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インフレ目標導入の声を聞く機会がますます増えてきた。戦後一貫して上昇を続けていたわが国の消費者物価は、1995年度にわずかに下げた後、再び上昇に転じていたが、1999年にはマイナス0.3%、2000年にはマイナス0.7%と2年続けて前年を下回った。今年になっても下げは続き、一向に下げ止まりを見せる気配がない。
バブル崩壊後、「価格破壊」が話題となったが、本当の価格破壊がまさに今進行中である。今年の4月〜6月のGDPは、実質で前期比0.8%減、年率で3.2%減と発表された。しかし、もっと問題なのは、物価調整をしていない名目での数値である。名目では前期比2.7%減、年率では10%を超える減少だ。
これを単純に言えば、わが国の全ての売上高が1割減少するということなのだ。
戦後このような3年続けての消費者物価のダウンを経験した国はない。わが国での名目10%以上のマイナス成長も未曾有の未体験ゾーンである。
この間企業は債務圧縮や拡大した事業体制の縮小への取り組みであるリストラを進めてきた。当然ながら原価・コストのダウン、販売及び一般管理費の圧縮もすすめられた。その結果でもあるが、中国の「日本の工場化」「日本の農場化」はますます進んでいる。商品を安くつくり、安く届ける競争はますます激しくなっている。一方の消費者側は所得の伸び悩み〜減少、雇用不安を抱え、消費マインドは一向に好転しそうに無い。
「悪魔のサイクル」であるデフレ経済の悪循環、売上の減少、コスト・費用の削減、所得の減少、購買力の低下。マーケティングは何をなすべきなのか。
企業にとって、今期そして次期の業績確保が如何に大変かはもちろんだが、同時に将来への布石はもっと重要な筈である。均衡を求めて縮小し続ける組織に未来はない。働く社員にとって魅力のない企業の価値はない。デフレ時代にあっても付加価値を増やす、そしてデフレを打ち破る攻めのマーケティングを考えてみたい。
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■3年連続で価値はマイナス いつまで続くデフレ経済 |
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バブル崩壊後の混乱と不景気の「失われた10年」のはずたったが、その後からやってきたのは、デフレ経済だった。
消費者物価指数は、1999年、2000年、そして2001年と下げ続けている。GDPも2001年度に入り、4〜6月は年率にして実質3.2%マイナス、名目では10.3%の下げである。この間の牽引役であったIT産業も勢いをなくしている。以降も好材料は乏しくこのデフレ環境下での景気低迷は長期化の様相を色濃くしている。
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出所:内閣府経済社会研究所「国民経済計算報告」、総務省「労働力調査」「消費者物価指数年報」「家計調査報告」 |
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■産業界別の動向 |
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売上総利益は、産業によって大きな差があり、絶対数値での比較はあまり意味をなさないが、この10年間の変化をみると、製造業の中でも輸送用機械(自動車が主)の健闘ぶりが目立つ。1989年の13%から、1992年に11%まで一旦下げたものの、2000年には15%と再び上昇している。
この結果が、売上高は落としながらも、売上総利益(付加価値)アップとなっている(右図参照)。
営業利益をみても、1992〜94年に大きく低下した利益率をバブル期の1989年水準にもどしている。(以上は産業界トータルであり、個別企業では大きな格差がある。詳細は後述のケース参照。)
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■1994年からデフレを経験した自動車業界 |
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上図をみていただきたい。自動車関連の物価は、1994年から前年を下回り続け、2000年になってやっと上向いた。
日本を代表する産業のひとつ、自動車業界は、先駆けてデフレの洗礼を受けている。
下の図は、同じく代表的な産業である建築産業と自動車産業の市場規模の推移を比較したものである。
自動車産業は、輸出を含む国内総生産高は、1993年以降大幅に落ち込み、1997年には一旦回復するものの、その後再び減少に転じている。(但し、この間海外生産化が進み、連結ベースでは回復)
一方の内需である自動車の国内販売台数は、より深刻である。1989年水準の80%、その後のピーク時に比べると、70%といった大幅な落ち込みである。
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出所:国土交通省「建築統計」、(社)日本自動車販売協会連合会「自動車登録統計情報」、
(社)全国軽自動車協会連合会調べ、経済産業省調べ |
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■建築業界はこれからが正念場 |
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建築業界も良く似た曲線を描いている。但し、その落ち込みの時期と程度からいえば、自動車業界以上に振幅の幅が大きく、事態はより深刻といえそうだ。
もともと外注(下請化)で市場の伸び縮みへの対応力がある建築業界ではあるが、1998年以降大幅に落ち込んだ市場と今後の状況を考える限り、厳しさの本番はこれから訪れてくる。
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■デフレを通過した業界・企業 これからを迎える企業・業界 |
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消費者物価指数、GDPの伸び率も多くの業界・商品、数ある企業のトータル値すなわち平均値である。
縮んでいる企業の一方で伸びている企業がある。デフレに直面している業界もあれば、デフレを乗り切った業界もある。このような視点から自動車業界に焦点をあてている。
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■デフレ環境下での利益確保のための企業の対応 |
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当然ながら、デフレ経済化での企業の利益確保はいっそう困難となる。マイナス成長による先行き不安、消費マインドの冷え込み、モノが売れず市場規模は縮小、生産活動も収縮し所得は減少、一層の購買力とマインドの低下。この悪いサイクルに入り込んだ中で企業は如何にして利益確保をはかるのか。
当然その一方策としてリストラが挙げられよう。 |
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しかし、このリストラは国内産業を空洞化し、デフレ経済促進の要因のひとつとなる。また、企業に働く社員達からは、何のための企業であり、事業活動なのかといったことにもなってくる。もちろん、リストラなどの費用削減諸策の不可欠性に変わりはないが、可能な限り、付加価値を増やす対応策が優先して検討されるべきであろう。 |
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■売上減少の中、付加価値を確保 |
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自動車業界に話を戻す。自動車ディーラーを含めてみた自動車ビジネスであり、企業によっては連結ベースで事業をみることにする。
自動車ディーラー1社の平均新車販売台数は、この10年間で1000台/年減少。これを受け、売上高も減少し、売上総利益高もこの10年間伸び悩んでいることになる。ディーラー内での新車販売の売上構成比も減少を続け、売上総利益は1989年に58%占めていたのが、1999年には44%となる。
その分、新車以外の修理や整備などのサービス部門が伸び、ディーラーの売上総利益確保への貢献度を年々大きくしている。
下図でメーカー7社計の連結売上総利益率の推移もみている。1992年に17%台まで落ち込んだものの、1999年には24%と大幅アップしている。連結には海外子会社分など他の要素も含まれるが、販売部門であるディーラーで新車販売の売上総利益を増やさず、他部門強化で経営を強化している状況等も、メーカー(連結)が売上総利益率を高めていったことに大きく貢献しているはずである。
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(社)日本自動車販売協会連合会「自動車ディーラー経営状況調査」、有価証券報告書から作成 |
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話を単純にするため、多少乱暴ではあるが、連結ベースで、国内自動車(新車)1台あたり、どのような付加価値確保となっているのかを試算してみた。(下図)
1989年には、新車1台あたりの付加価値が53万円だったのが、1999年には63万円まで増えている。(自動車メーカーの国内部門<製造・販売>と、ディーラービジネスの合計値の数値)
特に目立つのはディーラーのサービス部門などで、1989年には、新車1台あたり14万円から25万円まで増えている。
このサービス部門などは、新車販売を前提として成立している事業である。新車販売の量・額とも伸びない中、メーカーがグループ(連結)で取り組む付加価値増しといえよう。
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出所:(社)日本自動車販売協会連合会「自動車ディーラー経営状況調査」、有価証券報告書から算出
(メーカーの売上総利益は7社計で、自動車部門の売上構成比などを勘案/ディーラーの売上総利益は、上記調査から新車販売1台あたりの金額 |
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