「客数減少」に悩む外食
政治の混迷もあってか、景気の先行きに不安が生まれている。その影響もあるのか、「外食」がまだ振るわない。
06年の「中食」を抜く、「外食」は24兆3592億円で前年比0.1%の減少である。これで9年連続、前年を下回っている。(図表1参照)
チェーンが加盟している「日本フードサービス協会」の発表では、07年1〜12月で4.1%の増加で4年連続の増加と報じているが、既存店データでは1.1%の増加にとどまる。さらに業態別に見れば、伸びているのはファーストフードと「カフェ」に代表される「喫茶」で、ファミリーレストランで2.6%の減少、パブ・居酒屋でも3.4%の減少、ディナーレストランも1.1%の減少となっている。「外食」全体としては、チェーンの多店舗化による上位集中の傾向を強めながら、零細店が淘汰され、かつチェーンの既存店が前年マイナスに苦しむという、厳しい状態であると言えよう。(図表2参照)
「外食」が苦しんでいるのは、小売チェーンと同じように「顧客減少」である。先の「日本フードサービス協会」報告でも、ファミリーレストラン、パブ居酒屋の既存店が低迷しているのは、「客数」がマイナスだからである。直近のデータでも、ファーストフードは客数が伸びているが、他はマイナスである。先に伸びているとした「喫茶」でも最近は前年に追いつかない月が多くなっている。
「客数減少」の「売上」に占める影響が著しいということは、個別チェーンの実績を見ると、より明確になる。
ファーストフードだけが元気だとしたが、その中でも「マクドナルド」が抜きんでている。直近データでも売上げが二ケタ増の何度かあり、それは同じように二ケタ増の「客数増加」に支えられている。モスフードも一時期の低迷を抜けた感じがある。それは「客数」が増加したからである。
一方、他の既存店売上げで苦しんでいるチェーンは、総じて「客数減少」となっている。
モスフードでは、昨年11月の中間決算報告会で「客数回復が最大の経営課題・・そのための強い定番作り・『定番革新』」と宣言した。さらに07年4〜10月の実績で、「定番革新後のおいしさが評価され、ご来店客数が前年同期比12ポイントアップ、『継続的な客数回復による売上げ増』がなったと報告している。
マクドナルドの原田社長は「我々マスプレーヤーにとって、重視すべきは『客数』・客単価ではない。『新規顧客の開拓』と『来店頻度の向上』・・・そのテーマに応じて対策を練ることが重要」としている。
「外食」もまた、顧客からの「支持」は「客数」によって評価されるのである。
外食顧客層の変化
「客数減少」は、言い換えてみれば「少子高齢化・人口減少」に要因を求めることもできるが、真の課題はもっと複雑である。
97年の市場規模を100とした時の指数では、「外食」でもっとも健闘しているのは「学校給食」で94.7、次いで「飲食店」の91.8である。下落が激しいのは「宿泊施設」で66.7、1/3の需要を失っている。さらに「喫茶・居酒屋」74.9、「料亭・バー」75.1となっている。このふたつとも「酒」が中心となるような業態である。また「宿泊施設」も「宴会」では酒がからんでいる。
「外食」が高度成長をとげたのは70.80年代である。この時代の成長を支えたのが「宿泊施設」「料亭・バー」「喫茶・居酒屋」である。つまり、「外食」は酒によって高度成長し、酒によってシュリンクしているのである。
この外食総研の統計区分が古いのだが、今や「喫茶」と「居酒屋」では客層も来店動機も非常に異なっている。日本フードサービス協会では、「喫茶」と「パブ・居酒屋」を区分しているが、それによれば「喫茶」は伸びて、「パブ・居酒屋」は減少していた。飲酒運転の罰則、取り締まりが強化されたことを要因として挙げる論調もあるが、真の課題は「外食すること」と「酒を飲むこと」が乖離し始めているからである。さらに、付け足せば「ファミリー・集団で外食すること」の低下が「ファミリーレストラン」も苦しめている。
先の「外食高度成長」のころ、「外食」には単身者があふれていた。また、「バー、酒場」から「飲酒外食デビュー」にしたのは団塊世代だった。
しかし、現代の若年層にとって「外食デビュー」はファーストフードでありドトールやスターバックスである。「酒」を伴っていない「外食」を通過した世代が、現在の「外食世代」である。若年単身世代は、「飲酒外食」を避けて通過している。
さらに、「単身」について言えば、現在の単身世帯の内50.4%、半分以上が50代以上でその2/3は女性である。
「単身者」の構造と、外食行動が全く異なってきている。
「外食」を支えるもうひとつの客層が「子育てファミリー」である。ところが90年代から始まった「未婚世代」が、現在では40代に突入しようとしている。05年のデータでは、30代前半男性の47%が未婚、女性では32%であった。これは「晩婚」ではなく、「結婚しない・できない」世代である。その多くが、シングルとして現在も団塊世代の親たちと暮らしている。
また、その上の「新人類」と呼ばれた世代は、「外食デビュー」のころバブルを経験し、さらにCVS弁当・おにぎりから育った世代である。この世代の女性・主婦は、「料理を手作りにしたい」とする率が、全世代で(その下の世代女性よりも)、いつも最も低い。その価値観をどのステージになっても持ち続けている。この世代「市販の合わせ調味料を使う」「インスタントで昼食をすます」「調理済みの冷食を買う」「出来合の食品を詰め合わせて弁当をつくる」「ファーストフードで昼食をすます」率が最も高い。
「子育てファミリー」として、「自分で料理すること」や「ちょっとハレの気分で外食すること」から、かけ離れたライフスタイルをもち、「食べること」を軽くしてしまった反面、「食べることの情報」は好きな層である。
「外食」の厳しさは、こうした顧客構造の変化に「真の要因」がある。
重くのしかかる「調達難」「安全」
「偽装問題」「中国餃子問題」など、「食の安全性・信頼性」に関する不信感が蔓延している。
「ほとんどの店で、不正をしている」という認識が、消費者の79%にまで至っているという。(日経レストラン調べ)
06年残留農薬規制を厳しくするポジティブリスト制度が導入されて以来、基準値以上の有害物質を含んだ中国産食材が続出した。野菜・うなぎなど、中国からの輸入量は大幅に減少した。「安心」を巡っての食材の調達難はBSE問題でアメリカからの牛肉がストップし、「吉野家」始め牛丼メニューが姿を消したころを思い出させる。 その上「原料値上げ」である。「安全性問題」とは関係のない食材、食用油や小麦粉、バターまで値上がりした。さらに、ほとんどの食材で値上げが検討されていることから、今後とも玉突き的に値上げが続くという。
こうした状況は、「価格が上がる」というだけではなく、「お金をいくら出しても食材がない」という調達難になることも予測させる。
さらには、「人材の調達難」も深刻になっている。「店長の残業代」や、今年施行された「パートタイム労働法」、さらにはパートに対する社会保険適応のさらなる拡大によって、「人件費」上がり、時間給が上がる、その上で「パートが集まらない」という懸念もある。
その結果、ついにマクドナルドが「地域価格」を導入した。「高い地域」は東京・神奈川・大阪・京都など大都市である。「安い地域」は宮城・福島・山形・鳥取・島根である。「ビッグマック」では、「高い地域」は290円、「安い地域」では260円、他の「現状維持の地域」では280円である。
この動きに「外食」で同調したのはカレーの「壱番屋」位であるが、このまま「調達難と値上げ」が続くようでは、選択肢のひとつとして有効な手段かもしれない。
変革期の「外食」のトレンド
重苦しさがのしかかる「外食業界」であるが、華やかさは失っていない。昨年は、「東京ミッドタウン」「新丸ビル」「銀座マロニエゲート」「銀座ニッタビル」「有楽町イトシア」「東京倶楽部ビル」、品川・立川eキュート、さらに「新宿伊勢丹」始め、多くの「デパ地下」に注目の「中食・外食」のショップがオープンした。その流れは3月「赤坂サカス」まで続いている。
そして、11月「ミシュランガイド東京版」が発売され、8件の三ツ星が生まれた。
その度に、TVは注目のショップを紹介し、「食の情報化」はさらに活発になっている。
また、「外食減少」によって廃業する事業所も多いが、また新しく参入してくる事業所も多い。01年に存在した「食堂・レストラン」で、06年にまで「存続」していたのは67.2%、1/3近くが廃業したことになる。しかし、06年までに新しく「新設」された「食堂・レストラン」は、01年の事業所数に対して29%、確かにマクロでは事業所は減少しているが、逆に言えば「新陳代謝」がよいということにもなる。やはり魅力がある産業なのである。
明らかに変革期にある「外食」のトレンドをいくつか確認してみよう。
1・業界再編成
07年4月、ドトールが「洋麺屋五右衛門」を展開する日本レストランシステムと経営統合をすると発表した。06年の外食ランキングでは、ドトールは12位、日本レストランシステムは64位であった。統合によって1300億近くになり、ケンタッキーフライドチキン(6位)とほぼ並ぶ地位に就ける。
5月、すかいらーくは小僧寿し本部を完全子会社にした。この吸収によってすかいらーくの売上げは3250億ほどに達する。
京樽やはなまるを子会社にした吉野屋HDは、07年9月「元気七輪焼肉牛繁」、10月「びっくりラーメン」を傘下に入れ、さらには12月ステーキチェーン最大手、「どん」と資本提携を結ぶなど、M&Aを加速している。
今年に入って、ミスタードーナッツを運営するダスキンと、モスフードサービスが資本・業務提携で合意したという報道もあった。
日本の「外食創業」は70年代にファーストフード、ファミリーレストランが誕生してから始まった。それが40年近くを経て創業者のリタイア時代に突入していることが、業界再編の店舗を早くしているという読みもある。
2・マルチブランド
ドトールと日本レストランシステムは、経営統合によって「マルチブランド戦略」が可能になると強調している。「ドトール、エクセルシオール」に、「洋麺屋五右衛門、カフェ・マウカメドウズ、オリーブの木、カフェ・コロラド」などが加わり同じ多様な選択肢が生まれている。
「客数減少」から抜け出したモスフードサービスは、「赤モスから進化したモスバーガーの業態コンセプト」として「マルチ業態戦略」を掲示している。これまで進めてきた「グリーンモス」を「ファストカジュアルな業態」として、他に「クラシックモス」「緑モスのアップグレード:ディックブルーナモデル」「フードコート型省スペースモデル」「狭商圏用小型店モデル」「宅配・テイクアウト専門」の6つの業態を配置している。
マクドナルドは「マックカフェ」を、すかいらーくは「ジョナサン・ブレッド」を展開している。
そして、「ほっかほっか亭」が、「プレナスほっかほっか亭」と、ハークスレイを中心とする「総本部ほっかほっか亭」に、マルチになった。
3・「全ての機会」でメニュー開発
「外食」では、通常「春夏」「秋冬」という2回の「グランドメニューの改訂」が行われていたが、近年ではきめ細かな「開発プロセス」が準備されてきている。
「若菜」では、「春夏秋冬」の4回に、「初」と「盛」の2回を掛け合わせて、年8回、さらに歳時があるため、開発行為は日常化されているという。
「春」「夏」「秋」「冬」の4回に渡って「新メニュー」を開発ことが当然のアクションになっている。
さらに、「時間帯メニュー」の開発も盛んである。「外食・中食」の総マーケットは06年で26兆であるが、その45%が17時から23時の「夜間」、10時から17時の「昼間」は37%であるが、6から10時の「早朝」は15%しかない。
「中食」を支えているコンビニエンスストアでは、「早朝」と「夜間」が1:2であるという。とすれば、「早朝マーケット」はまだまだ開拓する余地があると言うことである。
マクドナルドは、午前10時半までの朝メニューの時間帯に「メガマフィン」を販売すると発表した。08年4月4日〜5月8日の期間限定。さらに期間中、午前10時半から午後7時までは「メガマック」を、午後7時以降は「メガてりやき」も販売し、一日中いずれかの「メガ」商品を味わえるようにした。
4・「体によいこと・食育」の強化
学校給食について中央教育審議会は、「子どもの心身の健康を守り、安全・安心を確保するために、学校全体として取り組むべき方策について」、 (1)「地場産物を学校給食に活用すること」。(2)学校全体での食育推進体制を整備するための栄養教諭の配置促進と研修機会の充実(3)学校全体としての「食に関する指導計画」を学校長の責任で作成、などを法的に明確化するとした。学校給食においては最大のテーマになりそうであり、栄養教諭の果たす役割が大きくなりそうである。
一方、事業所給食での最大のテーマは「メタボリックシンドローム」である。4月から始まる「メタボ検診」と、その成果による格付けが進とあって、「メタボ対策メニュー」の開発が盛んである。
事業所給食の大手エームサービスでは、「おいしく継続」できる「メタボリCare」(登録)を提唱し、1ケ月に相当する20日分のメニューを開発している。
グリーンハウスでは、事業所従業員に対してインターネットでメタボリックシンドロームに関する情報、自己管理を行うサービスを開発した。
「体によいこと」は、野菜メニューの開発、特に「サラダメニュー」の強化にも現れている。
外食産業総合調査研究センターによれば、中食・外食の資材仕入れの中で野菜の占める率は11.7%であるという。ファーストフードで12%、ファミリーレストランで8%、中華専門店では14%、給食では25%など、業態によって差があるといわれる。近年、野菜を使ったメニューで差別化をはかる動きがあるとしている。
ロイヤルHDでは、高級新業態「シズラー」でサラダバーを充実、近隣農家から仕入れた野菜を10種類ほど揃えているという。
5・CVSのファーストフード強化
セブンイレブンは08年8月までに店内で調理した商品を販売する店舗を8000店に拡大すると発表した。「フライヤー」を導入し作りたてのフライドチキンやコロッケ、から揚げを販売する。こうした店内調理品の売上げは2.5%になるという。
店内調理品のウエイトが一番高いのはミニストップで5%近いと言われている。近年、店内調理を強化するコンビニエンスが増え、ファミリーマートでは「できたてファミマキッチン」のネーミングで「フライヤー商品」を強化している。
ナチュラルローソンでは「焼きたてパン/ベーカリー」を始めた。店内で24時間パンを焼いておりクイニーアマンやナンピザソーセージ、ハムマヨデニッシュなどもある。店内にはイートインコーナーもあり、カフェのような店舗になっている。
一方で、モスフードサービスやすかいらーくのように「宅配」を強化する「外食」があり、「中食と外食」の境はますますなくなってきている。
6・安心・安全・コンプライアンス
「外食」におけるトレンドで、真っ先に確認すべき課題が、この「安心・安全」、もっと大きなフレームで言えば「コンプライアンス」であろう。
昨年、吹き荒れた「偽装問題」はまだまだ収まってはいない。
外食での取組は、ロイヤルホストや「藍屋」、モスフードサービスで産地表示が進んでいるものの、「安全・安心」における根本的な解決策・改善策はまだ提起されていない。
また、「環境問題」においても、07年12月施行された「食品リサイクル法」では、「外食」は2012年までに40%を目標値として設定され、スタート時では31%であったと報告されている。
しかし大きなフレームで環境問題を考えれば、問題は「リサイクル率」ではなく、「廃棄量」であろう。一般に「食堂・レストラン」では、「食べ残し」の割合は3%と言われているが、「テーブルに出さなくて処分されたもの」「セントラルキッチンで作って出荷されなかったもの」「食材メーカーで留め型としてストックされて出荷されなかったもの」は、どれだけあるのだろうか。少なくとも3%の数倍にはなるであろう。
安全・安心を求めて食材調達が困難になり、「顔が分かる国産品」が重宝がられているにもかかわらず、「自給率」は先進国で最低という、この日本の「食」。それにおおきな役割を果たしている「外食」が、社会に果たす役割とは何か、そのことの明確な取組が求められている。
産業としての総合力
どの産業も同じかも知れないが、「外食産業」は、ひとつの会社では何もできない。というより、産業として必要な機能の多くを「外部」に委ねている。
例えば、「食材の調達・加工・メニュー開発、配送」は、その多くを「メーカー」が手伝ってくれた。卸も食材の調達・仕入れ・ストック、さらには配送を一括で引き受けてくれた。
店舗を作ると言えば、店舗設計企業もあるが、厨房機器のメーカーがそのプロデュースをしてくれる。厨房や食器を洗浄する仕組みは厨房機器メーカーや洗剤メーカーがメンテナンスしてくれる。
少し話題になれば、テレビや雑誌が広告宣伝をしてくれる。
確かに「味」という、外食に最も大切な機能はその企業にノウハウとしてある。しかし、「味がよければ」客がついてきてくれるという時代ではなくなっている、ということを、これまでの実績、顧客、トレンドで確認してきたのである。
これからの「外食」として、「総合力」の時代、もう少し言葉を足すのなら、「自社にしかできないシステム・仕組み」をどのように構築していくのか、それが課題である。
嘗て、吉野家が復活した折、吉野家のコンセプトを「うまい・はやい・安い」から、「うまい・安い・はやい」と安さを強調する順に変えたという。
それを実現するためには、1日の客数をそれまでの700人から900人に増やす必要があり、肉の解凍が1日かかっていたものを「5分」でできるように高速解凍機を導入し、1日35トンのスライスを、45トンのスライスができるようにした。さらに店舗では、人時客数11人を、14人にアップさせるために両手を駆使した配膳を指導したと言われている。
単に、メーカー、卸に納価をたたいた訳ではない。
ファーストフードが元気になっているが、この数年前までは「ファーストフードはここまでか」という常態であった。マクドナルドですら、「バリュープライス」以後低迷し、モスフードサービスもケンタッキーフライドチキンも大きな「客数減少」に悩んできた。
それを脱したのは、数年前から取り組んでいた改革であった。
こうした努力を、今苦しんでいる業態・チェーンは通過しなくてはならない。そうすれば、これまで手伝ってくれた「外部」の取引先が、大きな役割を果たしてくれるであろう。
「外食」企業の周りには、解決能力がある「評価されている企業」がある。
マクドナルドの物流を担っているのは年商1000億を超えるまでいたったマクドナルド専用物流会社「富士エコー」である。セブンイレブンの「地域別の弁当・おにぎり」を支えているのは、グループで1400億、そのほとんどをセブンイレブンに納入している「わらべや日洋グループ」である。
スーパーマーケットの惣菜を知り尽くしているのは、1店1店にプラスティックトレーを納品している包材メーカー「エフピコ」である。1000億円の売上げがある。
こうした外食企業、食材メーカー、加工メーカー、卸、機器メーカー、洗剤メーカー、マスコミなどを含めた、大きなネットワークが「外食産業」を支えている。
すべての機能を、新しい時代に向けて束ね直す時代に来ている。
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