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流通生産性を向上するメーカー戦略
 
 
 バブル崩壊後の90年代、「価格破壊」から始まったデフレへの道のりが長く続いている。
 21世紀が始まって1年が過ぎても21世紀末に残した課題はまだ解決されていない。
 その上に、重くのしかかる幾多の小売業の危機、さらには卸・小売の再編。
 21世紀を展望する前に、直面する流通構造の変化と、メーカーのチャネル戦略について整理をしておこう。
 第一章で、積み残した課題に触れる。デフレ不況にあって規模拡大を目指した小売業の「生き残り戦略」の結果である。
 第二章では、21世紀スタートにおける、次世代の流通環境を整理する。主に「勝ち組」流通の活力である。シュリンクしつつ、グループを形成するパワーである。
 第三章・四章では、メーカーの流通戦略課題を述べる。メーカーの営業力を変えなくてはならない。個別「セールス」を超えた、大きな組織戦略が必要になる。
 今回は、ケーススタディを5社とりあげる。
 花王、武田薬品、アサヒビール、ファンケル、アイリスオーヤマである。
 主文は、観点の整理にとどめる。5社の事例が、流通構造の大きな変動期におけるメーカーのチャネル戦略の実態を詳細に語っているからである。
 「商品を造る」というメーカー本来の機能を超えて、停滞する日本の消費を活性化するメーカーの営業力再構築の現状に触れる。
T.デフレ時代の流通課題
■組織小売業の成熟と停滞
 世紀末は日本の組織小売業が多分、「最後」の規模拡大に入った時代であった。大店法の緩和もあり、新規出店が加速した。
 95年から98年では、約8400店の新規出店申請があり、その多くはこれまでにもない大型店舗であった。
 その10年前、85年から89年が約3000店であったことと比較すれば、いかに「規模の拡大」で、世紀末の生き残り競争にかけたかがよく分かる。
 大店立地法が制定された2000年を前後して、ドラッグストアの多店舗化が進展し、CVSの出店競争と合わせ、組織小売業が「生活商圏」を制覇した。
 反面、組織小売業のオーバーストアが問題とされた。大型店・新規出店が加速されれば、当然売場面積に対しての支持人口は減少する。
 98年、商業界の調査では、量販店1店の一次商圏は半径500m〜1qに縮小し、1坪当のカバー世帯数は10〜15世帯になっているとしている。
 その上で、拡張された売場生産性は低下している。
 また、チェーンストア協会発表の既存店売上は、昨年12月で37ヶ月連続減少している。
 そして、セゾングループ・長崎屋・そごう・マイカル・ダイエーグループが危機となった。いずれも「ビッグ・リテイラー」である。
■上位集中と利益不振
 メーカー・卸店の立場からすれば「規模の拡大」は一時期歓迎であった。自らの担当する売場面積が増えるのであるから、「自然増」として好ましいことに映った。(労務提供の煩雑さは別として)結果として、組織小売業の比率は年々高まった。特に「規模の拡大」を志向した業態・チェーンへのシフトが進んだ。
 食品ではGMS・SMに、菓子飲料はCVSに、日用雑貨品はドラッグに、家電品はコジマ・ヤマダなど新興量販チェーンへの上位集中が進んだ。
 しかし、相次ぐ「納価切り下げ」の要求、販促金の要請、さらに「価格破壊」による市場シュリンクによって、利益確保が困難になってきた。
 そしてメーカーのブランド力は低下してきた。
■卸店の規模拡大
 成長と利益が確保されない小売構造の変化に対して、卸売業の対応はこれも「規模の拡大」であった。
 いち早く合併・再編を進めていた食品大手卸は、生鮮・酒を含め「フルライン卸」に着手した。
 地域密着型卸が支配していた日用雑貨卸は、全国規模での合併・再編を相次いで実行した。
 ドラッグチェーンの拡大に対してこれまで薬粧店で利益を上げることができなかった薬系卸は、メーカー系列を超えて結集した。
 卸店は単に「規模の拡大」だけを狙ったと極論すると、反論もあろう。
 物流機能についての「質的な改善」は、世紀末の卸店の大きな役割であった。ただし、この機能改善も「規模」に支えられてこそ効果を発揮する。「物流改善」は進んだが、それによって「売上成長と利益」を支えることはできなかった。「物流改善」により、「コスト」を下げ、「売上・利益」を増やしたというケースは極めて少ない。
 こうした卸店の規模拡大に対して、メーカーは「売り切る」機能を自前化せざるを得なくなった。営業人員を社内外に拡大し、「売り切る」ためのコストを増やし続けた。
 また、上位偏重では「売り切る」ことができなくなると、「下位チェーン」にもコストをかけた。食品・飲料・酒・日用雑貨メーカーの販促費は、上昇を続け、ついに90年代後半では売上対比15%に達した。
 そして、世紀末、メーカーは取引制度の改定を進め、商品の販売価格の支配権を放棄した。
 こうした世紀末の流通課題は、そのまま世紀を超えての課題となっている。
 上位集中はさらに進む、そして「低価格」は常態化する。しかし、「元気な小売は少ない」、利益をどこから生み出すか、卸店との取組みをどう進めるか、社内外営業の生産性をどう高めるか。依然として結論はでていない。ますます混迷しているというのが現状である。
II.流通構造の新たな変化
■外資の参入とメガグループ
 世紀末から進行していた「外資小売」の参入が、00年幕張カルフールの出店によってメーカー戦略を規定しはじめた。最も注目されているウォルマート=アメリカでもKマートを駆逐した世界最強の小売業=の参入も時間の問題であろう。
 円安・株安さらに資産デフレが進行している日本市場は、外資から見れば「買い時」である。カルフールもコストコも実に安いコストで日本参入を果たしている。実現するかどうかは別にして、危機に陥った小売業の、外資による買収も容易になっている。
 外資小売の参入において、話題となったのは、一挙に多店舗化し、欧米・さらにはアジアのようにメガグループとして君臨しえるのかどうかであった。
 この結論を出すのはまだ早すぎるが、予想以上に苦労しているというのが現状であろうか。
 欧米での「メガ寡占」の構造がよく引き合いにだされるが、日本小売資本による「メガグループ化」の進展の方が、日本では現実化している。
 イオングループは、マイカルを引き受け、ドラッグではイオン・ウエルシア・グループを形成した。
 これに対抗するマツモトキヨシ、サンドラッグなどが各々グループ形成を発表している。
 GMSやドラッグのみならず、家電量販やSMにおいても合併・再編のニュースはこと欠かない。
 CVSでは大手5社位に収斂すると言われ、事務所用品ではアスクルが成長しつづけている。
 これまで以上に「勝ち残り」企業による「メガグループ」の進展、一方で「負け組」の撤退は続くであろう。
■店舗の減少
 99年商業統計は、500u以上の「大店舗」において営業をしている「大店舗内商店」が、97年に対して4.3%減少したと報告している。これは始めてのことである。
 危機に瀕した小売企業が最初に手がけるのが不採算店舗の閉店である。「生き残り小売業」においてもこのことは決意しなくてはならない課題となっている。
 CVSの01年中間決算で、ローソンが112店、ファミリーマートが3店店舗減少している。
 市場からの撤退企業と、不採算店舗の閉鎖は、これまで拡張してきた店舗戦略を大きく変化させることになろう。
■寡占化のレベル
 日本の小売業での「メガグループ」の誕生は、「勝ち組」「負け組」の鮮明化、それを背景とした店舗減少、さらに外資のパワーによって間違いなく起きる。
 ただし、そのレベル、言い換えれば「上位寡占」が、どの程度なのかについては、どうも欧米並みとは行かないようである。
 幾つかの要因が指摘できる。
@多様な業態の並存
 欧米の「上位寡占」においては、業態の「勝ち・負け」が背景としてある。日本においてCVSがなくなることは予測できない。ドラッグもしかり、百貨店もがんばり始めた。SMは日本的であり、GMSもいくつかは残る。幕張にカルフールが出店しても、隣接するSMはどっこい生きている。
A業態毎のチャネルキャプテン
 そして、それぞれの業態においてリーディングカンパニーが存在する。単に、「グループ」の恩恵にあずかるのではなく、独自の強みを発揮している。セブンイレブンはイトーヨーカ堂のグループだから強いのではない。CVSとして強いのである。
B日本の消費者
 こうした「多様性」を支えている消費者がいる。多分、日本の消費者は一番「せっかちで、繊細」なのかもしれない。「ワンストップショッピング」として、広大な「施設」を徘徊するほど暇ではない。CVSで、ドラッグで、SMで必要なもので・自分に合った商品を手早くチョイスする方が、「早くて・いいものを・手軽に調達できる」と見ている。
 現時点での外資小売の苦闘はこの「日本の消費者」である。ロイヤリティがあるかどうかは別にして、既存小売企業を支持している消費者がいる。それは、一企業の突出を許さないで、多様性を好んでいる。
■B to C 、B to B
 21世紀の流通を考える上で、ITビジネスを無視はできない。21世紀の幕開け01年は「ITバブルの崩壊」に明け暮れた。声高に叫ばれた「IT革命」の限界も幾多の論調に見られた。しかし、ビジネスの有力なツールとしてのITは誰も異論はない。ツールであるからこそ、技術格差が競争優位の戦略資源となり、勝ち残りを規定していく。
 小売業においても01年はITにからむ具体的な展開がはかられた。西友の「ネットスーパー」、サミットの「ネットチラシ」、CVSの「ITサービス拡大」は連日のように報道されている。
 注目すべきは、一挙に普及し技術革新の激しい携帯電話を活用したプロモーションである。マツモトキヨシ、セブンイレブンが携帯電話によるコミュニケーションや、電子クーポンの実験を始めた。
 携帯電話は、そのモバイル性によって、小売流通の有効なビジネスツールとなるであろう。パソコンの普及が広がっているとしても、自宅でPCを前にしてチラシやクーポンをプリントアウトしているというような姿は、どこか違和感がある。
 パーソナルなモバイルツールとしての携帯電話は、小売業のコミュニケーション、プロモーションに最も適していると言える。
 流通におけるITを検討する場合、このB to C以上に、B to Bについて触れなくてはならない。
 グローバルな観点からのGNX(グローバルネットエクスチェンジ)や、WWRE(ワールドワイドリテールエクスチェンジ)が話題となっている。
 国内でも幾多のエクスチェンジが生まれている。
 オープンな「ネット調達」などというレベルになるのかどうかはいささか疑問であるが、EDIや電子商談を始めとした「ネットグループ」が構築されるのは確実である。
 水平的な「メガグループ」と、メーカー・卸店・小売業を結ぶ「ネットグループ」の出現により、21世紀の流通環境は大きく変化をする。
■チェーンブランド
 小売企業の水平・垂直のグループ化の進展は、個々のチェーンの「個性」を明確にしていく。
 これまで、どちらかといえばメーカーブランドに依存し、変わり映えのしない横並びの小売業であったが、勝ち残り組は、顧客の信頼と選択の手がかりを明確に構築していく。
 元気のいい、ヤオコーやオオゼキ、クイーンズ伊勢丹、成城石井などは最早「ブランド」である。消費者のホームページで、こうした個々のチェーンの評価が記載されている。
 例えばこうだ。
 「『オオゼキ』と他の店との違いは、店員の顧客対応の違いです。お客さんが駐車違反でケーサツに捕まったら、ケーサツとケンカする、というところまでお客サイドに立つのが『オオゼキ』の商法です。近所のオバサンたちは1枚150円のアジの開きを買っても、頼めば無料で焼いてくれる、とひどく評判がよろしい」
 小売業の「ブランド化」は、商品開発を加速させる。今CVSの売れ筋ラーメンは、オリジナルブランドで230〜250円もするものである。化粧品、サプリメントなどナショナルブランドを超える品質と顧客からの信頼を得ている商品がどんどん出てきている。
 20世紀はPB戦略の挫折であった。安くて値入の高いことだを考えた、没個性なPBは決して「ブランド」になれなかった。
 そして、21世紀、個性を明確にし始めたチェーンから「チェーンブランド」が登場した。この流れは、今後とも加速する。小売業にとって「商品開発」が本格化する。
■規制勢力の圧力
 小売業の商品開発を支えているのは、「ネットグループ」に参加しているメーカーである。さらに、小売ビジネスに注力し始めた商社である。
 商社は、先に述べた小売業の再編の促進者にもなっている。
 ただ、小売業再編の促進役として、歓迎したくない勢力がある。多少感情的になるが、銀行と行政である。
 小売業が、ゼネコンと並び「不良債権」の代名詞のようになっている。危機に瀕した小売企業の「再建策」は多分に銀行を意識して立案される。その内容は、全て「金」である。小売企業のグループシナジーは一切無視され、縮小均衡の再建一辺倒になる。事業の活性化策は二の次になる。
 小売業に対する規制も、これまで何度となくあった。大店法がそれであり、それによって、小売業は長い間、「競争」を回避できたが、「ブランド化」の大事な時期を逸してしまった。
 現時点で言えば、銀行も行政も、危機に陥った小売企業を救う立場にたつこともあるが、これまでの「金融行政」の清算としては残念なことが多すぎる。
 ともかく、日本の流通構造の変化に、銀行・行政の関与は無視できない。

本提言は、「営業力開発」誌 2002・No174号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:チャネルマネジメント)に掲載されております。掲載文は以下のV〜Wおよび「ケーススタディ」に続いております。
 
III.メーカーのトレードマーケティング
-コアコンピタンスによる統合戦略
IV.メーカー機能の革新
-カスタマーチームの「入り口」と「出口」



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