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■CORPORATE IDENTITY ・・・ 一番目の「C」 |
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先行きの見えない時代の下で、事業の再構築が急がれている。また、2000年を目前にし、21世紀を視野に入れ、次世代に向けたビジョン作りが多くの企業で進行している。
1970年代以降、多くの企業は、次代に向けたビジョンづくりやドメインの構築を求めて「CI」に取組んだ。
今の時代の要請を考える時、70年代、80年代以降のCIを振り返ることから始めてもよい。
CIは、70年代の中頃、高度成長へのかげりが見えはじめ、低成長社会へと変化する時代に浸透をはじめていく。モノの充足、他社との差別性の喪失からくる企業間競争の激化や多品種少量生産、ニーズ多様化対応に対する、企業側からのアプローチとして、より直接的には企業イメージアップを狙った活動として展開されてきた。
デザインや意匠・商標の統一性をベースに企業特性の確立を目指す形が中心となった欧米のCI活動に対し、経営目標を中心に据え、その実現に向けた一連の活動をCIととらえたのが日本型CIの特徴ともされた。
VIからスタートしたCIが従業員のモラルアップを強く意識するようになるのに長い時間は要さなかった。企業競争の焦点が商品単体の品質や性能をコントロールするところから、ブランドや企業イメージも含めた2次的な品質をも含めた点に移行したことも日本型CIの素地になった。80年代は社名変更と企業の自己革新運動がCIビジネスを成立させた。
その結果はすぐに、「逆に、企業の個性を失ってしまうCI」となってあらわれることになった。他社との区別のつかない企業理念、社名をそっくり差し替えても何ら不思議でない企業ポリシーやスローガンを数多く目にした。優等生的な理念を掲げるあまり他社との差別性がなくなり、CIの導入によって、確立すべきアイデンティティが逆に喪失してしまう、という現象すら起こってしまった。
また、デザイン、企業イメージの統合という比較的限定的なCIから、社名変更や経営戦略にかかわる総合的CIに重心が移るにつれ、CIの実行力、完結力も問題となってきた。
CIを一種のトレンドや"経営ファッション"であるかのごとく導入してはいないか、との指摘や発言も見られた。そのようなCIは多くの場合、「専門家集団に押しきられてしまったり、高くついてしまった」とされる。
フォローアップ、継続的努力とそれに伴う費用、労力の負担を乗り越える推進力のないCIは、バブル崩壊ともあいまって、急速に減速してしまった。
バブル崩壊後の90年代は、CI推進コストの面からも話題に上るCIが少なかったが、2000年を目前にしたタイミングでCIへの取組みや、アイデンティティ再確立への要請が急速に高まってきているようだ。
自動車業界では、「トヨタ自動車のネッツ」、「日産自動車のサティオ」の大手2社が相次いで販売チャネルの刷新を期にCIを展開し始めた。
ともに、新チャネルへの移行を「店頭販売重視」「ワンプライス販売」など新販売手法への転換チャンスと位置付け、新商品の同時投入もミックスするなどブランド・ビジュアルの幅から大きく踏み出したCIと言ってよい。営業担当者にとどまらず、整備部門まで含めた意識改革の場として、利益確保や情報の共有化をも推進するきっかけに新チャネル・ブランドが位置付けられている。
販売手法、営業力、商品さらには情報システム、組織面では、営業支援組織までを巻き込んだ一連の活動としてCIを考えることを再認識させられる。
しかし、多くの企業にとって最大の経営課題が"リストラ"である今、新たな企業理念づくりには、困難も多い。自動車や家電など巨大産業においても、誰もが認める目標とすべき企業や優等生企業が希薄になっている。目標が見えにくい中で、自分らしさや独自性を確立していくしかないのだが、網羅的なスローガンでは、求心力は生まれない。
エコロジー、環境共生など地球、社会環境とのかかわりの中での企業のあり方についてもアイデンティティ形成の重要要素としてはずせない。
いずれにしろ、新しい世紀に向けアイデンティティを再度明確にし、社内外に自らの姿勢を表明することが多いに議論されるべきだろう。 |
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■CUSTOMER SATISFACTION・・・二番目の「C」 |
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企業活動をめぐる「C」の中で、中心に据えられるのが顧客の「C」と言ってよい。この「C」の愛顧を獲得する活動としてマーケティングの膨大な努力が積み重ねられてきた。なかでも80年代、90年代を通じて最大のテーマとして掲げられたのが「CS」であった。
CSは、導入当初「CSI(顧客満足度調査)」として定着していく。もちろん従来から顧客調査、満足度調査は行なわれていたが、それまでのQC的管理型の調査とは異なり、顧客の評価を素直に受け止めることを基本視点に置き、多くの企業に浸透していった。
膨大なサンプルの購入者調査の実施や顧客囲い込みを狙ったアンケートハガキの見直しがなどの取り組みが進んだ時期でもあった。
同時に、やはり日本的アプローチとも言えるが、CSを根源的に考え直し、経営理念の中に明確に位置付けていこうとする取組みも活発化してくる。お客様のロイヤリティの発生と企業の提供価値を考えるロイヤリティ・モデルやCS向上のステップが各社各様に議論され始めたのが90年代に入ってからであろう。そして最終的な満足度をお客様とどう共感できるかについてまで、検討はされていく。
この議論の中で「お客様第一主義」が浮上してくる。あまりにも有名な、米国の食材専門スーパー「スチュー・レオナルド」の『ルール(1):お客様は常に正しい ルール(2):もしお客様が間違っていたら、ルール(1)へもどれ』であり、米国の地方百貨店「ノードストローム」が先鞭を切った無条件で返品に応じる販売姿勢が代表例である。
職場を放棄してまでお客様を飛行場に送り届けた従業員、亡くなったご主人の売り掛け金を受け取らなかった話など、神話化したサービスとして紹介されるに至った。
しかし、この種の取組みは多くの課題を提起した。
「お客様第一主義」を追及するあまり、無条件にお客様の要望や不満を受け止めなければならない風土を生んだ面がある。先の無条件での返品対応は、多くの流通業者に採算面で大きな負担を強いている。通常のロジスティックと逆方向のリバース・ロジスティックス(動脈に対する静脈的発想)の構築で効率的対応を図る、との考え方も出始めているようであるが、過度の競争がCSの名を借りて行なわれていると見るべきではないか。「ノードストローム」では、顧客の極めて高い企業イメージを背景に急速な多店舗化を全米に展開することができた。ところが、多店舗化が逆にブランドイメージの低下をもたらし苦境に陥っているとの報告もある。神話化されたサービスは限定されたエリアや個別の事象についてのみ可能であったということだろうか。
90年代前半のCS活動を点検した上で、今また、お客様視点、お客様起点から営業の根幹にかかわるシステム・組織としてCS活動や組織を位置付けようとする動きが随所で見られ始めている。
新しい営業行動指針の根幹にCSを位置付ける、CS活動組織を営業と不可分の組織として位置付けし直すなどの動きである。
「お客様相談室の開設」「大規模コールセンターの設置」「24時間対応窓口の開設」などが急拡大している。「日本IBM」のお客様相談センターでは300人の相談員をかかえ、月間5万件以上にのぼる問合せや不具合への相談対応を行なっているという。お客様相談センターでは受け付けた相談への対応や回答が十分であったかどうかの追跡調査を、一定サンプルで毎日実施し、不満の回答者には責任者が再度追跡ヒアリングを行なうという。「リコー」では、顧客企業のクレームに直接取締役がヒアリングに訪れる。役員が訪問することで、部課長の訪問も増える。顧客の不満情報は、全社員が共有化できるよう情報システムも整備され、製品や販売面での改善につながる仕組みが準備されている。
顧客対応や顧客窓口の重要性への認知は急速に進み、巨大なコールセンターへの設備投資にも理解は深まっている。また、膨大な顧客の声を集約し、整理・分析し全社にフィードバックするための情報システムやソフトウェアの導入も進んでいる。
ところが、"クレーマー問題"は、コールセンターや顧客窓口の応対の難しさや課題を再認識させる結果になった。巨大な設備や最新の情報処理装備を準備しても、肝心の人的対応、マインドの部分に顧客志向が不充分なケースもなくはない。結局、不満や不具合への応対は個人のスキルに依存しきってしまい、最終的な処理がすべて受付担当者の個人的努力に帰結するお客様相談室の担当者の悩みも多い。お客様の対応に当る個人に十分な権限を付与し、最終的な責任を組織として保証する姿勢がない限り、クレームや不満への対応は完結しないだろう。
従業員の満足ややりがい(ES)をないがしろにしたお客様第一主義が多くの問題をはらんでいたことから見ても、顧客の声を直接受け止める時代の顧客対応に、やはり従業員の満足や働きやすさなど環境整備はますます重要になってくる。
「顧客理解活動」から出発したCSは、「顧客囲い込み活動」や「再顧客化活動(リピート・紹介)」へと深化してきた。大量の顧客情報を集約・分析できる装置や仕組みも整備されつつある。高度成長から低成長の時代へとシフトした70年代以降、多くのマーケティング・コンセプトや経営管理手法が提起され、一次の流行ののち多くが忘れ去られてしまった中で、CSは地道にその活動を続け、ようやく地に付いた活動になってきたと言ってもいいだろう。
情報システムの進展、来るべきネット社会の中で、どのようなCS活動を構築するかが問われている。 |
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■CHANNEL MANAGEMENT・・・三番目の「C」 |
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企業のあり方、顧客の満足(顧客の評価)に次ぐ「C」として流通を考えたい。
日本の取引・流通制度は独特で多様な形態を変遷したと言われる。
戦後の流通システムは、
・ 伝統的小売業、卸売業の昭和20年代
・ 消費財メーカー自らが商品流通に乗り出した昭和30年代
・ メーカー支配への対抗としてGMSの登場する昭和40年代
・ GMSの狭間に食品他コンビニエンス専門チェーンの発展する昭和50年代
・ 情報システムの進展がもたらす営業も含めた革新の時代の昭和60年代以降
と10年ごとの整理もされている。
いずれの時代においても、流通は企業と顧客の出会いの場を創造する機能を果たしてきた。
昭和30年代、40年代は、大量生産を背景にメーカーの推しすすめる価格維持政策の実現を目的とした系列店政策の確立と、対抗勢力として台頭してきた組織小売業による開放的流通構造への圧力、が両輪として顧客との出会いの場を創造してきた時代だった。これらは、いずれも供給側からの論理による出会いの場づくりであったと言ってよいだろう。そして、供給側の論理で形成されたこのチャネルは根本的な変革を迫られて久しいが、2000年を目前にしたこの時点でも、多くのメーカーにとって、解決策は未だみ通せないようだ。
価格維持を目的として組織された系列店(利益の源泉でもある)の衰退と、成長する組織小売業へのシフト(物量の確保、利益は二の次)のジレンマを解決する明確な方向性が打出せない状態で、戦略的撤退の必要性が叫ばれながら、最終的意思決定がなされず、過去を解消できないでいる状態、ではないか。
もちろん、各社各様に新流通政策、流通の再構築に取組んできた。提供サービスと顧客・市場を定義し直して、新サービス分野や新顧客領域に対して「新専門店」化を促進してきた。また、販売コストへの見直しにもメスを入れ、半ば慣習化、既得権益化していたリベート政策を大きく見直し、販売店の果たすべき機能に対してリベートを適用する形に政策を転換してきたメーカーも多い。家電業界では、新専門店化政策を掲げ、成長商品と目されたパソコンや衛星放送機器販売のための販売店研修に力を入れ、流通拠点の育成を進めた。
一方では開放的チャネルへの転換の取組みもみられ始めた。流通を囲い込むコストの増大、その流通を維持するために必要となる商品配置の広がり、結果として、ブランドは異なるが中身に差のない商品の氾濫、最終的に流通そのものの体力も弱めてしまう、という悪循環サイクルを断ち切るため、オープンな組織への転換を図る、動きである。
自社シェアの基準のないチェーン店を組織化するメーカーも現われ始めている。他社の商品をどれだけ販売しても構わない、メーカーを選択する主役は顧客の側である、との割りきりがある。
並行販売することで顧客への対応力をより強化できる、そこに流通活力の向上の鍵がある。他社と並売することで、価格や情報のオープン化が進展する。オープン化することでメーカーと流通の役割、責任がはっきりしてくる、という考え方である。また、サービスや商品の価格(原価も含めて)をはっきりさせることで今まであいまいだった無償サービスへの見直しが可能になる。無償であるが故に中途半端なスキルで対応してきた処理にも責任を持って対処し、その費用を堂々と請求できるようになってくる。誤った顧客第一主義への反省点とも言える。
オープン化は製造業の流通政策だけの問題でもない。
サプライチェーンマネジメントは世界的規模で調達・生産から供給・販売までをオープンなチャネルで構成することを目指している。規模の経済性から情報の経済性にシフトしつつある今、収益性を高めるために垂直統合を進めてきた製造から販売に至る論理が大きく見直しを求められており(「垂直型バリューチェーンの構造変化が求められる」:森本博行、1998)、これまで築いてきたチャネルが、最も大きな変革にさらされていると言ってよい。
情報システムの進展が、多様な顧客願望に対応する流通をまさに爆破させようとしている。無店舗販売、通販、バーチャルショッピング、インターネットバンキング・・、いずれも供給側の論理による出会いの場づくりから、顧客(消費者)の側に大きくシフトしているのが特徴的とも言ってよい。
企業、顧客に加え、流通も大きく変革の時を迎えている。
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■Cism・・・三つの「C」の相互作用 |
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CI、CS、CMと企業、顧客、流通という企業化活動をめぐる3つのキーワードをあげてみたが、これらの活動はいずれも最終的に、顧客(CUSTOMER)に対する接近活動、あるいは、企業と顧客との相互作用に他ならない。
そこで、CI、CS、CMという3要素による、企業と顧客との間の相互作用と一連の活動を"Cism"と呼ぶことにする。
もちろん最終的な目標は、顧客の満足を獲得し、企業の成長を実現することである。
CI、CS、CMを振り返ってみたとおり、従来は、3つの機能が個々に独立して、企業から顧客への一方向で、極端な場合一次的なブームのように展開されてきた面もある。
Cismと言ってみてもひとつひとつの機能は目新しい訳でもない。また、それぞれに先人の壮大な努力により体系化されてきている。が、これまでのマーケティングの成功例は3要素の総合化で成果を得たケースが多いとも言える。
CI、CS、CMを考える時、次の視点を置いてみたい。
1.企業が提起すること
CI、CS、CMとも企業側から発信されることによってスタートする。企業は自らの理念や思いを商品やパッケージやブランドの形態で顧客に問い掛ける。提供した商品やサービスが顧客により受け止められ、評価されてCSとなるが、あくまでも提供の主体は企業にある。商品は企業が独自に構築した流通経路を通じて顧客に届けられる。
いずれも、提供する企業の側が他社にない、自社独自の強みを構成することでしか自分らしさや強みには到達できない。競合他社の動向も気になる。短期間で、横並び商品を投入したい。その行き過ぎが商品を短命化してきた。徹底的な自社の強みや特徴を商品やサービスに反映し、顧客に問い掛けることがまずなされるべきである。
2.評価は顧客が下すこと
企業らしさや特徴をどう認めるか、どの出会いの場を選択するかはすべて顧客の側が決める。当然、最終的な満足度は顧客の評価に委ねるしかない。
いくら独自のアイデンティティを主張しても顧客の側に伝わらなければ、評価されなければ、努力は実らない。顧客の評価は率直に受け止めたい。商品やサービスの質が十分でなければ、いくら企業イメージを高めようとしても評価されないし、他社にない独自性も発揮できない。顧客に評価されない流通はいくら歴史や実績があってもそのまま維持していくことはできない。流通自身も変わらざるを得ない。
しかし、顧客が評価するための材料を提供するのは企業であり、その組み立ては企業が自在にコントロールできるはずである。企業が独自にくみ上げた自分らしさを顧客にどう評価してもらうか、ここをめぐる企業と顧客の戦いと触れ合いだと考えれば、ビジネスチャンスもバラ色に見えてくる。
3. CI、CS、CMの相互関係
企業と顧客との相互作用の場が、Cismだと考えれば、CI、CS、CMはやはり総合的展開が必要になってくる。
CIは広告・宣伝の問題として、CSは営業の問題として、CMは生産や営業の問題としてとらえていては、顧客との相互作用は深まらない。組織全体の問題として、3つのCを考えること、これらを通じて顧客の理解に努めることが必要だ。
顧客を巡る状況はこれまでの20〜30年で企業が築いてきた仕組みを根底から覆すほど様変わりして見える。
情報の経済性は、「バリューチェーンの構造変化」と同時に顧客の変化をもたらしている。
Cismで顧客との関係を議論するならば、今まで築いてきた顧客との関係についても、再度見なおしてみることが必要だろう。 |
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