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■メーカーのIT技術活用の進化
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BtoBの中で、IT技術を使って最も大きく変化してきたのは調達活動であろう。
かつて1980年代に、ゼネラルモータースは、商品企画において、エンジン開発拠点、車体開発拠点、デザイン開発拠点が全米各地に散らばっていたために商品開発のスピードが上がらないことに業を煮やしてEDL(エレクトリックデータサービス)を数千億円かけて買収し、データによる情報交換の効率を高めてきた。このころ、調達する部品の品質や部品の開発スピードを上げていくために「デザイン・イン」という言葉と概念が広く普及した。この時は、まだ社内の各組織間の調整を効率よくやる、または、比較的固定的だった取引先との調整をうまくやるという色彩が濃かった。
この時は,まだゼネラルモータース内での仕組みであった。
次の段階で、自動車業界の統一規格が全米規格協会(ANSI=The American National Standard Institute)の支援の元に作成されていった。
こうした業界の規格が作成されるという状況の中で、今年、ゼネラルモータースはフォード、ダイムラークライスラー3社と合弁で世界中から部品調達を電子取り引きで行うという事業を開始する。
自動車業界という巨大な産業野内部でこの10数年のうちに単独企業内システムから、業界のシステムへの転換が進んできたのである。
これらは、原材料,部品のコスト、調達取り引きのコスト、調達のスピードといった経済的な背景と同時に、IT技術の中核となる電子部品の高集積化と同時に進んだ低価格化,および通信の自由化とインターネットの発展があった。
日本でも、通信の自由化、インターネットの普及などIT技術活用のインフラは整って来ており、現在はこうした調達活動のオープン化がどんどん進められてきている。
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■取り引きのボーダーレス化
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取り引きのオープン化が進んでいく事によって、取引先の地理的な限界を超え、これまでの既知取引先の枠を超え、ボーダーレス化が進んでいく。
特に取り引き先の枠を超えるという点について着目すると、未知の競争相手が、どのような競争上の優位性を持って登場するかわからないというリスクと同時に、未知の取引先との可能性が広がって新たな事業の枠組みの構築も可能になる。どのようなジャンルで進んでいくかは、提供される商品。サービスの標準化(または規格化)の程度がひとつのキーとなっている。
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■卸売業のIT活用の進化
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メーカーの調達活動だけでなく、卸売業でもIT技術の活用が進んでいる。
産業用部品(金型部品など)の卸であるミスミは、ビジネス顧客の「購買代理人」という事業コンセプトで、早くから顧客のニーズ情報を収集する仕組みを構築してきていた。特注品が多かった業界で、ハーフメイドの標準品を準備し受注してから最終加工を発注するというトレードロジックを開発して業績を伸ばしてきた。
IT技術の活用では1990年時点ですでに、
・M−NET
−顧客の購買課からの受注
・CAP−NET
−顧客のCADシステムからの受注
といったシステムが構築されており、部品メーカーと顧客間の情報を集約、加工、発信,商品をジャストインタイムで届ける仕組みができている。2000年の年間売り上げが428億円、1991年の在の売り上げが212億なので10年でほぼ倍増している。受注媒体比率でEDI(electric data interchange電子データ交換)は7.5%となっている。受注媒体の中心は、まだFAXが76%である。
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日用品雑貨の業界では、花王とライオンの卸売業の起用方法がよく比較される。ライオンが既存の卸売業との取り引きを重視したのに対し花王が直販販社を設立して市場に対応してきた。1985年にライオンが中心となって設立した「プラネット」は、仕入、販売、受発注などの取り引きデータを扱うシステムを標準化して成功している。そして、1996年に花王とP&Gが「プラネットに参加するに至って事実上の業界VANとなった。今後、インターネットを利用して、決済、物流、資材調達までを含んだ統合的なシステムが構想されており、IT技術を中核とした業界標準の新しい卸の姿が見られる。
受発注データの電子化は多くの業界でも進められているが、「プラネット」はそれまでの受発注方式を一気に変えるのではなく、複数の送受信手段を準備し、また数度にわたる利用料金引き下げを行うなど、定着させていくまでに極めて現実的な判断をして実行してきたプロセスがある。既存の流通システムの中での変革では、標準的な規格とIT技術を利用するインフラ環境が整備されれば、こうした機能統合が可能なのではなく、実現していくためのきわめて現実的な判断と実行プロセスが必要である。(注1)
(注1プラネットのケース、および下表とも小川孔輔1999.「マーケティング情報革命」有斐閣より抜粋) |
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■BtoBへのIT技術の導入パターン
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これまで取上げたケースはいずれも既存事業の中でうまくIT技術を導入してきた事例である。これらを見ていくと、単にIT技術を導入して画期的に事業の構成が変わったというよりも,それ以前の事業の構想や事業コンセプトがIT技術に適していたと言える。また、現実的には既存のシステムや慣行を一気に変えていくのもなかなかに困難である。先ずは、扱うデータや入出力フォーマットの規格化・標準化が進められて、次に扱う商品範囲,入出力するデータ範囲、など周辺の環境を周到に準備することが必要となっている。
これらのケース以外にもIT技術を導入しはじめた企業は沢山ある。
IT技術が、事業活動全般にわたる技術であり影響が大きいと言うことの意味の中に,もう一つ見逃せない特性がある。それは、BtoB野ビジネスと、BtoCのビジネスと同じ技術が使われるというう点である。IT技術を取り入れる企業について、これまでのところ下のような分類でそれぞれの特徴を見ていく事も有効である。
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■小売業にとっての店頭活性化
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小売業にとっては、この2000年は大きな経営の節目になる。それは大店法から大店立地法を中心とした「まちつくり三法」への転換の中で、1年あまりの「新店空白期間」が生まれることにある。これまでチェーンストアの成長は「新店」に依存していたことは言うまでもない。この新規出店ができなくなるのである。
この期間、既存店の改装に重点を移した投資が行われることになるであろう。ここでチェーンの「店舗・売場活性化」の力量が問われるのである。その課題は、これまでの効率重視の考え方とは異なり、商圏消費者の支持を生む売場の再構築にある。
90年代後半から大型店の出店にともない、「大型店」の「小商圏化」が叫ばれてきていた。大型店間競争の激化により、商圏が相対的に縮小し、小商圏の消費に密着したMDの重要性が主張されてきた。
大型店のGMS・SM・HCに対して、小商圏・消費シェア奪取を狙いとするドラッグストアの成長により、ますます小商圏の生活をめぐる闘いが熾烈になってきているのである。
さらに、生活商圏の格差は今後とも大きく「統一オペレーション」を阻害する要因になってくる。小商圏化すればするほど、小商圏の世帯・人口構成、消費特性の影響を受けることになる。90年代後半の新店が地域特性を強調しはじめたのはそのためでもある。
この地域特性を視野に入れた「既存店改装」が始まる。1年間に数十店という新店に比べ、数百店舗に及ぶ既存店改装をどのように行っていくのかがチェーンに問われている。(ただし、後から述べるように、この状況にあって単純に「店舗MD」を強化すべきだとするのは、多分に「チェーンストアビジネス」にそぐわない。)
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■メーカーにとっての店頭活性化
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メーカーにとって「店頭」とは、大義名分はさておいて、基本的な認識は「競争の場」である。他社より多くのアイテムを優位な場所に陳列し、エンドの露出率を高めるために条件を乱発する。この基本的なスタンス(あえて言えば営業スタンス)は食品・日用品のみならず、家電においても、自動車、建材においても同様である。この姿勢は何も今始まったことではない。小売チェーン、組織需要比率が高まった70年代から始まっていたことである。
俗に言う「右肩上がり」の時代には、売上成長がコスト増加を補っていた。小売チェーンが「新店」が成長を補っていたと同様にである。しかしそれに限界がきた。店頭の「競争」には勝っても売上・利益が増えない結果となってきたのである。
エブリディロープライスと「アイテム削減」が進んだ結果、店頭にある商品で「無駄なアイテム」は極小化されている。後から述べるように「棚割」にかかる手間の中で、メーカー・卸店・チェーンバイヤーが「アイテムカット」に費やす時間がバカにならない。
この結果、消費者より先にメーカー・卸店・チェーンバイヤーが店頭化する商品を選択している。メーカーの「競争原理」が売上と利益を生み出す条件は、需要の増加と、店頭に置ける「無駄」がある場合である。
このふたつが欠落し始めている。
「競争原理」を超える「店頭原理」を構築しえないメーカー営業は、売上と利益を生み出すことができなくなった時代に入ったという認識が必要である。
メーカーにおける収益向上の鍵はこれまで「開発・生産」にあった。付加価値の高い商品を開発し、製造原価を切りつめることによって利益が出るとされていた。
今、メーカーの収益向上において大きな課題は「営業コスト」の削減にある。人件費はもとより、営業条件の抑制が大きな課題となっている。
このことの実現は「商談」にあるのではない。それを実現する「店頭」である。メーカーにとっての店頭活性化とは「利益を生み出す原点」を店頭に求めることにある。
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■再度、店頭活性化の生産性
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店頭活性化をめぐるチェーン・卸店・メーカーの生産性について「棚替え」を取り上げてみよう。棚卸代行会社エイジスが設立した陳列代行会社エスエムエスによれば、300坪のドラッグストアの「棚卸し」は100人時で済むが、「新店オープンの全店陳列」にはその20倍の2000人時がかかると推定している。この「陳列業務」にかくも多くの人員が割かれるのである。「新店」はもとより、「既存店棚替え」にも多くの要員が集められる。その要員は小売側はもちろん、メーカーや卸店営業からも動員される。
現在「棚卸」をエイジスのような会社にアウトソーシングするチェーンが増加している。その理由は「棚卸精度の向上」もさることながら、「店舗・人件費」の生産性を高めるという側面もある。その何十倍もの人時を必要とする「陳列」に対して不透明なコストがかかっているのである。
チェーン小売にとって売上の重要な柱である「エンド展開」においても同様な傾向がある。メーカーや卸店が企画したエンド展開について、その展開責任としてメーカー・卸店の営業が動員されている。メーカー、卸店営業にとっての名目は「競争」である。
こうした店頭にかかる営業コストがメーカー、卸店の営業生産性を低下させている。なにも、陳列は小売業の業務だと言い切るつもりはない。
陳列業務は小売へのサポート業務であり、かつ競争上の差別化業務でもあろう。さらに、店頭を認識することは重要な本部商談の糧になるであろう。しかし、現在の多くのメーカー、卸店営業にとって、「企画」と「商談」、「受注」と「店頭活動」が分断され、十分な統合作用がないままに、コストだけが膨れ上がっているという現状は無視できない。
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■チェーン店舗への主婦の派遣
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このメーカー営業にとっての生産性低下は、数多くのメーカーで実施されている「主婦・女性のフィールド部隊」にも当てはまる。
雪印乳業では、社員としてのフィールド部隊の人件費上昇、あるいはリタイアに対して、主婦のフィールドレディを増強している。食品・酒類メーカーにおいて、さらには家電メーカーにおいても「主婦」のチェーン店舗に対するフィールドが実施されている。しかし、チェーン店舗に対する「安価な主婦(ほとんどは扶養控除の限度内で)」の起用では限界が多い。
店頭商談で完結する業種店・ボランタリーチェーンとは異なり、「店舗での情報提供」だけで、自社商品の売場が活性化できる機会は非常に少ない。さらに、先ほどのような「棚替」「エンド展開」の労務を委譲することはできない。極めて「営業補助要員」としての活用しかできていないというのが現状であろう。
雪印乳業では、営業とフィールドレディの機能について明確な仕訳が必要で、その連動効果を強調している。その源泉が雪印乳業が得意とする「店頭でのメニュー提案」である。
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■「経費管理」と「創造性」
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これまで小売チェーンにおける生産性を見てきた。同時に、メーカー、卸店営業の生産性についても不透明な現状を、「抽象的」に触れてみた。
「抽象的に」と断ったのは、多くのメーカー、卸店において営業の生産性に関する「分析・評価」があまりにも欠如しているからである。このことは小売チェーンについても同様なのかも知れない。「物流」の世界では人時生産性や、ABコスティングの手法が主張されながらも、多分、一番多くの人時コストがかかっている「店頭化」については十分な分析が小売・卸店・メーカーの相互にはない。
ECRが目的とする「新製品」「販促」「陳列補充」「品揃え」の向上について、我々はそのことを議論する材料を保持し得ていないのである。
こうした分析を俗に言う製販配の三者で行うことは必要であろう。しかし、こうした「経費分析」の多くは、三者での費用分担を押し進める議論にしかならない。問題は「経費・コスト」の分担や削減だけではない。
「顧客の支持を得て売りを拡大する想像力」の発揮を、三者がどのように共同・分担しあいながら進めるかということが、大げさに言うならば21世紀に向けての課題である。
それを作りあげる仕組み、そのための三者の業務プロセスの創造という観点での「店頭活性化」の取組が小売・卸店・メーカー営業の使命である。
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