電子マネーやクレジットカード等により、お金を払う感覚が薄れ、「やっと買えた」という「買う」ことへの楽しさが薄れてきている。
その代わり、楽しさの重点度が高くなってきているのが、「選ぶ時」と、「使った時」である。(図表1)
「選ぶ時が楽しい」とした人の理由で多いものは、「使ってみると、イメージと違うことがあるから」「使ってみると、この程度かと感動が薄れることがあるから」「使う時には特に考えないけれど、選ぶ時はいろいろ考えるのが楽しいから」等である。
一方、「使った時が楽しい」とした人で多い理由は、「使ってみて期待通りの結果だと嬉しい」「自分に合っていると楽しい」等である。
どちらから見ても、「〜出来そうだ」「〜なれそうだ」という期待をいかに持って選べるかが、「楽しい買い物」のポイントになる。
しかし商品を見ただけでは、「実際に使ってどうか」「自分にとってどうか」のイメージまでは湧きにくく、選ぶことを躊躇してしまうことも多い。
ということは、「〜出来そうだ」「〜なれそうだ」という期待を創ることが店頭で出来れば、選びたくなるとも言える。
弊社では、「ショッパーが“選びたくなる店頭”」について様々な研究を行っているが、本号においては、この“「〜出来そう」という期待を創る店頭”について、生活者モニターの声、事例を交えながら、考察していく。
弊社Opi-netモニターに、この1年以内で、「買う予定がないものを購入した経験」を聞くと、「よくある」とした人が43.7%、「時々ある」が29.6%と7割を占めた(図表1)。
ジャンル別に見ると、「買う予定がないものを購入した経験」で高かったものは、「食料品」「衣料品」「本」「ファッション雑貨」。これらは、明確な購入目的はなくても、何かいいものがないかなと「選ぶ」ことを目的に来店する割合が高いジャンルのものである(図表2)。
このことから、「何かいいものがないかな」という店に対する期待を創ることが出来れば、「買う予定はなくても、見ているうちに、購入に至る」ケースを増やせるという仮説が立つ。
さらに、「買う予定がなかったものを購入した理由」を聞いた結果が図表3である。
買った理由では、商品自体が「安くて・お得で」「便利そうな商品で」「限定品で」「面白そうな商品で」が高くなっている。
一方、「買う予定がなかったものを、買ったことがよくある」という人と、「買ったことは少ない(時々+何回かある)」という人とを比べると、「買ったことがよくある」人は、『商品自体により感じたこと』では大きな差はなかったが、『店頭展開により感じたこと』の「持っていると楽しめそう」「自分に似合いそう」「家族が喜びそう」「生活がハッピーになりそう」「セット・組み合わせて使うとよさそう」「シーズンを楽しく過ごせそう」「素敵な空間や部屋に変わりそう」では差が大きくなった(15%以上の差)。
ここからも、「〜出来そう」と感じる店頭展開により、「買う予定はなかったけれど見ているうちに、購入に至る」ケースを増やせるという仮説が立つ。
さらに、「〜出来そう」という期待で高くなったものを分類してみると、「シーズンを楽しめそう〈Whenへの期待〉」「家族やプレゼントをした相手の喜ぶ顔が見えそう〈Whomへの期待〉」「心地よい生活空間になりそう〈Whereへの期待〉」「持っていると出来なかったことが出来そう〈Whatの期待〉」、「ちょっと違う自分になれそう〈Howへの期待〉」というように分けることが出来る。
そこで、店頭における「期待創り」について、どのような方法が有効かを次から期待別に考察していく。
「シーズンらしさを感じる店頭を見ると選びたくなるか」について、弊社Opi-netモニターに聞いた結果が図表1である。
「なる+たまになる」という人が9割弱と高くなった。さらに、「夏シーズンの食料品売場でシーズンを感じて選びたくなった店頭」を具体的にあげてもらったものが、図表2である。
店頭展開であがったキーワードを抽出してまとめると、「このシーズンならではの美味しさが楽しめそう」「暑い中にも涼を楽しめそう」「家族で楽しめそう」等があった。
これらから見ると、暑い夏は嫌だけれど、それを「楽しめそう」という期待が生まれた時に選びたくなっている。
このような食料品だけに限らず、例えば、春は桜を楽しむ為の花見のグッズ、暑い夏を楽しむ為にマリンレジャーグッズ、運動の秋を満喫する為に運動グッズ、寒い冬を楽しむ為にお鍋…店舗では様々な「シーズンを楽しむ為の提案」が成されている。
シーズンに何をどのように売るかを考えるものとして、52週MDがある。また、アメリカでは4-5-4 Calendarという考え方もある。
これらは、シーズンのトピックス(祭事も含めて)をもとに、実際の消費者の購買行動も加味しながら、つくっていくものである。
そこで、52週M D、4-5-4Calendar、店頭情報等を参考にしながら、日本、アメリカ、中国、韓国のシーズンのトピックスをまとめたのが図表3である。
日本では、先に述べた「○○シーズンを楽しく過ごす為に」という、祭事以外のシーズン提案も多い。
一方、アメリカは祭事中心となっている。中国、韓国も祭事中心である。が、最近、日系の流通業の進出等もあり、「シーズンを楽しく過ごす提案」も増えてきている。
例えば、中国(上海)の百貨店では、今年の梅雨のシーズンに、「店頭に傘と商品を一緒に陳列して季節感を演出」「雨の日に来店すると全商品が10%割引」「○元以上買うと雨傘をプレゼント」といった店頭での訴求をしたが、お客様には好評価であったようだ。
シーズンカレンダー(52週MD、4-5-4 Calendarは、シーズンでの商品の回転が速い食料品、衣料品で主に採用されている。が、他分野でもシーズンカレンダーの重要性認識が高まってきている。
そこで、食料品、衣料品以外で、「シーズンを楽しめる店」として、お客様から具体店名があがった「3COINS」について詳しく見てみる。
※本提言「選びたくなる店頭研究」は、「営業力開発」誌 2010年・No208号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:マーケティング・コミュニケーションズ)へ掲載されています。
尚、誌面では以下の様な構成です。
「選びたくなる店頭研究」
T. 「〜出来そう」という期待を創る店頭」
U. 「買う予定はなかったが、選びたくなる」
V. 「シーズンを楽しめそう」という期待
■3COINS
「喜ぶ顔が見えそう」という期待
■包むファクトリー
「自分に合う空間になりそう」という期待
■unico
■212 KITCHEN STORE
「自分も出来そう」という期待
■DAD - WAY
■BOOKS KIDDY LAND
「ちょっと違う自分になれそう」という期待
■TiCTAC
「期待に応える店頭」
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