健闘している平日需要
「値上げ」が常態化し、円高・株安という経済不安も伴って、消費意欲はますます減退している。「生活防衛」に大きくギアチェンジした消費者は、再度「価格」に敏感になっている。
数多くのカテゴリーでプライベートブランドのシェアが高まり、「価格安」を「価値」としたディスカウント商法がまた脚光を浴びている。
小売流通の話題では、オーケー、トライアルの急成長が注目され、セブン&アイHDのディスカウントショップ「ザ・プライス西新井」、イオンのアコレ平和台駅前店」も連日、見学客で賑わっている。
「値上げ」が常態化してきた今年の4月以降、各業態の既存店前年比は、やや落ち着きを見せている。4月は「タスポ効果」で潤ったコンビニエンスストアを除き、すべての業界で前年比を落とし、マイナスに陥った。最も大きな打撃を受けたのが「外食」である。日本フードサービス協会では4月、既存店でマイナス3.8%になったと報告している。
5月以降は、デコボコはあるが、トレンドとしては「横ばい」程度に落ち着き始めている。
特に、エリアチェーンが多い日本スーパーマーケット協会は、6・7・8月と前年を上回った。
しかし、GMS業態が属している日本チェーンストア協会では、7月にプラスに転じたものの、依然として「水没」に悩んでいる。(図表1参照)
他、小売業では百貨店が依然として苦しい。8月の発表では6ヶ月連続して前年を下回り、好調であった「食品」も2ヶ月マイナスである。
商品別では各発表にあるように「衣料」が悪い。百貨店は14ヶ月連続して既存店マインナスであり、日本チェーンストア協会も数年前年を上回る月はない状態である。平成10年度では年間3.4兆円の売上があったが、昨年度は1.8兆円と半減している。
この業態、商品別動向から推測すると、百貨店・GMS・ファッションなど「ハレ」の需要、「土日」の需要が悪い。逆にCVS・地場スーパー・食品など「平日」に立脚した業態・商品が、厳しい状況でありながらも健闘している。
CVSは、小商圏フォーマットでありオンタイム、「日常」に立脚した業態である。
一方、百貨店は土日の客数が多い。05年にオープンしたそごう心斎橋ではオープン後2ヶ月、平日は4万人で、休日は6万人だと報告している。横浜店でも平日が6万人、休日8万人であるという。
また、GMSも昨今のショッピングセンターであれば「土日・ファミリーショップ」の色彩が強い。
「外食」需要も、家族揃ってという休日の方が高い。
単純には比較できないが、家計調査の日別集計を、「曜日」で加工すると、「土日・祝日」の消費が減退している。今年の夏休み・お盆についても。有料道路の利用率が9.7%減であったということや、海外旅行の不振が報告されている。
不況期には、よく「内食回帰」が言われるが、今回も同じ状況が生まれている。また、小麦の相次ぐ値上げからパンの価格が上がっており、「ごはん・米」が健闘しているという。
今後の小売流通の課題は、いかに「平日=日常」を活性化するかと言える。
3大小売グループの中間決算
「値上げ・経済不安」に突入した08年上期の中間決算が発表されている。小売のメガグループ、イオン、セブン&アイHD、ユニーの3大流通グループの決算が揃っている。
セブン&アイHDでは、営業利益が過去最高となった。特に最大の収益源であるセブンイレブンの貢献が大きい。イトーヨーカ堂は営業利益こそ前年を維持できたが、収入はマイナスとなった。また、そごう、西武百貨店が大きく減収減益となったが、「タスポ効果」にも支えられたセブンイレブンの営業利益が8%伸び、連結営業利益の65%を占めた。
一方、イオンは営業利益が13%減益となり、減損もあり上期純益は3年ぶりに赤字となった。
特に「総合スーパー=GMS」の減益が激しく、単独で42%、イオン北海道は38%の減益、イオン九州は営業利益で赤字となっている。結果、イオンでは「総合スーパー」を今後3ヶ年で60店舗閉鎖すると発表している。
一方、マックスバリュを中心としたSM業態は前年の営業利益を維持した。
ユニーは、収入が1.5%減ったが、営業利益は17%伸びた。特に、これまで振るわなかったサークルKサンクスの貢献が大きく、営業利益で19%増、ユニーグループの62%の営業利益を占めた。
この3大グループの中間決算でも、百貨店・GMS不振、SM・CVS好調の業態トレンドと符合している。ここでもやはり、「ハレ・土日・休日需要」に依拠したビジネスが厳しい状況であること証明している。
ちなみに、「値上げ」に伴って原価率が上昇している。
イオン連結の原価率は、07年中間71.1%が、08年中間で71.5%である。逆に販管費で37.1%を36.9%と抑制した。イオン単独では原価率74.1%が75.1%に、販管費が33.3%が32.1%になっている。
セブン&アイHD連結でも、原価率で73.7%が、74.7%、販管費が31.1%が30.4%となっている。
販管費の抑制にも限界がある。依然として続く「値上げ」への対応策としても、「粗利益率」の改善が最も大きな課題となる。その策として、プライベートブランドの強化と同時に、「平日の需要」、特に価格競争に依らない需要をどのように活性化するかが課題である。大きな需要を生み出していた「土日・祝日」需要は、「特売」が支配しているからである。
「平日需要」のウエイト
07年の「2人以上の全世帯」の家計支出では、「土日・祝日」の家計支出は、全日平均を100として107.2、「月〜金の平日」では96.6となっている。やはり「土日・祝日」の方が支出は多い。食費では118.0:91.5と「土日・祝日」に集中する傾向を示している。外食に至っては154.2:74.4と圧倒的に「土日・祝日」消費である。
ただし、品目によってはわずかであるが「牛乳(宅配含む)」、「医薬品」「理美容用品」「化粧クリーム」「たばこ」が、「平日」の方が支出が多い。
また、「生鮮野菜」は「平日」が99.0と「土日・祝日」と遜色のない支出となっている。「パン」「魚介類」「果物」「油脂調味料」「飲料」「洗濯用洗剤」なども、「平日」でもよく支出されている。
小売市場での、「平日」と「土日・祝日」の統計資料、情報は発表されていないが、
- 平和堂フレンドマート津川店では、平日の客単価が1600〜1800円、休日で2400円。
- イオン新潟南SCでは、休日は5万人、平日は3万人の来店。平日の来店客数計画を下回っているという。
- ダイヤモンドシティ・エアリでは、休日5万人、平日2.5万人を見込んでいる
- けやきウォーク前橋は、平日3万人、休日5万人
- オークワ愛西プラザ店では、平日の客数2300人、客単価1800円、買上点数9.5、商品単価190円弱、休日のそれは3300人、2400円、10.8点、220円を見込んでいるという。
などという情報がある。
ある程度の「平日:休日」の購買力が推測される。
ただ、一般的には「平日」は5日、「土日」は2日分とすれば、延べ総支出は「平日」の方が大きくなる。この意味でも「平日」の需要活性化がいかに重要かが理解できる。
「104週」のMD
「チェーンストアエイジ」では、「104週販促カレンダー」を連載している。「52週MD」では、「平日も土日も同じに扱われており、実際の売場にそぐわない」という視点から、1週を「平日」と「土日」に分け、都合「104サイクル」の販促テーマを、月次で提案している。
例えば、08年9月の「平日テーマ」は、
- 「9/1〜5」月初恒例価格訴求「家計応援」、「朝食・お弁当訴求」、9/1(月)防災・買い置き用品処分セール、9/1「キューイの日」
- 「9/8〜13」「重陽の節句・栗の節句・栗ご飯・マロンの菓子・デザート」、「週末十五夜・芋名月にちなんで里芋・季節の果物・団子・上新粉などを訴求」
- 「9/16〜19」9/18かいわれ大根の日、週末お彼岸、運動会のための弁当商材訴求、給料日前の価格訴求
- 「9/22〜26」引き続き運動会・行楽商材訴求・お彼岸過ぎの季節の変わり目に衣料用防虫訴求
- 「9/29〜10/3」10/1コーヒーの日、10/2豆腐の日、朝食訴求
などである。
9月の「52週MD」でとりあげられる「秋の味覚フェア」「敬老の日」「お彼岸」「鍋物第一弾」などとは違った視点で、「平日需要」を捉えている。
この「104週」の考え方は、週一を基本としている「チラシ」の構成に変化を与えるかも知れない。
多くのチラシは、「土日・祝日需要」を最大のピークとして「テーマ・特売」を設定している。極端に言えば「土日・祝日」だけのチラシになっている場合もある。
一方、「平日」向けでは、いわゆる「日替わり特売」中心で、価格訴求を強化しているにすぎない。平日らしい売出し・提案テーマがあることを認識すべきである。その方が、「価格条件」を抑制する効果が出るかも知れない。
「平日」の活性化策
「平日=日常」のテーマ、活性化策としては、以下のような訴求が想定できる。
@○○の日
先の「9/1キューイの日」のように「○○の日」が増えている。多少馴染みがでた「毎月22日・夫婦の日」や「10/1日本酒の日」「6/15和菓子の日」など、休日にならないまでも、需要活性化テーマとなる。「バレンタイン」や「ホワイトデー」「ハロウィン」などの需要創造の事例もあり、業界・小売が協働して「○○の日」需要の活性化に努めている。(図表4参照)
ヤオコーでは、「○○の日」需要創造を重要なテーマとしており、「カテゴリー企画(○○の日)、チームでの○○の日への取組」を促進している。
各社の直近のチラシでも、
- ベイシア:5/15はヨーグルトの日・ヨーグルトでからだスッキリ
- サミット:6/6は梅酒の日・わが家の味・手作り漬け
- ベイシア:6/16は麦とろの日・6/16は和菓子の日
- ヤオコー:7/2は半夏生・朝食の日
- ベイシア:9/25十五夜
などを売出テーマとしている。
A商圏の客層・ON TIME
特にCVSで、小商圏の客層・日常生活に密着する出店、MD政策として強化されている。
具体的には、サークルKサンクスが東京・八重洲で近郊のオフィスに勤める女性をターゲットに「フォークトーク」を出店した。狙いは「有職女性(子供なし)のONTIMEである。女性比率6割を目標として、パスタを店内で調理し、イートインで楽しんでもらうCVSを開発した。
狭商圏の客層・ON TIMEを狙っての店舗開発、MDは、大学や病院、パーキングエリア、ホテルなどで一般的になっている。
この場合、需要が大きいのは当然「平日」である。
Bシニア需要
「平日」の客層で、今や中心となっているのが「シニア」である。平日のショッピングセンターでゆっくりとくつろいでいる高齢者をよく見かける。リタイアしたシニアには、ある意味では「平日・休日」の区別はない。リビングくらしHOW研究所レポートでは、「夫婦2人での買い物」について、60代では53%が「平日中心」と答えている。またこの世代では、「夫婦2人での外食」も、50%が「平日中心」としている。
「平日」にシニア対象の売出テーマを意識しているチェーンも多い。原信では、毎週木曜日を「いきいきシルバーズデイ」として、65歳以上の顧客に対して5%を割り引くサービスを実施している。
また、その日にはシニアのための商品提案も実施している。
その結果、商圏の65歳以上の人口の10〜15%が会員になり、65歳以上の客単価は平均より30〜40%も多いといい、平均日販は20%増加し、粗利益率も全日平均と同レベルであるという。
C生鮮・惣菜・日配
サミットはかって、ミッションを「今晩の夕食をプロデュースする店」とした。「今晩の夕食」である限り、「平日」も、休日と差が無く消費される。
先に見たように、「平日」の支出が高いのが「青果・魚介・調味料」などで、日常的に献立にのぼる食材である。2人以上世帯合計での日別家計支出で、各品目の曜日別支出をみると、「生鮮鮮魚」「副菜調理済み食品」は月曜日に、「生鮮野菜・大豆加工品(納豆・豆腐)」は火曜日に、平日ピークを迎える。全般的には、生鮮・惣菜・日配は、月・火に支出が上がる傾向がある。
日配のお弁当商材は日曜より月・火・水の方がよく売れるという報告もある。
先ほど見たように、菓子や酒類は「休日」に集中するトレンドとなっており、どちらかと言えば「鮮度の高い」商品は「平日」需要として貢献しているといえよう。
D店頭での早期露出
Cで検討したことは、逆に言えば「月・火」に生鮮・惣菜・日配展開を怠ると、大きな機会ロスをおこすことを示している。
一般に店舗実績は週単位で集計するとされており、その内の月・火の2日間を十分に取り組むか、曖昧にするかは非常に大きな差となる。
また、土日ピークを目指しての「セール企画」についても、平日の取組よって大きな差が出る。
セール企画の場合、商品の配荷、売場展開は火・水曜日位になる。それを早期に露出させるか、遅れてしまうかによって、平日の立ち上がりに差が出て、そのまま土日にも影響すると言われている。
日本のチェーン店舗の利用は、平均して週3〜4回と言われている。このリズムに従って、早期に立ち上げて「馴染み」をつくり、立ち上がりを早くして、「土日」にピークをもっていく、という売場のストーリーつくりが重要である。
また、そのストーリーに沿って、土日前に追加発注を促進するようなオペレーションも重要になる。
土日の実績・刈り取りについて、実は「平日」の取組が大きな影響を与えているのである。
E店舗での取組力の強化
これまで述べてきたことをまとめれば、「平日需要」を押し上げる鍵は店舗・現場が握っているということである。
「○○の日」も本部の企画やチラシだけでは活性化しない。売場展開・メニュー提案、クロスMD、POPの掲載率などの実施力に依拠している。
「商圏・客層」にミートするのも、店舗の商圏理解力にかかっている。近くの小学校の運動会・遠足、野外研修のスケジュールが分かっていない店舗では、これは不可能である。
「シニア」にやさしいかどうか、判り安い売り場をつくれるかどうかも店舗の力である。
「生鮮・惣菜・日配」商品の強化も、発注、荷受け、店頭露出のオペレーションも店舗の力である。
こうした「店舗力」こそ、「平日=日常」の活性化の源泉と言える。
ヤオコーでは、経営方針で
- @徹底した商品開発と育成・・自らの足で商品開発・売り切る力・量目・値頃の見直し、安さのメリハリ
- A時間帯MD・・葉物や鮮魚の時間帯別MDの取組
- B1400チームでの取組強化・・地区、店、部門でスケジュール化を設定している。
そして、重点課題として「『個展』経営の充実」・・「店長中心の運営・権限強化−本部はサポートセンター」と言っている。
店舗力を上げる営業アクション
メーカー営業の立場に立って、この「平日」需要を考えれば、自社商品の収益の拡大を、どんな「需要」で実現するかを明確にすることである。
言い換えてみれば、あまりにも「本部バイヤー商談、特売アイテム、チラシ、山積、リベート」に依拠していないかという問いかけである。
一度、チェーンのPOSで、曜日別に自社商品の売り上げやPI値を検証してみるとよい。曜日別の商品の動きや、特定商品が「休日」に集中している傾向も発見できるだろう。
同時に、自社商品と同じようなトレンドを描く、他のカテゴリー商品を見つけ出してみると良い。きっと、曜日別の顧客の生活が思い浮かぶであろう。
こうした発見を元に、本部に対して「平日需要活性化」の仕組みを、半期・年間にまとめて提案すべきである。「平日=日常」に対する仕掛けは、相互の組織力を動員する必要があるからである。
そして、なによりも「店舗力・売場」に対する働きかけを重視する。「店舗力強化」のためのオペレーションの提案、教育・勉強会がポイントとなる。
時代はまた、「価格」をクローズアップしている。ただ、「価格」だけでは、顧客満足を得ることはできないということも、また真実である。
顧客のリアルな生活=日常、ON TIMEに対する顧客との関係力こそ、満足を確保する源泉である。
その意味で、もっと「平日=日常」を重視した小売とメーカーの取組があっても良いはずである。 |