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店頭を基点とした機能“連結”

メーカーが膨大なコストをかけて準備したマーケティングを売りの完結に向かって十分に発揮するためのキーはなんだろう。 店頭を基点にマーケティング機能を連結する「三位一体マーケティング=“連結”マーケティング」という問題提起をしたい。 店頭の重要性は過去から様々に言及され、具体的な取り組みも実施されてきた。しかし現在取り組まれている施策は本当に消費者や買い物客を基点に考えられたものであろうか。 この重要な店頭に対して製・配・販のそれぞれ部分解を追求することによって悪循環に陥っているのではないか。それは多くのムダという社会的コストが生じてはいないだろうか。 マーケティングが従前のような力を失って久しい。広告が効かなくなった、マスマーケティングの限界も指摘されてきた。 マーケティングが再びその機能を発揮するにはブランド、トレード、インストアの三位一体のマーケティングが不可欠だ。それは総合や統合ではない、“連結”だ。 <しかし、この“連結”こそ難しい。製・配・販という流通の壁もさることながら、一企業内に限っても様々な部門の壁が大きく立ち塞がっている。 この連結をつくり出すパワーが店頭といっても過言ではない。 本特集は“連結”に挑戦する4社の取材によるケーススタディを中心にまとめている。“連結”のキーワードは以下の通りである。

■「ショッパーマーケティング」
■「店頭エクセキューション」
■「コラボレーション」
■「アカデミックマーケティング」

1. 誰も考えていない?店頭図表1 店頭はだれの仕事?

店頭はマーケティングの中で空白地帯だ。店頭の重要性は誰しも認識しているが、実際には誰も買い物客の視点で考えていないのではないか。店頭は誰が責任をもっているのか?普通に考えれば、その答えは小売であることは自明であるように思える。しかし理屈どおりに行かないのが現実だ。

メーカーは代理店制度を採用していながら、大量の営業マンを抱えている。さらにその上に、店頭のフィールド部隊を自前で抱えている。自前で抱えきれないメーカーは多くのコストを支払ってアウトソーシングしている。なぜメーカーが卸、小売を超えて店頭まで自前の体制をつくらなければならないのか。

本部商談で決まった企画が個店で決められた通りに実施されない。新製品を発売しても直後から店頭に並ぶ比率は非常に低い。

店頭で商品を積んでいるのは多くはメーカーだ。個店では商品を積むのはメーカーの仕事だと小売は堅く信じていると言っては言い過ぎだろうか。メーカーの販売代理店である卸はどうしているのだろう。あのウオルマートをも瞠目させた物流システムをもつ日本の卸も店頭までは手がまわらない。だからメーカーは店頭フィールド部隊を仕方なく自前化しなければ誰もやってくれない。

メーカー自前の店頭フィールド部隊は、個々のメーカーのマーケティングを完結する重要な機能であろう。しかし、店頭はメーカー同士の陣取り合戦になってはいないだろうか。自社の商品を積むことが最重要使命となって、他社商品を排除し、自社商品の露出を高めることが優秀なフィールドマン(レディ)の条件となってはいないだろうか。それは本当に買い物客の満足に寄与しているのであろうか。

問題の責任を一方的にメーカーに押し付けるつもりはない。今こそ、メーカー、卸、小売それぞれが果たすべき役割は何か。売りの完結にとって益々重要となる店頭を基点に全体解に向かって製・配・販の新しい協働が問われている。

2. 店頭こそ“連結”のキーだ

何故いまさら店頭問題を持ち出すのか。この特集でどのような問題提起をしようとしているのか。

結論から言えば、「三位一体マーケティング=“連結”マーケティング」の提案である。従来から言われているようなトータルマーケティングや統合マーケティングではない。ブランドマーケティング・トレードマーケティング・インストアマーケティング、この3つのマーケティングの“連結”だ。

いままでも大手のメーカーは総合的なマーケティングを実施してきた。いわゆるマーケティングミックスである。空中戦を中心にした絨毯爆撃的マーケティングはそれなりに効果を発揮しているようにみえる。しかし、それだけのコストに見合う効果や成果は出ているのだろうか。従来のやり方では、利益や生産性という視点では構造的な問題を抱えている。

後述するようにメーカーと流通の大量生産と大量販売をつなぐ流通販促費という互恵的ビジネスモデルがすでに崩れつつある。このために取引制度を始めとする流通との新しい関係づくりへの挑戦が各業界で始まっている。

しかし、問題の本質はそれぞれの役割や機能が“連結”していないことにある。このことを解決しないで個々の機能をいくら強化しても全体解にはたどり着けない。メーカー視点から言えば、チャネル政策と営業政策とプロモーション政策の“連結”である。

最近提案されているコンタクトポイントやタッチポイントというコンセプトはマス広告以外の接点に新たな光を当ててくれているが、どうしても総花的な印象をぬぐえない。

マーケティング機能を連結するコアは何か?メーカーが膨大なコストをかけて準備したマーケティング資源を売りの完結という目的に向けてその機能を十分に発揮する鍵を握るのが店頭である。もっと言えば、店頭を基点にマーケティング機能を再構築することが必要ではないか。

小売店頭に焦点を絞って議論することによって“連結”の鍵を握る課題や解決方向が鮮明になると考える。

図表2

3. いま何故店頭か?

店頭の重要性は従来から議論されてきた。花王の店頭技術課設立は1978年だ。菱食のリテールサポートへの着手は1985年だ。ISM(インストアマーチャンダイジング)も、研究レベルでは大きく進化し、プラノグラムソフを使った棚割り提案はいまや常識だ。52週のMDプランは営業マンや販促担当者の基本バイブルになっている。

問題はその前提である店頭化が実現されなければ、上記の様々な努力は無に帰すことになる。さらには、やりっぱなしでは何時までたっても場当たり的な経験と勘に頼った店頭企画がまかり通る。メーカー、卸、小売それぞれの店頭を巡る問題点を概観してみる。

◆流通販促費の限界
従来、メーカーは極論すれば、価格と販促刺激によって店頭シェア確保してきた。それがストレートに売上高と市場シェアの獲得につながってきた。

小売は大量販売を背景にメーカーからの流通販促費による利益を確保してきた。まさしくメーカーと小売にとって、コインの裏表のようなビジネスモデルであった。その蜜月関係が市場構造の変化で立ち行かなくなっている。

メーカー営業の流通販促費という武器に代わる配荷や露出促進のための新たな武器の開発が必要とされてきた。押し込み営業から提案営業、取引から取り組みなどはその一例である。

◆売場生産性の課題
小売業、特に大型小売業の事業所数や販売金額は減っているにも関わらず、売場面積は逆に連続して増加している。つまり、店舗は大型化しているが、それに相応した売場生産性が追いついていない。

一方で、小売側も差別化した店づくりのためには、常に鮮度のある、変化に対応できる売場づくりと優良顧客の獲得と維持が必要となっている。

鮮度のある店頭こそ小売に限らずメーカーも含めての共通の優先課題だ。しかしそれを実現しようとするとコストという壁が立ちはだかる。

◆卸への新たな期待
卸は、各業界で合従連衡による巨大卸が誕生している。いままでのような帳合ビジネスという既得権だけにしがみつくわけにはいかない。巨大化した卸には当然新しい機能や役割が要請される。それは流通という仕組みの中でメーカーや小売では果たせない、巨大となった卸だからこそできる機能や役割を発揮することに他ならない。

既に機能フィーへの転換ともいうべき取り組みが始まっている。その一つが得意先である小売の店頭領域である。

店頭を巡って製・配・販それぞれにおいて従来とは異なるレベルの構造的問題が生じてきている。しかもその問題はそれぞれ固有の問題というより連動した問題だ。店頭重視は製・配・販共通の戦略的な課題といえる。

4. SPの復権

唐突であるが、店頭を核とする「三位一体マーケティング=“連結”マーケティング」は、SPの復権という側面も併せ持っている。マーケティングの最後の機能として登場してきたSPは、売りの完結を目指した製・配・販、さらには消費者やキーマンまで及ぶ幅広い関与者を連結するコミュニケーション機能を担うものであった。

しかし、現状のSPはどうであろうか。マーケティングの中で、SP機能はどのように位置づけられているのだろうか。決して積極的な評価は受けていないのが実態ではないだろうか。販売促進費は広告宣伝費の2〜2.5倍という数字もある(中でも流通販促費が3分の2を占める)。膨大な費用をかけながらもその評価は決して高くはない。

従来から言われていることではあるが、来店前に購入ブランドが決まっているのは数%にしか過ぎず、店頭で最終購入商品が決まる割合が高い傾向にある。店頭重視の背景にはこの事実がある。その店頭で顧客への生活提案に結びつける重要な役割を担うのがSP機能である。

そのような重要な役割も担っているにも関わらずSPの店頭実現度は低く、しかもやりっぱなしであった。先述の本部企画が店頭化されないこともあり、メーカーも小売業も正確に現状を把握できていない。また、店頭成果に影響を与える要因は様々であり、その多様な要因を把握することは不可能であった。

店頭を基点として様々なマーケティング機能を連結する主役にSPが浮上する可能性を秘めている。それは、従来のシンジケートデータサービスに加え、フィールドサービス、データ分析サービスなどの小売を巡るアウトソーシングサービスが出揃ってきた。

また、店頭の状況を正しく客観的に把握して効果測定が可能となる土壌も整いつつある。SPが科学になる道が開かれている。SPの復権は、このような文脈の中にある。

5.“連結”への挑戦が始まっている

店頭を起点とした“連結”がマーケティング革新のキーワードである。すでに店頭を基点にして連結力を生み出す挑戦が始まっている。詳しくは後述の個別事例を参照して欲しいが、“連結”の概要は以下の通りである。

■P&Gは、顧客が商品を購入する時の“第一の真実の瞬間”での消費者マーケティングとは異なる「ショッパーマーケティング」を展開している。買い物客の満足を戦略的パートナーである小売業と協働することによって“連結”を作り出そうとしている。

■あらたとサラヤは、店頭とテレビ宣伝との連動で「店頭エクセキューション」( S t o r eExecution=店頭実現・実行)の壁を協働で乗り越えようとした。また、テレビ宣伝との連動に止まらず、卸との協働でマーケティング機能を“連結”する可能性を示唆している事例とも言える。

■桃屋は縮小し続けるびん詰カテゴリーの活性化のための「コラボレーション」を多元的に展開している。特に店頭での接点拡大のために生鮮や他業種メーカーとのコラボレーションによって“連結”に挑戦し続けている。

■シャープは「ヘルシオ」で「アカデミックマーケティング」によって商品開発から店頭展開まで“連結”の典型を提示してくれている。

これら事例のそれぞれの施策は既にいろいろ実施されている内容も多い。表層的に見た場合、むしろ新しさは見られないかもしれない。問題は“連結”を生み出しパワーだ。一企業内に限っても様々な部門の壁が大きく立ち塞がっている。小売も本部と個店の壁、商品部と店舗運営部の壁、グローサリーと生鮮部門の壁など、いくつもの障害が待ち受けている。

この壁を乗り越えるには商品、広告、営業などの個別機能の強化ではもはや限界があることは自明である。これら機能の“連結”の鍵を握るのが店頭である。店頭こそ商品・営業・広告、さらには製・配・販共通の戦略的課題領域だ。

しかし、その取り組みは始まったばかりであり、その道のりは険しい。更なる課題は大きく二つあると考えられる。

一つはコストの負担とその捻出だ。店頭周辺の様々なサービスは当然ながらコストが伴う。だれがどのようにコストを負担するか、コストをどのように捻出してくるか。そのことが現実的には大きな問題だ。

もう一つは、だれが機能連結のコアとなるかである。市場リーダーのメーカーか、メガ化する卸か、流通の系列化を進める商社か、それともグローバル総合広告代理店か?一方で店頭を巡るアウトソーサーが登場してきている。それらのサービスはいずれも専門的には店頭の活性化には大きく寄与するが、本質的問題、“連結”という課題を解決するには程遠い。

重要なことは店頭を巡る個別機能の充実もさることながら、その機能を誰が“連結”するかというプロデュース、コーディネートの役割を果たす主役の登場だ。

いずれにしても“連結”に向けたマーケティングの革新が始まっている。

※本提言論文は、「営業力開発」誌 2006・No190号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:チャネルマネジメント)へ掲載されています。誌面では以下の様なケーススタディ、および特集に続いております。

<ケーススタディ>
P&G     連結のショッパーマーケティング
あらた&さらや 機能連結による卸とメーカーの新たな挑戦
桃屋      協働でびん詰カテゴリーの活性化に挑む
シャープ    価値訴求のための店頭起点による多面作戦

2005年のプロモーション
  ─ 固有の価値のコミュニケーション戦略
1) 協働展開 2) 移動接点 3) 購入前後の情報共有 4) 体験・啓崇
5) ブランド価値醸成 6) 顧客対話型コーポレートメッセージ

連携・協働でつくるマーケティング力
  ─ 経営管理、営業、店頭づくりの最前線
1)顧客の声を起点としたカルビー流BSC経営の実際
2)菓子売場の進化と革新―サンエスの挑戦
3)需要創造営業への進化と革新―カゴメの挑戦
4)花王マーチャンダイジングサービスの現状と今後の方向

過去の提言論文バックナンバー
・ネットワーク時代の新しいマーケティング
・パワーネット・マーケティング
・人口減少時代を考える
・「企業価値」を高めるプロモーション戦略
・「パワー・ブランドの構築とCRM戦略」
・消費回復下のマーケティングチャンス
・ブランドの拡大と強化
・小売のメガグループ化と顧客支持
・価値ベースのマーケティング戦略構築」
「情報差別化で売る 」
・デフレ不況下での消費者マインドを読む
コラボレーションによる売場活性化
デジタルな時代の新しいマーケティング戦略構築
東京都心からのマーケティング革新
「商品育成」をミッションとする営業の「売場つくり機能」
流通生産性を向上するメーカー戦略
デフレ時代の付加価値マーケティング
デジタルな時代の新しい消費者を理解する法則
競争優位のマーケティング
営業支援システムが目指す顧客とのBPR
顧客仕様を超える商品戦略
e流通革命への対応戦略
IT技術の活用と展望
店頭活性化への機能再編成
顧客とのリレーションショップの再構築
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