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 IT技術の進化は、もはやとどまることを知らない勢いで進化している。この間、IT技術は営業のあらゆる場面で無くてはならないものになってきている。もはや、パソコンを持たない営業マンは蚊帳の外といった感すらある。

 営業日報や売上管理といった、日々の活動をデジタル化することからスタートした、営業の情報のデジタル化は、ここにきて大きな変化をみせている。ひとつは、第1章で述べる「営業のナレッジ・マネジメント」である。しかしながら、そこには大きな落とし穴が存在する。そこにポイントをあてて構成している。

 さらに、第2章では営業情報システムは「SFA(セールス・フォース・オートメーション)」について述べる。営業のデジタル化は、SFAとして、さらに進化していこうとしている。しかし、ここでも様々な問題点が存在している。

 今回は、日本ユニシス、リコー、アサヒビール、そして味の素という、SFAを中心とした先進企業の事例を掲載し、この問題をいかにクリアしようとしているかを、実例から解説する。さらに、99年10月に開催した「21世紀のデファクト・マーケティング研究会特別セミナー」でご講演頂いた、花王の事例を取り上げ、その考え方や取組みについて解説している。SFAを導入しながら、なぜかうまくいかない、というケースは良く耳にする。単にツールではなく、営業の使命である「ビジネス・プロセスの革新」がおこなえる仕組みになっているかどうか。そこが成功と失敗の分かれ目なのである。


 −成果確率「2割」のマネジメントシステム −

■営業環境の変化

 IT技術の変化は、営業現場にも猛烈な勢いで進行している。もはや「1人1台のPC」は当たり前で、いよいよモバイル、iモードの活用段階へと進んでいる。
 営業情報のデジタル化は、80〜90年初頭に日々の「売上・出荷実績」をリアルタイムに追うものとして構築された。
 さらにPCの普及に伴い、95年あたりではグループウエアや携帯情報端末における「営業活動」、「顧客情報」の報告(具体的には日報)、並びに「伝達事項」のツールとして営業業務系で浸透した。
 このころから、21世紀に向けて成長する市場としてSFA(セールス・フォース・オートメーション)が脚光を浴びてきた。SOHO、直行・直帰の営業スタイルの「夢の武器」として、営業の業務・生活を大きく革新させることが話題となっていた。
 その後、世紀末不況が色濃くなるにつれ、様々な営業ツールが開発されてきた。
 食品や日用雑貨、化粧品業界では、それまであった「棚割画像システム」に、POSデータや市況データ、エリアデータを組み込み、分析・提案できるシステムが次々と開発された。
 金融・生保、住宅業界では、膨大な顧客データベースが構築され、顧客情報は「個人」のものから「企業」のものとなってきた。
 さらに、インターネットによる顧客ダイレクトなコミュニケーション、BtoB、EDIの進展にともなって、営業情報が自社内だけではなく、顧客、取引先との共通ツールとしてネットワークが形成されてきた。
 この95年あたりが営業活動の大きな転換期であった。90年代に入っての「価格破壊」は益々その勢いを増し、右肩上がり成長が完全に限界がきた。さらに、売上に比して利益が出ない取引が横行し、取引制度の見直しが進んだ。
 味の素では、「取引制度簡素化」「マークアップ方式(あるいはコストオン方式)」を提唱した95年を営業支援情報システムの節目としている。ともすると、リベート、値引き原資提供に陥りがちな営業活動から、顧客・得意先に対する「価値提供営業」への転換が営業の使命と認識された年であるとしている。
 提案営業のためのツールがメニュー(献立・食材)提案システムであり、棚割システムであった。
 そして20世紀末、ナレッジ・マネジメントが注目された。
 データ、ドキュメント、画像などの形式知を共有し、経験、ノウハウなどの暗黙知に至るプロセスを内部浸透させようとする、プラットフォーム、コンテンツ、運用、教育の4つの体系からなるこのマネジメント方式に多くの経営者・幹部が飛びついた。
 ここに至って、個々に開発された営業情報システムがイントラネットなどにより統合されてきた。
 これが、この10年の変化である。

■営業のナレッジ・マネジメント

 2000年10月、当時郵政省(現総務省)は、日米企業のナレッジ・マネジメントについての調査報告を行っている。
 日本企業(郵便局含む)では9割近くがナレッジ・マネジメントを重要なテーマとして捉えており、その対象業務として「営業・販売系」を第一に挙げている比率は74%にも達しているとしている。
 形式知と暗黙知の共有において、営業に期待する(逆に言えば「課題が多い」)傾向がいかに高いかが分かる。
 一方、日本総合研究所では、2000年4月にビジネスマン293人から、各企業の「情報システムの評価」を報告している。
 それによると、
・非常に便利で積極的に活用 18%
・ 推進する責任者不在    27%
・現実とかけ離れている   13%
・標準化されず使いにくい  13%
・PC操作に不慣れ     8%
・評価分からない      21%
と、「成果あり2割」「問題あり6割」の状況を説明している。
 「情報システム」が「営業情報システム」と限定している訳ではないが、「十分ではない」という推測は可能である。
 情報システムの面からの課題提起として「責任者不在」や「情報リテラシー不足」、さらには「トップの認識・号令」などが指摘されているが、マーケティングの立場からすると「手段系」の話しに結論をおいても仕方がない。
 根本的に何かが欠落しているのである。

■3つの営業ネットワーク

 マーケティングは、主体である企業が、市場ターゲット(顧客)に対して、取引・チャネルの力を借りながら価値を提供する活動である。
 少なくとも「主体」と「顧客」「チャネル」が存在する。
 多様な営業情報システムは、基本的には、この3つから構成される。
つまり、
  1. 企業内部の営業情報交換装置
    日報や売上実績というレベルの情報から、成功事例としての企画書・プロセスの情報まで幅広い。
    営業でのナレッジ・マネジメント として先行事例も多い。
    富士ゼロックスでは、提案事例や 成功事例の標準化されたドキュメント共有化システム「KSC」があり、同時に「CK MAIL」という全員が情報を共有するメーリングシステムがある。
  2. 得意先との商談を支援する装置
    得意先との商談に活用するための データ、ツールの情報装置。
    「消費者・生活者データ」「商圏 データ」「POSデータ」から、棚 割やプロモーションの提案を行なう ツールなどから、個別に在庫・補充・物流などにまでいたるサプライチェーンマネジメントの視点で構築されている。
    伊藤ハムでは消費者の365日の献 立・食材のデータベース「IVISS」 があり売場つくりに貢献している。
  3. 最終顧客との情報交換装置
    顧客との情報交換を通じて、顧客 に最適な商品、サービスの提供を 行なうと同時に、継続的に顧客を 管理し、カスタマー・リレーションシップ・マネジメントを追求しようとするシステム。
    金融、住宅、自動車などの産業で 開発されており、住友林業では、  「CROSS」という資料請求から設計図面、完工後のアフター、リフォームまで追跡する顧客データベースを構築している。
    富士ゼロックスでは、営業からの 顧客情報「VOC」と、お客様センターに問い合わせがある顧客データベースと統合をしている。

■多様な関与者構造

 営業とはいえ、顧客、得意先を活動対象としている限り、上記のような3つのフレームで情報システムが構築されていない限り、ナレッジ・マネジメントばかりに注力しても成果は出ない。
 さらに営業の困難さは、3人の関与者と単純に割りきれないという点である。
 社内には各層の意思決定階層があり、得意先には本部、スーパーバイザー、個店がある。顧客にも使用者と購買窓口が違うということも消費財においても起きている。
 そして、この多様な関与者構造を支配する「日本型商談・購買」の体質からしても、「キレイゴト」だけではすまないとする営業のストレスも無視はできない。
 営業は、本質的に最終顧客まで完結する機能をもっていない。多くの場合、チャネル関与者にかなりの部分を委ね、それぞれ調整しあって活動している。その関与者が多様であればあるほど営業システムとしては完全なものにはならない。
 営業情報・支援システムの事例においても、住宅、金融、法人向け営業に3つのフレームで構築されているケースが多い。一方、圧倒的に多数を占めるメーカー、流通のようにチャネル関与者が多様に存在する企業においては、現状試行錯誤というケースが多いのもそのためである。

■営業ポータル

 営業における情報支援システムにおいて注力されているのは営業ポータルの開設であろう。
 味の素では、それまであった営業実績データ、消費者データ、棚割(カテマス)、メニュー提案(マックス)、統合SPなどをイントラネット内に統合して構築した。
 カゴメも「KAGOMEDIA2000」から70の情報・業務システムにアクセスできるようにした。
 それまでバラバラに存在したシステムを統合することで、営業はひとつの画面から情報を検索・抽出することができ業務効率が大幅に改善される。同時に、この営業ポータルは多面的な関与者からのアクセスが可能になり、情報・ツールの共有化が進むという利点をもっている。
 多様な関与者との接点をもっている営業のための有効な情報システムとは、誰に対しても瞬時にデータ・事例・ツールが取り出せ、共通するデータ・言語で語る事ができるシステムである。
 個々の関与者に合わせて情報を加工するというより、同じ情報を多様な関与者に提示したほうが、情報・意図の一貫性がでるというものだ。
 しかし、ここまで進んだ営業情報システムといえども素朴な疑問がある。「こうしたすぐれた商談・提案の仕組みがありながら、我々が日々、店頭で、販売員から出会う接点は、何故貧弱なのであろうか?」

■近年開発された「営業支援システム」
企業
内容
イトーキ
2000年12月、600人の営業を対象に広域法人ツーザーの営業チャンスや、商談・提案内容を共有するために、指紋認証でのモバイル環境を構築した。モバイルアクセスでのパスワード入力やアクセスポイント選択のわずらわしさを解消することが狙い
パイオニア
ミニコンポやDVDプレーヤープレーヤーカーナビなどを扱うホームエンタテイメントカンパニーは2000年4月から300人の営業にGIS(地理情報システム)を導入。GISは、地図情報と、商圏・店舗・営業情報を連携させたもので、パイオニアでは「PPMグラフ年商や商圏の成長性から店舗の魅力度を判定し、それにパイオニア製品の売上から営業戦略を考えるソステムになっている。これをベースにして営業活動計画の立案ソステムとしている。今後は、モバイルでの利用も検討されている
富士ゼロックス
98年から全国支店を統括する東京・大阪の両支社で「武蔵」「VOC(ボイスオブカスタマー)」と呼ぶ顧客情報システムを稼動。営業担当が気がついた顧客の反応、クレーム、関心事などを入力、営業提案力の強化に活用。VOCは4.2万のデータを蓄積、毎月3000件の情報が新規登録されている。99年より、これをお客様センターを始めとする部門で構築している顧客情報データベースと連携させてきた。 法人営業では、
(1)KSC - 提案事例や成功事例のベストプラクティスで、実際のドキュメントに専任スタッフによるリライトを加え標準化したもの 
(2)GMA Station − 広域の特定顧客に対する本社担当、各事業者担当が同じベクトルで提案できるようにしたもの
(3)CK MAIL − カンパニー社員全員が情報を共有するメーリングシステム
東海銀行
98年、個人富裕層向けのプライベートバンクで、担当者向けの「財務相談サポートシステム」を開発。「マーケティング支援」 − 保有資産、金融商品購入経験、他銀行との取引状況などの顧客データベースと資産継承のシミュレーション、と「営業プロセスの最適化支援」という2つの機能をもち、各担当者の失敗事例・成功事例などのレポートも蓄積している。これにより、取引総額が98年から2000年に2倍に拡大
住友生命
2000年5月に、6000人の営業職員に対して、Iモードを利用して顧客とのアポイントをとりやすくした他、加入前の健康診断を依頼する契約医院を検索するシステムを導入。
三井海上火災
2000年10月から6500店の代理店に対して顧客情報、重点顧客選定のインターネットシステムを構築。@顧客データベースは属性の他、契約更改、紹介者などが検索できる A三井海上から代理店に対して「重点的にフォローする顧客」などの指示を行なう B顧客との契約の進捗によって売上達成率などが出力される − という3つの仕組みから成立っている。三井海上では3000人の営業担当者に対して、このシステムを代理店が活用できるようにイントラネットでの教育を行なっている。
明治生命保険
営業職員に教育・支援を行なう全国300人のFP(ファイナンシャル・プランナー)に対して「FPナレッジシステム」を稼動させた。@「FP110番Q&A」は、FPからの問い合わせと回答で4月時点で1600件が収録済み A「Know-lege Brain」は、本社が用意した企画書や研修会資料のひな型・各種統計データ、成功事例など400件から検索できる。 B グループウエアの「FP広場」は、FP同志のの情報交換の場で、自分達が作成した資料・提案書が600件登録されている。 運用面では、FP教育部の中に専任担当者を2名配置し毎日情報のチェックや選択を行ない、また、毎週「ナレッジ・ニュース」としてFP全員に新着情報やシステム運用のコツを配信している。
ミサワホーム
顧客がミサワのウェブサイトにアクセスし資料請求をしてくると「ネット専任チーム」が要望、現地条件などに合わせて商品提案を行う。次の段階で現地の営業担当が引き継ぎ、営業・提案活動を実施する。この場合も営業とメール提案を複合させ、顧客が自ら希望する住宅のシミュレーションが行なえる。現地営業が折衝中も、「ネット専任チーム」から営業への要望やクレームを受けつけている。
住友林業
2001年1月「CROSS」と呼ぶ資料請求から完工後のクレーム・リフォームまでの顧客データベースを開発。13万件におよぶ顧客との折衝履歴の他、設計図面まで蓄積し、顧客との継続的な関係強化をはかる狙い。2002年には工事の進捗を管理する「NACSS」も構築する。
INAX
2000年4月に800人の営業向けに「e-SITE」を構築。営業の所属部署、担当商品の設定しよって、必要な情報だけが表示できる仕組みで、操作と検索の効率化を狙いとしている。1日当りのアクセスは約1000回と、かっての膨大なデータ・分析メニューでの煩雑さから前進している。
花王
小売とのコワーキングツールとして、97年Cockpit(コックピット)を開発。@「MDソリューション」 小売のPOSと花王が収集した地域別POSデータ、消費者データから課題を絞る A「定番スキマティック」棚割ソフト B「プロモーション」店頭販促システムの3つから構成される。営業の業務系では「CSノート」パソコンがあり、、@半期毎の売上予算など業務計画 A四半期毎の販促・商談スケジュールBカテゴリー毎の売上管理 C売場毎の企画プラン・活動管理 D週単位の企画・商談管理を行って行く。
カゴメ
2000年3月に「カゴメディア2000」を稼動。社内の多様な情報にアクセスできる「企業ポータル」で、役員・一般社員・営業の3つのポータル画面から構成される。営業では、「ATLAS1」 − 戦略支援システム 、「ATLAS2」 −商談支援システム、「ATLAS3」  − 業務支援システムの3つからなっている。(詳細・本文参照)
伊藤ハム
NTTデータが首都圏240世帯を対象に実施している、毎日の献立や利用される食材のデータに、伊藤ハムが気温や催事との関連を組み込んだ「IVISS」と呼ぶ営業支援システムを構築。1800人の営業が、小売商談時にチェーンの催事・メニュー提案に活用している。
ナカノス
ミツカンの業務用食材メーカーであるナカノスでは、営業がお互いの日報を評価する制度を導入。年2回の「情報コンクール」で役にたった日報内容を、250人の営業がノーツ上のコーナーで投票する。


 − 「データ・言語の共有」と「『知恵』の役割」 −

■概念と現実

 SFAが注目を浴びてから随分時間がたつ。今でもそう呼ばれている。SFA(セールス・フォース・オートメーション)という言葉にどうも馴染めない。
 カゴメはSFAを、従来『個人まかせ』になっていた営業活動を、組織的にマネジメントすることにより、提案営業の高度化を促進する。としている。マネジメント手法のパラダイムを個人から組織にシフトするものだとしている。「営業のオートメーション」などは求めていない。
 いつもそうだが、概念が先行しすぎると「それに追いつかなくては駄目だ」というプレッシャーに出会う。
 SFAやナレッジ・マネジメントも似た反応が多い。もう少し現実的な検討をした方がよい。
 さらに、現実を直視すると顧客や得意先は「本当に高度な提案営業」を望んでいるのだろうかという疑問がある。
 営業ポータルができたり、提案ツール、事例が共有化されたとして、それを受け止めてくれる顧客、得意先がどこにいるのか − その悩みは多くの営業が感じている。  建前は「提案・情報が欲しい」と言うが、意思決定は「価格」によって決まるという商談を嫌と言うほど繰り返している営業にあって、会社のナレッジは「知識」としては役に立つものの、「売上と利益」には結び付かないと極論するベテランセールスも多い。

■営業が減少する時代

 現実の営業現場はもうひとつの苦悩に満ちている。社内的には生産性の低下もあってこれ以上営業人員を増やすことは出来ない。しかも、団塊世代がリタイアするころ確実に営業人員は減少に向かう。
 先に触れたようにナレッジ・マネジメントの対象職種として営業に集中しているのも、現在・将来に渡って営業の生産性(売上・利益)向上が企業の生命線になっているからである。
 ただでも多様化する顧客と、広域化する ― しかも今後、合併・再編成により巨大化する得意先との商談に奔走している営業に時間のゆとりはない。

■顧客ニーズ・満足度調査

 カゴメは、営業支援システムを構築するにあたり得意先からの営業活動ニーズヒアリングを行った。
 リコーも、5000サンプルにのぼるニーズ調査を行なっている。その結果、顧客(法人)の情報化進展は7つのステージが存在することを発見した。(ケーススタディ参照)
 営業に対するニーズ調査の結果は概ね、次のように整理される。
(1)顧客・得意先は多様な階層にセグメントされる。−顧客、得意先はひとつではない。何よりも営業に対して「顧客・得意先理解」を期待する。
(2)顧客・得意先の意思決定プロセスに合った営業活動プロセスを要求する。それは半期、四半期スパンのプロセスであり、しかも先行商談である。
(3)提案、商談の背景情報、成果見込み、その裏づけ情報を要求する。顧客情報、事例などである。
(4)完成度の高い実施計画を要求する。 どのように実行すれば成果がでるかである。
(5)最後に、顧客・得意先のコストパフォーマンス上のメリット(価格条件)を要求する。
これが顧客・得意先から求められていることである。顧客・得意先のいいなりになることを薦めるつもりはないが、こうした要求は今も昔も変わらない。ただ、昔と違って曖昧な商談では、顧客・得意先も、営業主体も望むべき成果がでなくなっているだけである。顧客・得意先に委ねていては実現しにくくなっているだけである。

■営業工数の増加

リコーは顧客ニーズに対応するソリューション営業を強化すれば販売工数(時間・プロセス)が増加すると見ている。しかも、営業人員は減少するという見通しの上で、2004年までに営業生産性を2倍にしなくてはならないとしている。
これが現代の営業の課題である。内部的にはこの認識が欠けていた。特に営業工数の増加の認識は現場も幹部も曖昧であった。従来通りの数値計画、企画、実施設計で、不十分なプロセスでの営業活動は、結果的に顧客・得意先からの「価格追求」の隙を与えるだけである。
消費・購買抑制がかかっている現代において、成果のある営業を実現するためには総営業工数は必然的に増加する。
必要なことはこの認識であり、営業情報システムの便利さや、操作、IT革命を論じることではない。

■クロスセーリング

営業活動が「個人化」してきたのはいつの時代からだろうか。日本型営業システムは元来、チーム営業、階層営業であったと思う。特に、卸や代理店、系列チャネルが営業対象であった企業は、何人もの営業が顧客・得意先との関係を維持していたのではないか。
多分、80年代に入って組織需要家(チェーン、大手ユーザーなど)への直接営業が増加し、一営業担当に顧客・得意先を委ねた頃から営業の個人化が進んだのではないか。
営業工数増加と、営業人員減少の課題を抱える現在、今一度チーム営業、階層営業の体質を取り戻す時期である。しかも、情報システムを駆使して。
リコーは、営業、コールセンター、Webが一体となったクロスセーリングの体制をとった。
日本ユニシスは、SBO(セールス・バック・オフィス)による見積書、提案書、契約書の作成支援や営業事務処理を請け負い、WEB&TELセンターは潜在顧客、既存顧客からの販売機会の創造の任に当たっている。
ミサワホームも、HPへアクセスした顧客に対して、「ネット専任チーム」が初期営業を実施し、営業が商談中はそのサポートをするように組織営業が強化された。
 総営業工数の増加、それに限りある営業人員で、スピーディに対応する術として「組織的営業システム」の構築が浮上している。

■営業支援システムの共有化

異なる人々、異なるメディアによる顧客・得意先アプローチは、営業情報、ツールの共有化を促進する。これが、営業支援システムの構築を急がせている。
営業が「個人化」している頃、各営業は一人で情報を集め、分析し、提案書、企画書を作成していた。多くの人員に、同じような業務が発生し、膨大な「重複コスト」を生んでいた。「無駄なコスト」である。
賢明な営業の技は、他の営業の成功事例、提案書を「パクる」ことだと言われる。「パクる」ことを組織的に準備するのが営業支援システムである。
 そう考えれば営業支援システムは、便利にはなっているが90年代に入って準備されたツールが統合化されただけのことである。
そのころ使っていた営業は一層強力な武器となっているに違いない。
アサヒビールは、かつて日報形式で報告されていた「情報カード」(PCで作成され、デジカメ画像も添付されていた)を、99年末、「営業情報玉手箱」として「スケジュール」「売上・在庫」「商品情報」などと統合した。

■中間管理職の「知恵」

ここまでは素直に聞ける話だが、それで万全かというと、どうも違うような気がしてならない。
共有化された情報、営業ツールを機能分担されたチーム営業で本当に高度な営業提案が可能であろうか。本当に、営業生産性は上がるのであろうか。
「形式知」の共有は「暗黙知」につながるような「知恵」の手助けをするのであろうか。
よくある話で、初期の提案はデータや画像も豊富で、書式もしっかりとしているが、その提案方向から少しでもズレはじめると、後はほとんど様にならない商談が続き、顧客・得意先が嫌気をさすということがある。「暗黙知」につながらない。
他人の事例を上手く「パクる」には、数多くの情報から該当する顧客・得意先に的確なものを選択する能力が必要である。
数値的データはそのままでは何も意味しない。読み取りによって課題を発見し、対策を検討する分析力が必要である。
そうした能力がなければ、顧客・得意先に説得力あるプレゼンテーションなどできはしない。
かつてチーム営業、階層営業が実体化していた時代に、営業の中間管理職はこの能力に優れていた。ITなどなくとも幹部・部下より豊富な情報を収集し、その分析から創造的なアイディアを提供していた。
彼らは、幹部からの命令を受け、部下と同時に顧客・得意先との調整に当たっていた。 その中間管理職が10年あまり部下に情報を「個人化」されたため、「結果」しか見えなくなっている。世代も交代した。
実は、営業支援システムで最も恩恵を受けるのはこの中間管理職であると断言できる。 「個人化」された営業情報の共有化で、自らと部下の経験以上の「素材」を手にすることによって、中間管理職の「知恵」の発揮と、顧客・得意先への自らの役割がはっきりとしてくるからである。

本提言は、「営業力開発」誌 2001・No170号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:チャネルマネジメント)に掲載されております。掲載文は以下のV〜Wに続いております。

T.営業のナレッジ・マネジメント
−成果確率「2割」のマネジメントシステム
U.営業工数の増加と組織営業
−「データ・言語の共有」と「『知恵』の役割」
V.営業支援システムと「コ・ワーキング」
−顧客・得意先説得のロジックの構築
W.学習する組織・営業
−営業の使命はビジネスプロセスの革新
−ケーススタディ−
■日本ユニシス ■リコー ■アサヒビール ■味の素



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