1990年代の消費不況を乗り越えた量販小売業は、今日でも「成熟期」を脱せずにいる。
消費の構造や志向が変化し、また大きく変わろうとしている中で、需要の切り口が様々に提起されている。
「単独シニア」「東京需要」「裕福層」etc。
新たな需要獲得の大きなチャンスでもあるが、かってのような大きな「塊り」では捉えきれない。既に人口の減少と世帯数の増加が始まっている。
新たな「塊り」を創出しなければ、量販小売店は成り立たない。需要の再定義化と、各業態の各様の「再編集力」が問われている。
寡占組に入った企業でさえ、安全圏にいる訳ではない。全国に網羅した既存店は不振が続いており、新規の大型店も他業態との競争激化は避けられない。漁夫の利は期待できず、柳の下にドジョウもいない。
規模の大再編という選択肢はあるが、寡占化の維持には顧客の支持が不可欠だ。「らしさ」や「ならでは」は残して置きたい。
序では各量販小売業態の各論に入る前に、量販小売業を取り巻く環境変化や課題について確認しておく。
本稿ではコンビニ、GMS、ドラッグストア、ホームセンター、家電量販店の5 業態毎に、最近の需要変化への対応や次ステップへの「解」を探っていく。
各業態で再活性化や変革へのチャレンジが始まっているが、「規模」や「数」で乗り切れるほど、消費の変化は表層的ではない。
「製」と「配」のサポート、あるいは「製配販」の新たな機能分担も問われてきそうだ。
尚、本稿は(株)チャネルマネジメントによるものである。
大型店あるいは量販店の「元年」は、百貨店を除けば1957年に開店の大栄薬品工業(現ダイエー)にまで遡る。セルフ方式の大型店舗で「衣食住」を低価格で販売するなど、GMSの先駆けとなった。第二次百貨店法により百貨店が規制を受けていたことも追い風になり、1960年代は「何でも揃う」GMSの時代を迎える。
1970年代に入るとGMS が大店法の規制を受ける。売場面積1,500m2以上(政令指定都市は3,000m2)の店舗を出店できない中で、半径500 〜 600mを小商圏とするヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)が開店する。家電量販店などのカテゴリーキラーも現れるなど、量販店業界は「開花期」を迎える。
個人消費が堅調に推移した1980年代は人口の郊外への分散化が進み、主要チェーンの多店舗化が活発だった。業界間に成長率の差は出てきたものの、売上は総じて拡大基調が続く。大都市部から地方まで出店余地はまだ豊富で、「棲み分け」が可能な時代だった。
後に「失われた10 年」と呼ばれる1990年代に入っても出店攻勢は続く。1992年施行の改正大店法が1994年に緩和されたこともあり、消費不況下で消耗戦の様相を呈してくる。都市回帰の傾向にカテゴリーキラーの店舗大型化と品揃えの豊富化も加わり、「顧客囲い込み」が最優先の課題となり始めた。
◆「勝ち組」にも試練は続く
2000年代に入っても引き続き個人消費の動きは鈍いままだ。すでに人口は減少を始めており、所得や消費の地域格差が拡大している。1990年代後半からの都市回帰の傾向も続いており、「顧客囲い込み」が可能な地域や客層はさらに限られつつある。
現時点での寡占化企業になり得た要因は、需要変化に適応できたかどうか、に尽きる。1990年代後半以降の小売業の主な倒産を見ると、多角化の失敗や放漫経営等ではなく、(あくまで本業の)販売不振が主因となっている。
倒産した企業には婦人服や靴などの専門店が多いが、百貨店に次いでSMも少なくない。1997年のヤオハンジャパン(負債額1,613 億円)や1999年の中鉄商事(同238 億円)、2000年の長崎屋(同3,039億円)などの大型倒産が代表例だ。また、小売全体ではいわゆる「老舗」の倒産が多く、既存の固定客のみを相手にした商売が立ち行かなくなったことを示している。
◆「5社で寡占度50%」の時代
2007年度(一部の業界と企業は2006年度)決算で見ると、成熟化がいわれて久しいGMS業界ではイオンとイトーヨーカ堂の「2強」で約40%。3位のダイエー以下を大きく引き離している。
コンビニ業界では売上高が1兆円を超える「3強」による寡占だが、トップのセブン-イレブンだけでシェアは35%に達する。4位のサークルKサンクスを含めて「4強」と見れば、上位4社では50%近くを占めることになる。
家電量販店業界はヤマダ電機が単独トップ。シェアは推定で20%弱。上位5社までで50%を、上位10社までを含めると70%を超える。生き残るには年商5,000 億円以上が必要といわれる業界だが、クリアしているのは5社に過ぎない。ヤマダ電機の売上高は2位エディオンのほぼ倍。寡占と言うより、独占に近い状況になっている。
ホームセンター業界はDCM Japan、カインズ、コーナン商事がトップ3。3社合計で売上高1兆円。年商1,000 億円以上が大手と位置づけられ、現在は10社が存在する。シェアは約55%。残り45%を約270社が分け合う。年商1,000億円の企業は総じて収益ともに不振が続く。
ドラッグストア業界ではトップのマツモトキヨシが一歩抜け出しているが、シェアは10%にとどかない。同5%前後のスギ薬局、カワチ薬品、サンドラッグなどが続き、上位5 社で30%近くを占めている。他業態に比べれば寡占度は高く無いが、主要各社は得意とする地盤で集中出店しており、エリアや県単位で見れば寡占化はかなり進んでいるはずだ。
GMS の「2強」を除けば、上位5社で50%程度の寡占度となっている。「6位以下」の数十あるいは数百社が残り50%を奪い合う構造は、もはや米国並みといってよい。
成熟下の低迷にあえぐ中で、「解」は各業態・各チェーンで異なる(詳細は特集を参照)。「出店」「地域MD」「脱セルフ」「都市集中」。ここでは次世代も寡占企業であり続けるための業界毎の「現況」を俯瞰しておく。
◆「地域MD」と「食」の強化
右肩上がりの消費に支えられてきた「何でも揃う」GMSは、需要の変化にいち早く対応しなければならない業態のひとつだ。
「2強」の業績は決して良くはない。イオンは全店舗の4分の1にあたる100店を閉鎖あるいは業態転換すると発表した。PBの育成が次ぎの一手。PB開発を目的に別会社を設立した。グループ全体では次世代型業態の開発に向けて、M&Aも進める。
イトーヨーカ堂は利益改善に向けて商圏に見合った運営スタイルに転換しているが、まだ大きな成果にはつながっていない。PBはセブン&アイHD全体でスケールメリットを訴求する。
GMSの各店舗は、「単体」ではもはや魅力的ではなくなっている。特に「食以外」は各専門店に及ばないことは自明だ。PBのみで寡占化を続けるのは難しい。GMSは郊外SC の核店舗として生き残りそうだが、大型店ならではの「食+買い物の楽しさ」訴求がキーになると考える。
一方、商圏の狭いコンビニは、需要の「再定義」で低迷脱却を試みている。
重点カテゴリーである「中食」が不振だ。主力のお弁当について、主要チェーンは「地域限定商品」で特色を出し合っている。チェーンによっては既に50%が地域商品で占められている。商品開発の権限を地域単位に委譲するチェーンも増えていると聞く。「全国一律」のオペレーションは、もはや厳しくなった。
業界では長く「20〜30代男性」をターゲットとしてきたが、増加傾向にある顧客の高齢化に合わせて、利便性や最寄性を活かす。女性のシチュエーションに合わせた店舗開発も進む。
◆新フォーマットと「脱セルフ」
ドラッグストアの全身は「町の薬屋さん」。厚生省(当時)の唱えたセルフメディケーションの受け皿となって成長してきたが、いまやオーバーストア状態で、価格競争も激しい。
最近は医療モールへの出店や営業時間の拡大とそれに見合った品揃えなど、各社は「新業態」づくりに力を注ぐ。品揃えでは「美」や「健康」といった業態ならではの訴求が可能だ。
2009年の改正薬事法の施行が、業界再編を促すといわれている(詳しくは特集参照)。かっての「薬屋さん」が「悩み」や「相談事」のある顧客に「解」を提供していたが、ドラッグストアが「本来の姿」にもどる可能性もありそうだ。
ドラッグストア業界の大きな方向性は「介護・福祉」とのビジネス融合。各社が注力している「食」も含めて、従来とは全く違った業態を開発できるチャンスがある。
◆「多彩な客層」の囲い込み
この業界も成熟期に入って久しい。拡大余地は大都市や中核都市の「駅前」に絞られている。
家電量販店業界はヤマダ電機が格差の広がる地方から、需要の見込める都市部に進出し始めたことで、「ロードサイド」「駅前」「郊外」の棲み分けが崩壊しつつある。この3 つの業態は「別物」といわれるほど客層が異なり、互いに侵食しない(出来ない)という業界常識が崩れる。
ヤマダ電機VS.カメラ系量販の構造になるが、主舞台は「関東」である。多様な客層を見込める都市型立地で、「非家電MD」「説得力」「楽しい売場」が問われる。
ホームセンター業界は「バラエティー化」が進んでいる。既に「食」以外は揃う。
市場は横ばいが続くが、1万m2を超える郊外の「巨艦店」が幅広い客層を獲得する一方で、顧客特化型の「小商圏フォーマット」も健闘している。
「郊外・高齢化」「単身世帯」需要へ、「DIY」への回帰という形で対応している。
各業界関係者や識者によれは、寡占化は今後も進展するという。成熟下でさらに寡占度を上げるには何が必要だろうか。世帯構造の変化がもたらす消費への影響については、提言文で既に触れた。ここでは「売場」と「都市需要」について確認しておきたい。
◆「規模」に依拠しない売場づくり
1990 年代以降、ホームセンターを中心に1 万m2前後の大型店の出店が相次いだが、2006年5月に「改正まちづくり3法」が改定された。
「都市計画法」の改正では延べ床面積が1万m2を超える施設は出店できない。出店可能な地域は市街化区域では商業地域、近隣商業施設、準工業地域に限られ、市街化調整区域では大規模開発を認める例外規定が廃止される。
国と自治体が市街地の商店街を再活性化させることが狙いだが、実際には1万m2以上の店舗は大型SC(GMS)やホームセンターなどに限られる。特にホームセンターでは約3,800店舗の5%にも満たない。規制の影響を受けるのは一部の業界や店舗に限られそうだ。もっとも、既存店の再活性化はより重要になる。
「顧客囲い込み」が課題ならまず、新たな常連客を創る売場が必要になる。1970年代までは残っていた、家族総出で商店街に買い物にいく「レジャー」の代替として大型店を捉えてみる。
いまやホームセンターは「何でも揃う」業態となったが、中でも1万m2を越える巨艦店で、買い物の楽しさや発見を提供しようと試みている。20万を超えるアイテムを揃えるジョイフル本田の各店が代表例だ。家電量販業界ではビックカメラやヨドバシカメラの店舗も好例だろう。ビックカメラでは「ショッピングは最大のレジャー」と位置づけ、非家電を含めた「専門店の集合体」を訴求し始めている。
規制が緩和されるまでは、「1 万m2未満」での展開手腕が問われるが、消費の「規模」に合わせた、新フォーマットの出現を期待したい。
特に様々な購買接点に触れるチャンスの多い都市型ライフスタイルが売場に求める「楽しさ」や「感動」の創出は重要になる。
◆「スリム世帯」の都市集中への対応
高齢者や女性を中心に人口は利便性が高く「合理的な生活」が可能な都市部に集中するといわれている。所有から利用への資産デフレも影響が大きい。都市集中は世界的な流れだ。
「国立社会保障・人口問題研究所」の推計によれば、2015年の総人口は1億2,543万人。2025年には1億2千万人を下回る1億1,927万人、2035年には1億1,068万人にまで減少する。
都道府県別では、2005年をベースとして2025年時点で人口が増加しているのは東京都と沖縄県、神奈川県、愛知県、滋賀県の1都4県。全国平均の減少率(93.3%)を下回るのは埼玉県、千葉県、福岡県の3県のみとなっている。
一方、人口の減少が激しい5県は秋田県、和歌山県、青森県、山口県、島根県となっている。総じて東北と四国での減少が著しい。
世帯数の予測では、「単独世帯」が2015年に31.7%、2025年には34.6%を占めている。「夫婦のみ世帯」は両年とも20%前後。「夫婦と子ども世帯」は26.2%→ 24.2%に減少する。「ひとり親と子ども世帯」は9.2%→ 9.7%。「その他」は11.4%から10.9%へ。
増加または減少率が低い『1都7県』の、将来の到達点のひとつとして2025年の推定世帯数を見ると、次のような特徴が確認できる。
@東京都の「単独世帯」比率は45.1%。東京周辺の3県を見ると、いずれも全国平均を下回るものの、3ポイント以内にとどまる。東京の「単独世帯」化率は例外的に高い。
A「夫婦のみ世帯」は東京都と沖縄県を除く6県で全国平均並みとなっている。東京都は9.8%に過ぎずない。
Bかっての『標準世帯』だった「夫婦と子ども世帯」は大都市を抱える東京都、愛知県、福岡県で他5県を下回る。また「ひとり親と子ども世帯」は福岡県と沖縄県で高い。
既に分かっていることだが、「単独世帯」の東京都、「夫婦と子ども世帯」の首都圏という2つの「商圏」が成り立つ。
1都3県の「中身」を見ると、市町村単位での人口格差が広がる。2000年を100とした場合の2030年の指数を見ると(前頁の表参照)、120%を超えるのは埼玉県では和光市や朝霞市、千葉県では東金市や浦安市、八街市など。神奈川県では相模原市が該当する。いずれも東京都や各県の県庁所在市に隣接する。政令指定都市ではさいたま市、千葉市、川崎市も増える。
東京23区では中央区を筆頭に、千代田区や港区への集中が予測されている。都下では八王子市や国立市が120%以上、110%台では府中市、小平市、稲城市など。105〜109%では調布市と町田市がある。これらの各市は隣接する相模原市と合わせた「大商圏」となる。
こうした需要の「塊り」を、どう再定義するかは重要だ。首都圏以外の県庁所在市を見ると、人口の大幅な増加が見込まれているのは仙台市(2000 → 2025年で110%)のみだ。
先にも触れたように、単独世帯の多くは中高年層が占める。「都市・中高年」の囲い込みは不可欠だ。塊りとしては大きいが、世帯当たりの消費支出は小さいことにも注視したい。
◆「全国一律」の限界打破へ
「再定義」を進める一方で、次世代の寡占化に向けた「現状打破」を試みたい。
@「脱価格競争」
所得や消費力の地域差が広がる中で、各業態は全国一律の「価格競争」に陥り、疲弊している。
裕福層に「1円でも安く」売る必要は無いし、都市型ライフスタイルは「安さ」だけを求めている訳ではない。価格訴求の急先鋒だったビックカメラでさえ、「脱価格」を試みている。
A「新商圏対応型NB」
「対高齢者」でなくとも、単品売りからの脱却のチャンスでもある。サービスの付加など脱価格につながるが、きめ細かな「商圏個客」対応も必要になる。
機能やスペックなどの「新商圏」毎の見直しは、NBの代表格である家電でさえも想定範囲か。メーカーとの取り組みを期待したい。
B「地方マーケット」の創出
GMS やコンビニの「地産地消」に代表される。地方自治体の地域活性化という命題とリンクすれば、新しいマーケットの創出は可能だ。
一方で人口の減少する地方での需要はロングテール化あるいはコモディティ化の進展が予測される。出店戦略は大きく見直しを迫られるが、「ならではMD」を考えたい。量販店の「役割」はより大きくなるはずだ。
(柴田勝治)
※本提言論文は、「営業力開発」誌 2008・No199号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:チャネルマネジメント)へ掲載されています。
誌面では以下の様な構成にて続いております。
U、停滞打破に始動したコンビニ業界
V、進む業態再編とGMSの再活性化
W、唯一の“推奨可能な業態”として新ステージへ
X、HCの勝ちパターンと変革の方向
Y、棲み分け崩壊が進む家電量販店業界
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