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「商品育成」をミッションとする営業の「売場つくり機能」
 
 
 2001年、セールスキャンペーンは大幅な件数縮小となった。単に「プレゼント」の魅力と投資が縮小しただけではない。その結果は、魅力のない「ナショナルブランド」の売場となっているはずである。
 小売業の厳しさ、再編は急速に進むであろう。しかし、顧客の購買をめぐる需要創造の方法については、解決策が見出せないでいる。小売企業の厳しさは、借入れと、資産目減りにあるのではなく、顧客からの支持を失っているところにある。
 もう一度、「売場・店頭」を見つめなおす必要がある。いかに、売場が構成されているか、どこに転換のチャンスがあるか。その上で、メーカー営業は、どんなミッションをもつべきか。
 今号では、編集部独自の「店頭調査」を実施した。店舗数はGMS17店舗、SM30店舗、ドラッグストア3店舗の計50店舗。対象カテゴリーは、ビール・発泡酒、飲料、防虫剤の3カテゴリー。3月中旬〜下旬に実施し、各メーカーのエンド展開状況、キャンペーン告知状況を観察し、オープン型キャンペーンがインターネット比率を高めている一方で、売りに直結するクローズドキャンペーンを各メーカーがいかに店頭で実現しているのか。この点に着目した。
 さらに、「売場つくり」について、ノウハウを構築しているキユーピーと、陳列代行の業務を推進しているエイジスの事例を取り上げている。
 メーカー営業の「売り場つくり」は、今、どうなっているのだろうか。
T.転換期における「店頭」
■小売業の再編成
 世界最大の小売企業、ウォルマートが、ついに西友と提携し日本上陸を果たした。コストコ、カルフールのように単独出店での参入ではなく、日本のビックリテイルへの資本参加であるだけに、その慎重さを評価する声がある。
 今後のGMSは「イオングループ」「イトーヨーカ堂グループ」「西友・ウォルマート連合」の3つに集約・再編されていくのではという論調もあり、さらにSMでの再編・集約が進むという指摘もある。
 いずれにせよ、欧米並みにとはいかないまでも、日本での小売業の上位集中は加速していく。
 こうした小売業の再編成を、メーカーの立場から見ると、その「過渡期」が故の対応の困難性を指摘できる。欧米並みの「寡占化構造」であれば、「対象」は明確である。ただし、日本の小売・業態構造であれば、確実に200や300の小売企業・グループが生き残っていく。
 その「過渡期」ということであれば、「ゆるやかなグループ化・統合」のプロセスもあって、二重三重の複雑な対応が要請される。
■価格中心主義と売価の乱れ
 依然として続く「閉塞感」と、「上位集中への過渡期」において、メーカーのマーケティング戦略を悩ます最大の要素が「価格」である。
 20世紀末から、小売業のバイヤーの役割は「売価引下げ」に終始している。メーカー営業の「提案書」も、「特売条件一辺倒」になっている。
 結果として「売場」には、じつに多様な「売価」が乱舞している。
キリンビールの発泡酒「極生」が、レギュラー発泡酒の「希望小売価格」145円を10円下回って新発売された。それに対応してアサヒが「本生」を、サントリーが新発売した「爽快仕込」を、それぞれ10円「納価」を下げると発表した。
  その時期、3月のGMS・SMでの「発泡酒350ml」の価格は、最高145円(ブロイ)、最低108円である。「発泡酒350ml」というカテゴリーでは、16種類もの「売価」が告知されている。
 さらに、「10円引き」の対象となった「本生」で9つの異なった「売価」があり、「爽快仕込」のそれは5つである。  さすがというべきか「極生」は、見事に128円に統一されているが、発泡酒NO.1の「淡麗」は、9つの「売価」が存在する。(首都圏35店舗調査)
 さらに、同じチェーン・同じ銘柄であっても「売価が違う」という事実も発見される。
 350mlだけに限ってみての状況がこうである。さらにロング缶、「6本パック」「ケース」と拡大していけば、一体いくつの「売価」になるか気の遠くなる話である。「ビール」に比べ低価格が故に、比較的価格が安定していたと言われる「発泡酒」の「現在」である。
 これが「転換期」の、ブランドの「価値」である。
■「売価」とボリューム
 乱立する「売価」にあって、それはどれだけ顧客に届いているか。「10円引きお試しセール」を展開した「爽快仕込」で、GMS・SMのエンド・島に大量陳列がなされていたのは35店舗中19店舗でしかない。さすがに「本生」は32店舗でエンド・島に展開されていたが、その数量は最大224ケースから、最低は4ケースまでまばらである。
 「極生」は、品不足がたたって8店舗でしかエンド・島に露出していない。
 こうした状況は「発泡酒」だけに限ったことではない。ほとんどのメーカーブランドの最終顧客接点=店頭がこうなっている。
II.「店頭プロモーション」の現状
■販促費の効率
 メーカーの「売価引下げ」を補償する「販促費」は限界にきている。トイレタリー商品においてはP&G、日本リーバ、ライオン、花王が新しい「取引制度」を発表している。
 いずれも「不公平・不透明」な条件設定を排除し、「公平・透明」に販促費を抑制しようとするものであるが、「過渡期」の本部商談では、未だ「ハイ&ロー」が繰り返されている。
 通常、主要な消費財メーカーがコミュニケーションに投資するコストは売上げの20%である。5%弱の「広告費」と、その3倍にあたる15%の「販促費」である。その販促費の大半は「売価引下げ」の原資となっている。
 20%ものコミュニケーションコストの店頭での表現は、「売価」以外にも多様な要素がある。
 3月「発泡酒」売場では、キャンペーンの応募ハガキが売場に設置されていたのが、35店舗中、「淡麗」26店舗、「本生」25店舗、「生搾り」18店舗である。
 皮肉なことに、「10円引き」が店頭で告知されていたのは1店舗(「爽快仕込」)でしかない。
 エンド・島のサインボードでは、「キリン」のボードが掲載されてあったのが27店舗、「アサヒ」22店舗、「サントリー」21店舗である。「サッポロ」はわずか5店舗しかない。
 同時期での「防虫剤」では、「エステー」が24店舗、「金鳥」が6店舗、「白元」が3店舗である。
 このように、「ブランドコミュニケーション」の店頭での露出は、メーカーによって大きな開きがある。
 しかし、どのメーカーも売上げの20%は「コミュニケーション」に投資しているのである。
■キャンペーンの「売場貢献」
 90年代半ばから、毎年のように1000万を超える応募数を得たキャンペーンが報告されている。96年の景表法改正を前後したころは、「ジョージア」「BOS」を始めとした飲料、特にコーヒー飲料がその代表格であったが、90年代末からは「ビール」が毎年のように1000万を超える応募者を獲得している。
 99年では「キリン・もれなくビール券プレゼント」「キリン・復刻ラガープレゼント」「アサヒ・もれなくビール券プレゼント」「サッポロ・おいしさ実感プレゼント」の4キャンペーンが1000万を超えた。
 2000年では「キリン・特別限定醸造2000年セット」が3956万通を獲得し、96年「ジョージア・がんばってコートプレゼント」の4400万通に次ぐ「ビックキャンペーン」となった。
 「応募数」であって、「応募者数」ではないが、1000万という単位、しかもこのような「ビックキャンペーン」は、そのほとんどが「クローズド」=つまり「購入者限定」であり、「ポイント」=応募条件が6個以上の商品を購入しなけらばならない、ことを考えれば、「店頭」に対する貢献は大きなものになる。
 小売チェーン、店舗にとっても「購買促進」のためには、不可欠な「店頭コミュニケーション」である。
 しかし、ビール・発泡酒のようにメーカーが4社しかなく巨大なマーケットを構成しているカテゴリー、あるいは「防虫剤」のように、シーズン性が明確で、これも主力メーカーが5社前後に限定されるカテゴリーであった場合の、「メーカーコミュニケーション」の店頭露出が、さきほどの「効率」となっている。それ以外の、メーカー数が多く、繰り返し購買されるカテゴリーでは、その露出は限られたものでしかない。
 膨大なメーカー、アイテム数がある「飲料」においては、42店舗中、10店舗以上でエンド・島にボリューム陳列されていたのは17銘柄でしかない。さらに20店舗以上となると5銘柄でしかない。
 メーカー単位に括った場合でも、20店舗以上にボリューム陳列されているのは「コカコーラ」と「サントリー」の2社だけである。
 「勝ちTキャンペーン」で、ビールと連動しているキリンビバレッジ(ビール・発泡酒売場では35店舗中、27店舗でボードが掲載されていた)でも、12店舗でボリューム陳列されているに留まる。
■「売場」からのメッセージ
 店頭メッセージは何も、メーカーメッセージばかりではない。むしろ、かっては「メーカーメッセージ」は、「売場を煩雑・乱雑にする」ために敬遠されていた。しかし、「売上げ不振」と「販促のメーカー依存」が高まるにつれ、「メーカー広告・キャンペーンとの売場連動」が強化された。
 今回調査を行った時期は、首都圏において「桜満開」の時であった。
 ビールも飲料も「花見」の有効な商材である。しかし、店頭で「桜・花見」がボードで訴求されたのは(35店舗のビール・発泡酒売場で)11店舗でしかない。そしてそのすべてのボードがメーカーから提供されている。
 これも、同一チェーンであっても、店舗によって「店頭メッセージ」が異なっている。
 「メーカーは店舗に行かなくても良い」「店舗にメーカー色を出してはいけない」とした、チェーンの主体性を疑りたくなるような実態がここにある。
■トレードプロモーション
 この時期、ビール・発泡酒、飲料、防虫剤では、チェーン・店舗向けの「陳列コンテスト」が実施されていた。「コカコーラ」「キリンビール・ビバレッジ」、「エステー」「金鳥」「白元」の防虫剤3社はすべて「陳列コンクール」を行っている。
 店頭露出と、「陳列コンクール」の組合せはよくある手段である。
 各カテゴリーの有力メーカーは、毎年なにかしらの形で「陳列コンクール」を実施している。キユーピーにおいても年2回実施されている。(特集ケース参照)
 チェーンサイドでも、「売場オペレーションの統一」のために、メーカーの「陳列コンクール」を活用する傾向は高い。
 チェーン本部の悩みは、「本部で決定したことの個店浸透」であるが、反面、「各店舗で何が行われているかが判らない」という、「チェーンオペレーションの実態」にもある。
 さらに、「売場つくりノウハウ・技術」のなさも悩みである。日本のチェーンは、同じフォーマットで売場面積が大きく異なる店舗を抱えている。さらに、売場は「パート・アルバイト」によって運営されている。
 こうした売場のオペレーションの不備を補うために、メーカーの「陳列コンクール」が手助けをしているという一面もあることを認識する必要がある。
 キユーピーでは四半期毎の「プロモーションブック」が作成されている。各季節の「テーマ」に対して「フェア企画」に具体化され、顧客メリットと、チェーンメリットが明示されている。また、その展開策としての「メニュー提案」「売場提案」が企画書として整備されている。
 こうした「店頭プロモーション提案」は、数多くのメーカーで準備・実行されているのに、何故売場はあのように「乱れる」のか?
 その直接的な要因は「店舗」にある。多くのトレードプロモーションや、「売場・顧客提案」が、メーカー本部担当営業と、チェーン本部バイヤーの中で埋没しており、「店舗」には届いていないからである。
 いくらオペレーションがしっかりしているといっても、最終的に「今週の売場」「来週の売場」をつくる権限は「店舗」にある。厳密に言えば、「52週の先行商談」や「メニュー提案」「商圏分析提案」などを、チェーン本部、少なくともバイヤーは受ける土壌がない。最終的に「売場」をつくることにタッチしていないからである。ましてや「各店の売場」を理解していなくては、「結果論」でしか管理できない。
■売場つくりのアウトソーシング
 店頭での陳列業務を代行する事業をスタートさせている棚卸代行会社エイジスでは、本部で標準化したことの店舗浸透率は56%であればすばらしい方であるとしている。
 また、棚替を「店舗が自前でやった場合」と「外注した場合」とでは、2週後の実現率が、それぞれ50%、100%と倍の開きがある。さらに、その結果から売上・利益貢献に大きな差が出るとの、アメリカの報告を紹介している。(特集ケース参照)
 店頭をめぐるメーカー営業の体制は、良し悪しはあるが近年、急速に強化されてきている。P&Gや、日本リーバといった外資系メーカーにおいても強化の方向にシフトしている。さらに日雑卸のパルタック、徳倉、中央物産では、「陳列代行」を引き受ける新会社を設立している。
 ただし、「陳列代行」は、その「労務」の代行に留まってはならない。店舗における「売場つくり」の意思決定に影響を与える立場にたてるかどうかが課題であって、「労務支援」だけでは、店舗の集客力・買上げ点数増加に寄与することが出来ない。
 物流において、単に後処理業務だけではなく、受発注の仕方、そのシステム、配送の仕組みの提案が要請されると同じように、「売場つくり」においても、後処理の「労務提供」よりは、前段階の「売場から顧客へのコミュニケーション・その52週マネジメント」が必要である。
 極論化すれば、「52週MD」を求めているのは「店舗」であって、本部バイヤーではない。

本提言は、「営業力開発」誌 2002・No175号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:マーケティング・コミュニケーションズ)に掲載されております。掲載文は以下のIII〜IVおよび「ケーススタディ」に続いております。
 
III.活性化するプロモーションサイト
-売場に連結するモバイルコミュニケーション
IV.商品育成と「売場」の維持
-継続的育成売場のための統合戦略
-3カテゴリーにおける売り場の現状-
 ・ビール・発泡酒売り場の現状
 ・これまでの「ビール売場」から「発泡酒売場」へのシフト
 ・飲料売場の現状
 ・価格競争の激化
 ・防虫売り場の現状
 ・メーカー戦略を色濃く反映



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