口コミが注目されている。
1.「もうCMでは売れない。口コミが売れ筋をつくる決め手となり始めた」という論調もある。口コミは、商品選択の決め手としてどれぐらいのパワー(比重)を持つのか。
2.大辞林によると「口コミ」とは、「口から口へ伝えられる評判」であるが、ネットが普及する現在では、口で喋らずネットに書き込むことも、口コミと言われている。では、口コミの持つ本来的意味は何なのだろうか。
3.弊社で運営している生活者情報サイト「オピネット(opi-net)」には、会員に特徴ある商品を使ってもらいその評価を聞くコンテンツ、会員からの自発的なお薦め情報を投稿してもらうコンテンツがある。取り上げる商品・サービスは、弊社スタッフ、もしくは会員が面白いと思ったものであり、従って、このコンテンツで口コミを高めようという目的は持っていない。ところが、どこに売っているのかという問い合わせ、実際に購入してよかったという声、詳しく知りたいので取り上げて欲しいという要望など、良い意味での反響は様々にある。どうしてなのか。また、オピネットの情報で購入した人は「口コミ」で購入したと言えるのか。
4.口コミはネットワークコミュニケーションの1つであるが、これをコントロールすることはできるのか。
今号では、以上の4つの疑問から始まり、これらを解くキーワードを探すために、オピネットを使った生活者調査研究、企業事例研究を行った。そして、最後に「巻きコミマーケティング」としてポイントをまとめた。また、「巻きコミマーケティング」は、始めたばかりの研究テーマであるが、新しいマーケティング体系の1つとして、本号を出発点に、今後もさらに深めていくことを考えている。
長い間商品や企業の宣伝媒体は、テレビ、新聞、雑誌、ラジオの主要4媒体だった。インターネットの急激な普及は誰の目にも明らかであったが、2004年にインターネット広告費がラジオを上回り1814億円に達した時は、衝撃的なニュースとして受け止められた。その後2005年の広告費は、主要マスコミ4媒体計0.7%減に対して、インターネット54.8%増と続伸している。(*1)
2000年以降、インターネットを中心とするネットワーク環境が揃い始め、メール、HP、ブログ、ソーシャルネットワークなど、簡単に利用できるネットワークサービスも充実してきた。インターネットは、これまでの媒体と異なり、最新の情報をいつでも見ることが出来る。非常に多くの情報の中から検索し、自分の好きな情報を選ぶことが出来る。これまで出会うことがなかった人、出会うことがなかった情報についても接することが容易に出来る。商品やサービスについての詳しい情報は、企業のHPを見れば分かる。ネットコミュニティ、ブログ、製品評価サイトなどで情報の相互交換も簡単に出来る。
それ以前の口コミというのは、利用した一部の人が、知人・友人などに、出会った時に喋るということが中心であった。欲しいものがあったり、聞きたいことがあったりしても、利用した人と出会うことは難しかった。ところが、インターネットであれば、知人・友人ではない人からでも、利用した人を探しやすいし、利用してどうだったかという話も聞きやすい。
さらに、これらのインターネットの浸透以外に、口コミの影響力が強くなった理由を、日経ビジネスでは次のように分析している。(*2)
@マス広告の効果減退
氾濫する広告に対する消費者の不信感が強まり、CMに代表されるマス広告の効果が減退した。
A消費行動の保守化
消費者の身の回りには、既に必要なモノが揃い、あえてする買い物で失敗したくないという意識が強まった。
B商品の複雑化
デジタル技術の進歩などで、商品の機能が複雑になり、全てを理解するのが難しくなった為、他人の評価や体験談に頼るケースが増えた。
商品・サービスの善し悪しを測るものは、店頭、情報カタログ、パッケージ記載情報やPOP、企業発信情報等、いろいろある。それなのに、何故口コミなのか。他と何が違うのか。
商品・サービスの口コミであれば「実際の商品を使った人」「サービスを体験した人」からの情報であるし、地元の口コミであれば(例えばマンションを検討している時に、周辺の環境はどうか等)「その地域(現場)にいる人」からの情報が有効である。また、直接的に使ったことがない人でも、「○○さんが使っていた」「クラスでは○人は持っている」といった情報も有効な口コミである。企業や店が出している情報を信用しないこともないが、中立的かどうか判断しにくい部分がある。また、これらの大半は全ての人に向けた情報である為、「自分にはどうなのか」ということを知りたいところである。少し蛇足になるが、弊社、オピネットでは、評価者のプロフィールが分かるようにした上で、実際に利用してもらった商品の評価を記入してもらっている。冒頭、これらの商品評価情報に対し、購入の問い合わせもあるということを書いたが、「自分と近い人の評価かどうか」を判断できるところが大きいのではないかと感じている。
一方、口コミには、限界もある。
まず、全てのことを口コミ情報をもとに選択・購入することは出来ない。いくらネットで簡単に検索できるといっても、これだけ多くの商品がある中、全てのことを検索する時間はない。
2つめに、そのお薦め情報を出している人により評価が左右されることである。特にネットの場合は、どんな人が書き込んでいるかは分からないものも多々ある。本当にその人は使っている人なのか、使った人でも、少ししか使わず評価をしている人ではないか、分からないこともある。
3つめに、正しい情報を得た上での評価かどうかがわからない。例えば、口コミの評判は良くなかったが、それはその人の使い方が間違っていたからという場合もある。逆に、口コミより企業に情報を確認する方が正しいことが得られるかもしれない。
4つめに、商品やサービスは多面的な要素から構成されているが、口コミで伝えるのは、それらの商品やサービスを売る為ではないので、情報は断片的になりがちである。例えば、Aという掃除機を買った人に、同じ掃除機が欲しいので良いかどうか聞いたところ、「よく吸って良い」という答えだった。そこでそのAという掃除機が一番安いところをネットで見つけて、遠いところまで買いに行ったが、実際に見て使ってみると、自分には重過ぎて使いづらく買わなかったというケースである。この情報をくれた人は、間違った評価をしている訳ではなかったが、掃除機の重さにはこだわっていなかったからその情報は伝えなかっただけである。
5つめは、すでに口コミでいろいろな情報を得ていると、店頭で見てインスピレーションを感じたり、店頭で新しい発見があったり、店員さんと話をしている内に今まで知らなかった良いものをお薦めしてもらったり‥というような楽しみがなくなりがちということがある。(但し、早く買いたい、楽しんで買うことは求めないという場合もあるので、その場合は関係ないが。)このように、口コミ情報は、有用である場合とそうでない場合がある。
口コミ情報は、「利用した顧客」のおススメ情報であるが、オススメ情報には、「口コミ情報」だけではなく、「店員」「店頭POP」「専門家」等からのオススメ情報も、商品・サービス検討時には、有用な情報となる。
そこで、ここでは、口コミとは言わず、「オススメ・コミュニケーション」と言うことにし、生活者の間では、どれくらい「オススメ・コミュニケーション」が起こっているのか、どんな時に有用と感じられるのか等の実態について、弊社オピネット会員において調査・分析を行なった結果が、次頁以降である。
※なお、口コミというのは「良い・オススメ情報」と、「良くない・オススメしない情報」がある。本稿においては、新しいマーケティングの体系を見つける為に、「良い・オススメ情報」をいかにつくるかという方に絞った。
*1:電通「2005年日本の広告費」
*2:日経ビジネス2005.5.9
商品・サービスの選択において、「どれくらいオススメ情報を参考にするか」について聞いたところ、図表1のように、「オススメ情報をよく参考にする」という人が50.3%にもなった。属性別に見ると、「よく参考にする」人は、男女ともに、「未婚」の方が少し高かった。「男性」と「女性」では「女性」の方が少し高かったが、それほど大きな差ではなく、「男性・未婚」では、「女性・既婚子供有」より、「オススメ情報をよく参考にする」という人が多かった。逆に、「あまり参考にしない」「参考にしない」は、合わせて10.4%と少なかった。
ところで、「オススメ情報」と言っても、いろいろなものがある。上記のように、オススメ情報を参考にしている人は多かったが、どのような情報をどれくらい参考にしているのだろうか。そこで、「どのような」オススメ情報を「どれくらい見聞きし」「どれくらい参考にしているのか」について、各々4段階で聞き、それを指数化したものが図表2である。この図にある斜め線は参考率(参考度/情報の接触頻度)を示しているが、どのオススメ情報もほぼ同じぐらいの参考率となっている(ほぼ同じ線上にくる)。
このことから、商品・サービス選択において、生活者は様々なオススメ情報を参考にしていることがわかる。(注:ここで示している情報源は「オススメ情報」に限定している。例えば、「テレビ・ラジオ」「新聞・雑誌」「コミュニティ誌」は、これらの媒体により告知されるもの(広告等)全てを含むものではなく、これらの媒体におけるオススメ情報に限る。)細かく見てみると、「テレビ・ラジオ」「新聞・雑誌」のオススメ情報は、『接触度』は高く、その意味で到達パワーは高いが、『参考率』としては少し低い(B象限)。逆に、『接触度』は高くはないが、『参考率』が高いのが、「会員限定のネットコミュニティ」「ネット満足度ランキング」といったインターネット上でのオススメ情報と、「地域・近所の人」「店員」といったリアルでのオススメ情報である(C象限)。また、『接触度』が高く、『参考率』が最も高いのは、「友人・知人」(D象限)。従来の「口コミ」というのは、「友人・知人間」の「口」で交わされるオススメ・コミュニケーションであり、そのことが最も高く出たという結果である。が、前章でも述べたように、インターネットの普及により、生活者間のコミュニケーションの範囲と内容は大きく変化しており、口コミ=「友人・知人間」の「口」で交わされるコミュニケーションに留まらない。例えば、コミュニケーションは「ネットでのつながりのある知人」「仲間のそのまた仲間」も含まれる。例えば、D象限に「達人・専門家」が入ってきているが、これまでは遠い存在であった「達人・専門家」のオススメ情報もインターネットにより簡単に手に入り、「達人・専門家」とブログ等でコミュニケーションをはかることも出来るようになった。例えば、「店員さん」は当たり外れはあるし、お得意様にならないと、なかなか「店員さん」からの情報は得ることは出来ないが、インターネットでは、「ショップHPでの店員さんからのオススメ情報」や「ここの店員さんは良いといったオススメ情報」を知ることが出来、より身近な存在に感じられてくる。
さらに言えば、例えば、「達人・専門家がオススメしているものです」という「店頭POP」や、「達人・専門家」の「テレビ・ラジオ」でのオススメ、「ネット満足度ランキングで一位でした」という「店頭POP」など、これらのオススメ情報は、相互につながり、また、生活者自身が相互につなげて有効な参考情報にしている。但し、これだけ多くのオススメ情報を、全ての商品・サービスの選択において、見聞きし、参考にすることは難しい。では、どのような場合に、オススメ情報を参考にするのかについて見ていく。
「どのような場合にオススメ情報を参考にするか」を示したものが、図表3である(「参考にする」とした人が60%以上の項目を表示)。高かったものをまとめて、その傾向を見ると、
@現時点では自分では出来ないこと、自分でする前に得たいこと‥「新しくチャレンジする未経験のもの」「地元の人しか知らないもの」など。
A現物や説明を見聞きしただけではわからないもの‥「使わないと使い勝手がわからないもの」「食べてみないとわからないもの」「サービスを受けてみないとわからないもの」など。
B特別なもので、それに対する期待を裏切られたくないもの‥「限定品」「高額品」など。
つまり、「利用に対して期待があり、その期待を裏切られたくない、裏切られる前にリスクを回避したいもの」で多くなっている。自分が本当に利用する段になって、後悔しないように、・「現物」は本当にどうなのか・実際利用の「現場(シーン)」ではどうなのか・実際に「現体験」している人はどうかについて、事前に知った上で、商品・サービスをもう一度詳しく検討したり、迷っている選択(購入)の結論を出したりする為に参考にするのである。
企業が顧客の声を聞いて、商品・サービスの開発の参考にしているのと同様に、顧客側も、他の人の声を聞いて、商品・サービスの選択を決めているのである。
そこで、「どのような人」の声を聞くのかが問題になる。聞く人を間違うと、参考にならないばかりか、逆に、裏切られることにもなりかねない。そこで、「どのような人」からのオススメ情報であれば聞くのかについて見ていく。(・・以降この稿続く)
※本提言論文は、「営業力開発」誌 2006・No191号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:マーケティング・コミュニケーションズ)へ掲載されています。誌面では以下の様な構成にて続いております。
(2)生活者の間で起こっているオススメ・コミュニケーション
(3)企業が取り組む口コミ促進活動
<ケーススタディ>
■任天堂 共通コミュニケーションツールで顧客をつなげる
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■ファイテン 元気にする力をつなげる愛用者
■フェリシモ しあわせをつなげるカタログ
■ルミネ お客さまに選ばれる感動接客でファンをつくる
(4)巻きコミマーケティング
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