08年に5年ぶりの前年マイナスに陥った広告費が低空飛行を続けている。
08年前年比4.7%のマイナス、09年さらに状況は悪化し、88.5%という衝撃の数値となった。07年対比で約1兆円、15%強の予算を失った。
特にマスコミ4媒体の低下がひどく、新聞は08年87.5%、09年81.4%、雑誌のそれは88.9%、74.4%である。テレビ広告も長期低迷から抜けきれない。05年以降7年連続マイナスで、ついに09年は89.8%にまで低下した。(電通調べ)
景気=GDPの影響を受ける広告費は、先の見えない消費不況を背景として厳しい環境が続いている。
主要メーカーの広告費は軒並み削減対象とされ売上に占める広告費のウエイトが低下している。反面、トレード(取引)を中心とした販促費は増加傾向にある。
09年のメーカー決算は、値上げラッシュだった08年の反動により「原価率」が低下し、一息ついた格好であるが、再度原料高の予兆がある状況下で今後の広告費はさらなる試練にさらされる。
広告費が景気や業績に左右されるようになったのは、投資に対する成果=リターンが明確ではないからだ。
さらに、広告メディアがマス、特にテレビ広告一辺倒になっていた点もクライアントのマーケティング課題からすれば部分的であった。
ドンシュルツの「統合マーケティングコミュニケーション=IMC」を受けて、顧客起点で目標と戦略を明確にして、コミュニケーション手段を統合する手法が提唱され、活用メディア、メッセージは多様に膨れあがった。
その中で、大規模なキャンペーン告知をメインテーマとしてマス広告、インターネット、店頭を巻き込む「広告手法」が注目を浴びた。
古くは95年、3400万通の応募を得た「ジョージア・やすらぎパーカープレゼント」があり、同年の「サントリー・BOSSジャン当たります」があった。その後、毎年1000万通を超えるキャンペーンが出現した。
98年「史上最高100万人に当たる・キリンビール・復刻ラガープレゼント」が1500万通を得て、以降、ビールメーカーが毎年1000万通を超える大型の広告・プロモーションを展開した。
「広告」と「販促」の融合したケースであるが、その後、メディアミックスの相乗効果を重視する「クロスメディアマーケティング」が提唱され、ますます「統合・融合」がコミュニケーションの課題となった。
しかし、それでもまだ足りなかった。デジタルメディアの発展や生活者の情報行動の変化によって、「広告」がどのような課題の解決力があるのかが見えにくくなった。
特に、民放の視聴率低下によってテレビ広告の投資効果がますます分かりにくくなった。
「広告よりは、より売りの完結に主眼をおいた」プロモーションも同様な課題を背負っている。先に見たように「広告費」に比較して「販促費」は増加傾向にあるが、現実は「値引き原資」、小売や卸への利益補填が大きいというだけである。
96年オープンキャンペーンで1000万円が解禁となった景表法は、06年その上限を撤廃し、ベタ付けで20%、応募抽選で20倍にまで引き上げられたが、「プレミアムキャンペーン」の活性化には繋がっていない。先の広告費の内訳にある「プロモーションメディア広告費」も09年には11.8%の減少となっている。
「売りの完結」を目的としつつも、その実現のためにどのような課題解決が可能なのか、「価格」を超える「役割」が明確になっていない。
09年、プロモーション活動を支えてきた「日本
POP協会」は「日本プロモーショナル・マーケティング協会」に名称を変更し、「ブランドの顧客開拓と維持のために、限定された期間に、消費者、小売業者あるいは卸売業者に向けた直接的購買動機付けを中心にするマーケティング活動」を担うと宣言した。
もとよりプロモーションで商品価値を上げることは出来ないが、商品価値を伝えることはできる。マーケティングが「顧客の好意と購買」を勝ち取る技術ならば、その一員であるプロモーションも「購買」だけではなく「好意」を得るという役割を担うことになる。
ロイヤルティ顧客を育成するプロモーションの方法論としていくつかの実証が得られている。
@繰り返し購買の実現=当然のことではあるが、何度もリピートを繰り返していただければロイヤルティは増す。クローズドキャンペーンを中心として「リピート促進」の手法は豊富にある。
特にベタ付け、応募抽選の上限が10%、10倍から20%、20倍に引き上げられたことにより、繰り返し購買を条件とすることで高価なプレミアムを提供できる。
A早期トライの促進=リピート率を高める手法として、できるだけ早い時期にトライアルを得て商品価値を認識していただくという方法がある。特に新製品は、早い時期のトライアル層ほどリピー
ト率が高くなる。逆に、需要ピーク時には特売など「価格訴求」が頻繁に行われ、価格のハイ&ローによって商品価値認識がブレるため、「低価格」での購入者のリピート率は低くなる。
早期トライの促進方法として、「予約」「早期特別キット・限定品」などがある。特に化粧品の新製品では多用されている。
Bストアロイヤルティとブランドロイヤルティ=特定ブランドのロイヤルティが高まるにつれて、特定店舗のロイヤルティも高まる、ということが言われている。もともと、日本のチェーンストア
の成り立ちはNBの品揃え強化で、「あの店に行けば信頼できるNBが必ずある」というストアの安心感をベースに、ブランドとストアのロイヤルティを高めていた。
「同じ商品を同じ店で購入していただくこと」がメーカーにとっても、ストアにとってもメリットがあった。この前提があって、近年では「チェーンオリジナルのキャンペーン」が増加している。「協働取り組み」の約束によって、商品の定番維持と露出を確保している。(図表1参照)
C計画購買率の向上=雑貨、食品では「非計画購買」、衝動買いのウエイトが高いと言われているが、ブランド育成の視点からすれば「指名買い」の比率を高めたいところだ。
「チラシ」はチェーンにとっては集客を多くする目的で発行されているが、メーカーからすれば「指名買い」を増やすのが目的である。チラシの掲載内容も従来のように「価格訴求」ばかりではなく、メニュー提案・歳事提案が増えている。
最近ではレジクーポンのように、指名買いを増加させブランド育成を目的とするシステムも開発されている。
DクロスMD=一方で、「非計画購買」に依拠しながらブランド力を高めていく手法としてクロスMDが重視されている。
一般的にはエンドや定番での関連陳列であるが、ブランド育成に有効な方法として「多ヶ所陳列」がある。有名なブランドとしてサントリー「黒烏龍茶」、グリコ「チーザ」がある。最近では明治のチョコレートがいろいろな売場で関連陳列を実現している。
ブランドとストアロイヤルティの注目すべき事実がある。チェーンサイドでは粗利益率の向上と価格訴求力の強化のためにPB(プライベートブランド)を強化しているが、そのあおりで数多くのNBがカットされている。その結果、NB目当ての顧客が、そのストアから姿を消す、つまり客数減少の要因になっているという事実である。確かに、09年度の小売決算では客単価の減少のみならず、客数までも減少しているチェーンが目立って多い。「ストアロイヤルティ」と「ブランドロイヤルティ」の関係について、十分に留意する必要がある。
マーケティングの役割が「市場と顧客を創造する」にあるように、プロモーションでも「需要創造の役割」が重視される。
@客層拡大=ブランドは商品コンセプトの要素として「ターゲット」を定めている。そのターゲットを拡大し、新しい需要層を創造する目的でプロモーションが実施される。多くの場合、客層拡大を目的とした新製品開発と並行して、プロモーションが投下される。
客層拡大の教科書とも言えるのが「グリコポッキー」である。1966年スティックにチョココーティングをしたポッキーは「子供向け」に「持つとこあるよ」というシンプルな機能訴求でスタートする。75年には「ポッキーオンザロック」で30-40代男性」を狙いとし、88年には「マーブルポッキー」で「キャリア女性」、近年でも「デザートポッキー」「ポッキークラッシュ」でこの層をターゲットとした。
そして09年「Stick to fun! Pocky 〜いつも楽しいことといっしょ!〜」で女子高生をターゲットとして「デコレーションポッキー」の世界をプロモーションしている。
A場面の拡大=商品の利用場面の拡大も新しい需要を生み出す。この市場創造で最も重要なことは「場面の理解」=新しい重要場面での通念を超えた新しいトレンドを理解することである。
ハウスの「朝カレー」がこのケースに当てはまる。若い男性で朝食を抜く率が高くなっていること、カレーを食べると脳が活性化すること、イチローが毎日朝食と昼食を兼ねてカレーを食べていることなどの「理解」と「情報発信」が場面の創造に寄与した。
Bカテゴリーの拡張=「朝カレー」は「朝食」というカテゴリーを豊かなものにした。あるカテゴリーに新しい種類の商品、楽しみ方が加わることによって、そのカテゴリー全体が活性化することがある。最近では「鍋物」がそれに当たる。
09年は「トマト鍋」が新しく加わった。08年は「カレー鍋」、07年は「キムチ鍋」であった。毎年のように新しい鍋メニューが加わり、「鍋物カテ
ゴリー」はどんどん楽しいものになっている。
C用途価値の拡大=「楽しみ方の拡大」といってもよい。固有の楽しみ方以外に、新しい用途を提案し商品価値を上げる方法である。
サントリーは「ハイボール」でウイスキー市場を活性化し、久しぶりに前年を上回った。
D価値転換=ローソンが発売した「プレミアムロールケーキ」は1ヶ月で600万個の大ヒットになり、モンドセレクションの金賞を受賞した。「堂島ロール」など専門店で話題になっていた価値を、CVSという量産量販の価値に転換し、「巻かないロールケーキ」「スプーンで食べる」「『驚きの商品開発プロジェクト』で作ったスイーツ」などというコミュニケーションうまさを伴って需要の創造に成功した。
マーケティングコミュニケーションの手段であるプロモーションが、同じ役割である広告と異なるのは、常に「顧客との情報交換」が行われる接点で機能しているという点である。その意味で、プロモーションの方が顧客とは近い。
顧客との関係をより強めるという役割はプロモーションの最終目的でもある。
「1000万通を超えるマスプロモーション」において、売りの現場=店頭では顧客とのきめ細かな情報交換が行われていた。キリンビールの「選ぼうニッポンのうまい!」は、全国キャンペーンで47都道府県の「うまいもの」が各々1000名に当たる、都合47000名の当選者を生む大型キャンペーンであるが、各地では特定チェーンとのオリジナルなプロモーションが同時進行していた。例えばイオンとは「地域のおいしい食材プレゼント」で全国10ヶ所の食材が各々100人に当たり、西友とは「産直グルメプレゼント」で300名が、河内屋では「イチオシ特産品プレゼント」で300名が当たるキャンペーンを展開している。
さらに、各地で支店が主体となって地域の食材とのタイアップを推進していた。
こうしたチェーンオリジナル、エリア主導のスタイルは、競合するアサヒ、サントリー、サッポロにも引き継がれた。
アサヒは「うまい!を明日へ」で、全国47都道府県ごとに自然や環境・文化財の保護・保全運動に1缶・1瓶に1円を寄付するキャンペーンを開始した。この結果、09年12月調査ではスーパードライの購入意向率が5月より19%も上昇したという。
サントリーも各地でチェーンオリジナルのプロモーションを展開しており、「金麦」では「全国5エリア人気花火大会の特等席プレゼント250名」を実施している。
サッポロビールでは、「厳選お取り寄せ・贅沢な方 家飲みセット」や「これぞキレ味カレーを選ぼう」「サッポロクラシック・ONLY北海道キャンペーン」など地元食材とのタイアップを展開している。
こうした個別商圏を軸としたエリアプロモーションの取り組みは、ローカルな農産物の「ブランド化推進運動」と符合している。「地産地消」や「食育」「FOOD ACTION NIPPON」など行政の取り組みに連携しながら独自性を発揮している。
カルビーはじゃがいもの生産農家と連携して「農業・エリア」を意識しているメーカーとして有名である。全国キャンペーンとしては「堀だそう、自然の力・大収穫祭」で大収穫バッグととれたてじゃがいもが72000名に当たる。各エリアでは地域限定商品を発売している。滋賀では滋賀県産じゃがいもだけで作る「しがじゃが ほんのり塩味」を、北海道では生産農家を限定した「北海道美瑛町産ポテトチップス」を発売している。北海道限定商品では大人気となった「じゃがポックル」があまりにも有名である。
地産地消商品の取り込みはメーカーでも進んでいるが、山崎製パンでは安城市のJAあいち中央と黒柳製粉などと地元産米を使った「三河の米粉入りパン」を発売、関東地区では茨城県産のごぼうを使った「ランチパック茨城産のごぼうのサラダ」を発売している。
こうした地域限定商品の発売も、プロモーションの一手段となっている。
地域・ローカルの取り組みは、接点である小売が強化課題としているテーマである。継続する既存店の前年割れに悩む小売チェーンにあっては、店舗商圏顧客との絆はまさに自らの課題である。小売チェーンの課題解決に協働しながら、メーカーとしてのブランド育成のために店頭が強化されている。(図表2参照)
店頭を強化する上でWEBが重要なメディアとなっている。価格比較を含め商品選択のメディアとしてWEB情報が手がかりとなり、「計画購買率」を高めるメディアとしての位置づけを確保している。
ビルコムによれば「買い物前にネットで情報収集や比較検討をしたことがある」と答えたのは92.3%。家電で82.9%、旅行・ホテルの64.2%は当然ではあるが、「食品・飲料」でも51.9%、コスメの30.2%より多くなっている。(コスメは男女平均の数値であり、女性だけに限れば倍近くになる)
コカコーラでは650万人が登録されているファンのポータルサイト「Coca-Cola Park」を開いており、ファン同士のコミュニティの他、様々なコカコーラ情報を提供している。
かっては、購入前の選択情報はTV広告の記憶(メモリー)が頼りであったが、今ではその位置をWEBが占めている。
一方でネット通販の市場が成長しており、購買接点としてもWEBは重要な強化対象になっている。
プロモーションの「役割」について触れてきたが、基本は「購買接点を起点として、信頼に耐える情報交換を行い、ブランドの育成と市場創造を実現する」ということにつきる。その課題解決のための手法が検証されている。
※本提言「顧客との絆を創る」は、「営業力開発」誌 2010年・No207号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:チャネルマネジメント)へ掲載されています。
尚、誌面では以下の様な構成です。
「顧客との絆を創る」
T. 市場収縮下のプロモーションの役割
U. 消費者との絆を作るプロモーション展開
V. 地域密着で社会貢献を身近なものに
W. 「金麦」に見るキャンペーン成功の方程式
X. キャンペーン実施動向と顧客の反応
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