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コラボレーションによる売場活性化

 相変わらず不景気な現象が蔓延している。政治や経済の情報だけを頼りにすると、日本はすぐにでも沈没しそうな気がする。 それはそれとして、実務の社会では明るいうねりがある。「売場の復興」である。
 02年8月期のGMS・SM中間決算において「既存店売上」がプラスに転ずるチェーンが目白押しである。
 イトーヨーカ堂始め、数多くのチェーンが泥沼から這い出している。依然としてマイナスのチェーンにおいても、01年の中間決算よりは大きく改善されてきている。通年でどうなるかの懸念はあるものの、「売場」という顧客接点が「復興」し始めていることは事実である。
 今年9月、酒類免許が実質自由化される。酒の売場は膨大に増えるが、業態・チェーンにおいては「免許バブル」に翻弄されることなく、慎重にMDが考えられている。
 本稿では、活性化しつつある「売場」について、その要因、条件を探ってみた。その結論は、流通とメーカーとのコラボレーションにあるとしている。その機能・スキル・能力の高さが今後の「勝ち残り」を決めるとしてみた。
 合わせて、本稿では、02年12月、03年1月のGMS・SMの33店の店頭調査から、「売場」の実態と、流通・メーカーのコラボレーションをピックアップしている。
 限られた店舗であるが、活性化している売場の実態と課題が鮮明になっている。
 世の中の動きは大変気になるところであるが、我々の使命は、顧客の「期待」を喚起することである。その満足を得ることである。決して、「売価」だけではない。そのことを確認するための参考となるはずである。

T.復興する店頭活力 消費抑制を打破する「勝ち組」の売場

■依然として低迷する消費

 2002年の勤労者の家計消費支出は、実質で前年比0.2%の減少となり、5年連続で減少し続けている。
 特に高額な耐久消費財での落ち込みが顕著で、自動車購入費は16.4%と大幅なマイナスとなっている。
 ボーナス収入がマイナス6.5%となった影響を受けてか、12月の消費支出は3.5%減となり、通年でのマイナスにつながった。
流通業の実績もおもわしくない。日本チェーンストア協会発表では、12月の販売額は既存店舗調整後マイナス4.2%の減少となっている。特に住関連品、衣料の低迷が目立っている。
 消費の低迷は依然として顕著であるが、多分に心理的な抑制効果が強くでているものと見られる。バブル崩壊後、金融・土地など資産デフレは一挙に加速したが、消費がマイナスに転じたのは、その後、98年からである。山一証券、長銀など金融崩壊が顕著になった時である。
 金融・土地など資産価値の長期的な低下が、世の中、特に生活に対する将来的な不安感を増長させている。相変わらず先が見えない資産デフレの進行と、その影響による先行き不安により、消費が低迷しているというのが現実である。
 平均で見れば消費は低迷しているが、リストラによる失業者の増加や、過剰な売価競争の進行による消費金額の減少などを加味すれば、依存として日本の消費は活発であるとすることもできる。
 多くの実務家が指摘しているように「消費を活性化する魅力のある商品開発、売場、売り方が、まだまだ不足している」という認識に立つべきであろう。

■既存店プラスに転じたチェーン

 流通業の2002年度中間決算で大きな明かりが見えた。
 イトーヨーカ堂が既存店売上げで2%の増収となった。中間決算では10年ぶりのことである。
 上半期で20店舗の改装計画を、前年並みの36店舗に拡大し、通年では48店舗に踏み切るとされている。中間期末時点の178店舗に対して27%の改装店舗比率である。
 既存店増収に寄与したのは改装ばかりではない。食品に対面販売を取り入れ、バラ売りなどを強化している。さらにチームMDの強化によるオリジナル商品の開発などが寄与し、買上点数がフタ桁増となっている。
 GMS・SMの既存店売上げがプラスになったのは、イトーヨーカ堂の他に、イズミヤ(+0.1%)、九州ジャスコ(+4.9%)、マルエツ(+1.7%)、ヨークベニマル(+0.2%)、カスミ(+8.2%)、ユーストア(+0.3%)、タイヨー(+1.0%)、ヤオコー(+6.7%)、サンエー(+1.6%)、エスエスブイ(+1.4%)、マックスバリュー東北(+0.2%)、エコス(+0.2%)、ベルク(+7.0%)、アオキスーパー(+0.7%)、丸久(+3.7%)、オオゼキ(+3.0%)、ハローズ(+1.4%)、マツヤ(+4.6%)などとなっている。
 サミットも2002年度決算で、既存店2.7%の増収となっている。
 既存店でマイナスとなったチェーンでも、そのマイナス幅は昨年に比べ大幅に改善されている。イオンでは、既存店マイナス0.7%であったが、昨年に比べ2.2%の改善となっている。ダイエーでも昨年に比べ6.3%改善されている。
金融、ゼネコンと同じように「不況業種」とされる流通業ではあるが、「本業収益」に関する限り、「復興」の兆しが顕著になっているといえよう。

■MDの改革による売場活性化

 GMS・SMの「復興」は、自社のコアコンピタンスを鮮明にするところから始まっている。ダイエーが総合家電売場をなくすことを表明したが、何も「撤退」ではない。GMSという「何でもあり」の売場・店舗からダイエーのドメインを明確にしたことによる「当たり前」の結論である。
 SMでは、「食品・食生活強化」が大きな成果となっている。SMの売場構成においては、次章で述べているように00年以降の新店・改装店で、食品売場が拡大され、非食品の売場は減少している。
ただし、非食品の中でも調理に関連する「台所消耗品」の売場は拡大している。SMの「食生活」重視という観点が、「先行き不安からの消費抑制」を吹き飛ばしているといえよう。

II.商品開発におけるコラボレーション 「脱低価格PB」 − 統合MDの投入

■集客力ある「デパ地下」協働

 低迷する消費にあっても、「食」は健闘している。2002年の家計支出で伸びているのは「食」と「教養娯楽」だけである。
GMS・SMにおいても「その他食品(加工食品)」は10ケ月連続増加となっている。
 「食」を巡る話題では、「デパ地下」が相変わらずブームである。百貨店における「食品」は、バブル崩壊後、急成長し、全体売上げの1/4を占めるまでに至っている。
 従来は、単純なテナント誘致に留まっていたが、昨今では百貨店としての統一MDが発揮されている。
 「デパ地下元祖」と言われる銀座プランタンでは、20代女性をターゲットに、食品売場の半分を「デザート」として、毎月「デザートテーマ」を設定し、それにふさわしい商品を各テナントに開発させている。さらに、その開発商品のコンテストを行い、毎月表彰している。
 ちなみに、2002年のテーマは、
 1月〜 串を使ったデザート
 3月〜 紅白菓子合戦
 4月〜 只今、春の海藻中!などであり、年間「ベストスイーツ」は「アルハート・銀座の生ドラ」であった。
 いわば、百貨店側とテナントが協力しあい、「デザート売場全体」のMDを協働しているのである。昨年末は、こうした百貨店・テナントの「クリスマスデザート」「福袋」をめぐる協働が、TVで数多く取り上げられた。
 デザート・スイーツの領域では、こうした「コラボレーション」が進んでいる。百貨店のみならず、ホテル、GMS、SM、コンビニエンス、さらにはレストランにまで及んでいる。小売流通においては「ベンダー」と称されるメーカーとの協働である。

■コラボレーションブランド

 かって、日本のPBを巡る数多くの議論があった。結論的には売価引下げと値入率を稼ぐ目的で、小売りが主導になったPBは日本には根付かなかった。
 何度となく「価値」が提唱されたが、継続的なリニューアルさえままならない「PB」は顧客の支持を失ってきた。
 「プライベート・ブランド」と称するような「ブランド価値」が「小売り」にあったのだろうか?
 どのようなカテゴリーにも通用するような「ブランド」などあるのであろうか?
 いわんや「安心・安全」が重視されてきている消費にあって、ストアブランドはその証となるのであろうか?
 日本の「流通業」の機能(小売りであれ、卸であれ)において、いつも大きな課題となるのは「商品開発力」であった。これまでは、それはバイイングパワーの力学で、流通側に製造側が従属する場合においてのみ可能であった。ただし、顧客の支持は得られなかった。
 昨今、大きな変化が起きている。
 CVSにおける売上げの半分以上は「NB」(メーカーが広告をかける商品)ではなくなっている −といわれている。「ファーストフード」を初めとして、CVSとベンダーが協働開発を行っている商品が占めている。ベンダーにはそれぞれの領域(総菜・弁当・デザートなど)において、有力なメーカーが対応している。
 FFのみならず、カップラーメンにおいては、大手メーカーとCVSが協働開発している200円以上する商品が売場を占拠している。100円を維持するのに窮しているNBがある反面、高い「協働ブランド」が主流となっている。
CVSの化粧品においても、「化粧惑星」「DHC」など、協働開発・育成型の商品が顧客の支持を得ている。メーカーからすれば、NBに転化できる(導入当初は限定であっても、期間が経過すればオープンにできる)リスクの大きなテストマーケティングである。

■売価競争の壁

 外資小売りが苦しんでいる。ウォルマートも日本の消費者と流通を慎重に見ている。
 日本的な流通構造についてグローバル化を進めるべきだとする見解の一方で、「日本的なもの」を重視すべきだとする見解もある。
 欧米型の「ワンストップショッピング」と「エブリデイロープライス」のモデルについても、少しづつ日本的に翻訳すべきだとする意見が目立ってきている。
 日本における「消費デフレ」の構造は、「資産デフレ」のそれとは異なる契機によって生まれている。「競争デフレ」とも呼ぶべき構造である。
 「売価引き下げ」は、90年代初頭の「内外価格差」からスタートし、ダイエーの「価格破壊宣言」で拍車がかかった。その背景には「業態間競争」と「オーバーストア」があった。「価格が安い流通が勝ち残る」との妄想である。
 結果は、見事に市場をシュリンク(金額的に)させた。顧客の支持を失った。満足度を引き下げた。
 顧客の満足は、「期待以上の成果(提案)」に対する評価である。この間、流通の売場は「期待以下」の売場になっていた。他と比較して「安く」もなければ、「期待以上の成果(提案)」もない売場になっていた。
 その代表的なものが「商品」である。(どのブランドでもいいような)「コモディティ」においては、価格の敏感性は高くとも、市場はそれによって拡大はしない。結果として市場金額は縮小し、ブランド、ストアロイヤリティを失った。
 購買頻度が高く、1店舗での買い物時間が10分前後と言われる日本の消費においては、欧米型の「ワンストップショッピング」「エブリデイロープライス」のモデルは、消費者そのものの購買行動を大きく変化させるという気の遠くなる教育が必要である。また、その流通構造の改革(流通企業の圧倒的寡占化)が必要である。
 少なくとも、現段階の日本の消費には合っていない。
 仮に、「コモディティ」の消費構造は欧米型に近づくとしても、それによって失われた売上げ・利益を埋めつつ競争で勝ち残っていくためには、「期待以上」の商品が不可欠となる。しかも、他流通企業と差別化されるレベルにおいてである。

■コラボレーション

 「コモディティ」の売価引き下げ、値入向上の(流通の)期待を背負ったPBは、NBの売価低下でその任を失った。
 一方、「期待以上の差別化」された商品の開発は、流通における業態・企業間競争とは別の世界で着実に進行していた。
 デザート・スイートの領域では先の「デパ地下」である。さらに「デパレス(レストラン)」や「ホテイチ(ホテルの一階)」である。
 ラーメンにおいては、大量に投下されたTVの「ラーメン番組」である。化粧品では通販であった。
 これまでの「メーカー」VS「流通」というバイイングパワーによって成立している取引構造とは異なった顧客接点での展開に、流通が気づき始めたというのが、昨今の「コラボレーションブランド」の台頭の背景にある。
 ここでは、これまでのメーカー、流通が、新しい顧客接点と、消費者・商品に学ぶという点において「同等」にならざるを得なかった。
 その結果、流通とメーカーのコラボレーションが可能になってきているのである。メーカーですら気づき得なかった商品進化の方向を、新たな顧客接点から学ぼうとし始めたのである。

■流通における商品開発力

 一方、商品を育成、あるいは創造、ブランンド化する上で、小売流通のパワーとオペレーションは、他の産業を凌駕している。
 日本の外食産業のトップは、マクドナルドで4389億円(01年度)である。対して、セブンイレブンの「FF」は、売上げで6421億円(01年度)である。セブンイレブンの「FF」は「中食」ではあるが、「食材」ではない。日本の最大の外食企業は、実はセブンイレブンである。
 ローソンの「FF」も3562億円であり、外食産業2位のすかいらーく2754億を上回っている。
 セブンイレブンやローソンのオペレーションは、マクドナルドと比較すれば、いい勝負かもしれないが、他の外食企業よりは優れている。
 このように、(寡占化が進んでいないとしても)日本の小売流通は、その規模とオペレーションにおいて、他の産業に学びながらも、商品育成・ブランド化を実現しうる潜在力がある。
 「NBと同等機能で、安い」というNBの後追い企画の商品ではなく、他の消費最前線の商品を、開発し、育成する能力が小売流通にはある −という気づきが今始まったのである。このことに消費者は敏感に反応し、支持をし始めている。

※ 本提言は、「営業力開発」誌 2003・No178号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:チャネルマネジメント)に掲載されております。掲載文は以下のIII〜VIに続いております。


V.売場開発におけるコラボレーション −商品のアソート技術開発による売場活性化
W.顧客支持を受ける売場開発 −「競争優位」の条件となる「理解力競争」
X.GMS・SMの売場ポテンシャル −12月、1月の定番本数とエンド箇所数・エンドボリューム
Y.4カテゴリーにおける売り場の現状 −12月、1月の特徴的な売場とその変化

 


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