによる「選び」に限ったことではない。
−例えば、全く知らなかった商品を、店頭で見て「ちょっといいかもしれない」「試してみたい」と思うことがある。「I(興味)」の段階からスタートしているケースである。
−例えば、具体的に1つの商品を欲しいというものはないけれど、「ここに行ったら、自分の欲しいものが見つかりそうだ」と、興味の『筋』で絞り、その店に行って見ると、「共感する商品に出会えたので購入した」という場合がある。1つの商品からではなく、店頭にあるいくつかの商品の『筋』からスタートしているケースである。
このように、「ネットサーチ(検索)」「店頭サーチ」等、何らかの形で、「興味を持つ筋」を探して「選び」、さらにそこから「選んで」、「共感できる」出会いがあって、購入に至る‥というプロセスにおいては、「選び」→(「A. 注意を引く」→「選び」)→「I. 興味を引く」→「選び」→「D. 欲求」→「選び」→‥「A.行動(選ぶ)」というように、消費者の主体的な「選び」が、購入プロセスの段階で進展していくことが、重要なポイントであると言える。
逆に見ると、『売れ筋』になるには、この「選びが進展していく『筋』」の中に入っていなければならないということである。
では、先に示した、店頭決定率80% で、「豆腐を店頭で選ぶのは3秒」の事例を考えてみると、「A.注意を引く」→「I. 興味を引く」→「D. 欲求」→「M. 記憶」→「A.行動(選ぶ)」といったステップが3秒の間で目まぐるしく動くのであろうか。
勿論、そういう場合もあるだろう。だが、店頭で「A.注意を引く」以前に、前述の「選びの『筋』」により、選び方が決まっていて、スムーズな(短時間での)「選び」の行動になっている場合もある。
この場合、「選びの『筋』」とは何であるかを考えると、「決まった好みの商品のタイプ(味、素材、メーカー、ブランド‥)」という人、「決まったこの店に置いているもの」という人もいるだろう。「店員さんのお薦めがあるもの」という人もいるだろう。
ここで、もう少し、実際の消費者の声で事例をあげよう。
−例えば、ある「20代女性」は、「お昼は何にしようかな」と思ったら、何となく「セブンイレブン」に行っているという。何故かをよく考えたら、「セブンイレブンのお弁当やお惣菜は素材が安心と聞いたから。実際に見ても『保存料無添加』と書いたセブンイレブンの独自開発のお弁当・お惣菜が揃っていると思うから」である。この女性にとっては、「安心できる独自商品の品揃え」が「お昼ごはん選びにおいて優先する『筋』」である。
−例えば、ある「20代男性」は、「ちょっと足りなくなった細々したものを買おうかな」と思ったら、「Edyが使えるam/pmに行く」という。「細々したものはカードでは払えないし、小銭がジャラジャラ財布にたまるのが嫌だから」だそうだ。この男性にとっては、「Edyが使える」という「決済サービス」が、「細々したもの選びにおいて優先する『筋』」である。
−例えば、ある「40代女性」は、「ワインを買う」時には、「店員さんに相談をして、いろいろ教えてもらって知識を得た上で買う」という。この女性にとっては、「店員さん」という「人」が「ワイン選びにおいて優先する『筋』」である。
このように「選びの『筋』」は、単に「どの商品・ブランドの中から選ぶかという選択幅」や「どの店舗の中から選ぶかという選択幅」といった横方向の幅だけではなく、縦方向にもある、最終的に「選ぶ」ものにつながっていく『筋』である。
そこで、弊社では、上記のような消費者の主体的な「選び」の『筋』を「選び筋」と名付けた。
- 1. 購買プロセスにおける「選び」と「選び筋」はどのようになっているのか
- 2.「選び筋」にはどのようなものがあるのか
について、本号では、弊社消費者モニター調査と、事例研究を加えながら、その傾向を読み取っていく。
商品群による「選び」についてのプロセスや「選び筋」の違いを明らかにする為に、消費者調査を行った。
※商品群は多岐にわたる為、ここでは、男性も女性も選ぶものを対象とした。「食」の中から、「清涼飲料水」「乳製品」「ガム・キャンディ・駄菓子」「ケーキ・スイーツ」の4つを、「日用品」の中から、「洗剤」「スキンケア用品」「文房具」の3つを、「衣」の中から、「靴下」「靴」の2つを、「住」の中から、「家電製品(AV機器・IT機器除く)」「AV機器・IT機器(オーディオ、パソコン等)」の2つを抽出した。
店へ行く時は、「具体的に選ぶ商品を決めて行くか」、もしくは「店に行って具体的に選ぶ商品を決めるか」を聞いたところ、図表1のように、どの商品群についても、ほぼ6割以上が、「店に行ってから具体的な商品を決める」とした。特に、「靴下」「文房具」で高かった。一方、少し低かったものは、「洗剤」「スキンケア用品」、そして、「家電製品」「AV・IT機器」であった。
これらの結果から見ると、「スキンケア用品」「洗剤」や「家電製品」など、「安全性や自分(の肌)に合うことが懸念されるもの」や、「機能パフォーマンスを求めるが、実際に使ってみないと、わかりにくいもの」は、「具体的に選ぶ商品・商品イメージを持って店へ行く人」が多くなる。逆に、「文房具」「靴下」など、「色・デザイン等見た目が重要なもの」は、「店に行ってから具体的な商品を決める人」が多くなる。
一方、男女で比べると、より女性の方が、「店に行ってから具体的な商品を決める」とした人が多くなった。但し、「店に行ってから決める人」の中でも、「家電製品」「AV・IT機器」が「男性」では低く、「スキンケア用品」は「女性」で低くなった。このことから、店頭で見ただけではわからない、商品の細かなスペックや成分・効能にこだわりたいという場合(人)は、店頭だけでは決めないという傾向が読み取れる。
次に、選ぶ商品は、どれぐらい固定しているのか、いろいろ選ぶ率はどれぐらいあるのかを、先と同じ商品群で調べたものが図表2である。
結果、「いろいろな商品を選ぶ」人が、どの商品群においても、6割以上を占めた。このことから、「いろいろな中から選べる」ことの重要度が読み取れる。
また、女性の方が、「いろいろ選び率」は更に高くなった。
この「いろいろ選び率」を、前頁の「店頭決定率」とのマトリックスで見たものが図表3である。
A.「店頭決定率」「いろいろ選び率」ともに高い象限。最も多くの商品が該当する。
B.「店頭決定率」が少し低いが「いろいろ選び率」が高い象限。いろいろ調べた上で、店頭で決める人が多い商品群である。「AV・IT機器」「家電製品」が該当する。
C.「店頭決定率」が高いが、「いろいろ選び率」が低い象限。事前に選ぶものを決めていないが、結果的には決まったものを選ぶことが多いものである。「乳製品」が該当する。
D.「店頭決定率」「いろいろ選び率」とも低い象限。店頭に行く前から選ぶものは大体決まっていて、迷わず選ぶ人が他より多い商品群である。「スキンケア用品」「洗剤」が該当する。
このように、「いろいろ選ぶ」にも、その選び方には傾向があり、ここに「選び筋」が存在する。それでは、どのような傾向があるかを次に見てみる。
※本提言論文は、「営業力開発」誌 2008・No200号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:マーケティング・コミュニケーションズ)へ掲載されています。
“「選び」についての消費者調査”の章は3項、4項へ続きます。また誌面では以下の様な全体構成になっています。
T.変わる「選択行動」
U.「選び」についての消費者調査
V.「素材価値」を求めての選び筋
W.「コミュニケーション価値」を求めての選び筋
X.「品揃え価値」を求めての選び筋
Y.「人的価値」を求めての選び筋
Z.過ごす「時間価値」を求めての選び筋
[.「サービス価値」を求めての選び筋
\.多様化する「選び筋」をとらえる
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