「中食の牽引者」:食品スーパー
「食」の外部化は、時代の大きな流れである。「食」が、TVや雑誌の「情報価値」に依存すればするほど、「食」は外部化する。1975年「食」の外部化率は28.4%であった。そのうち外食が占める率は27.8%であり、外部化のほとんどは、外で食べる「外食」が中心であった。
92年「食」の外部化率は41.3%に大きく浮上する。その時点で外食率は37.5%であった。その差の3.8%が、いわゆる「中食」である。お弁当や惣菜を買ってきて家で食べるスタイルである。
「食」の外部化率は、21世紀に入っても依然として伸び続けている。しかし、外食率は97年の37.6%をピークとして徐々に低下を始めた。逆に言えば、この間「中食」が伸び続けているわけである。03年では7.7%が「中食」となった。外食率の35.9%に対して5分の1が「中食」となっている(図表1参照)
外食総研では毎年外食の市場規模を発表している。06年で外食の総市場規模は24兆円と発表されている。「中食」に当たる調理品の市場6.2兆円である。外食の市場規模は徐々にシュリンクしている。一方、調理品なの市場規模は徐々に拡大している。
06年では外食と調理品を加えた広い意味での「外食」は30.5兆円である。その5分の1に当たる6.2兆円が「中食」となっている。(図表2参照)
また、惣菜協会では惣菜の市場規模を06年推計で7.9兆円と予測している。そのチャネル別内訳は、最も多いのが惣菜専門店で39.4%を占めている。次いでコンビニエンスストアが25.9%を占める。さらに、食品スーパー22.9%、GMSにあたる総合スーパーが11.5%である。話題のデパート地下の百貨店は直営のみをとった場合0.2兆円で、惣菜全体に占める率は0.2%にすぎない。
チャネル別の伸びでは、06年においては百貨店が14.3%と突出して伸びている。しばらく「デパ地下」ブームも沈静化していたが、06年、07年と百貨店の改装が相次ぎ、再度「デパ 地下」ブームが再来している。
次いで伸びているのは、食品スーパーである。惣菜の主要チャネルである専門店とコンビニエンスストアは構成比を下げている。
後でも触れるが、惣菜における客層の変化がコンビニエンスストアから食品スーパーへのシフトを促進している。近年のコンビニエンスストアの不振は、この惣菜の不振と大きな関連がある。逆に言えば、食品スーパーの健闘は、惣菜におけるチャネルキャプテンへのぼりつめる過程であるともいえる。(図表3参照)
少し古いデータだが、惣菜の種類では、お弁当おにぎりの米飯類が4割強を占めている。コロッケ、トンカツ、サラダなどの一般惣菜菜は44%である。この構成比は、チャネルにおいて、大きな差がある。コンビニエンスストアでは6割強が米飯類で、次いで調理パンが23%を占める。コンビニエンスストアでの惣菜の大半を主食が占めている。
対して食品スーパーでは、51%が一般惣菜であり、米飯類は42%である。調理パンにいたっては2%でしかない。コンビニエンスストアを除く他のチャネルは食品スーパーのような構成となっている。コンビニエンスストアにおける既存店の不振、ないし、惣菜の不振は、この米飯類の不振ともいえる。半面、他のチャネルが得意とする一般惣菜の魅力のなさともいえる。(図表4参照)
「外食」のリーダー:CVS
「食」を中軸とするどのチェーンも惣菜を強化対象としている。セブンイレブンでは総売上2.6兆円の内、約9000億円が惣菜である。この売上はGMSのジャスコ、イトーヨーカ堂を大きく上回っている。コンビニエンスストアのローソンは約3000億円が惣菜である。
これらのコンビニエンスストアの多くは、先ほど述べたように、お弁当・すし・調理パンなど主食惣菜が中心である。食品の売り上げに占める惣菜の売上が最も大きいのは、ミニストップで、4割を占める。
一方、GMS、食品スーパーで、食品売上の10%以上を惣菜が占めているのはヤオコーだけである。(図表5参照)
巷の「外食ランキング」の1位は、好調のマクドナルドである。06年の売上は4400億円である。セブンイレブンの菜惣売上は9000億円でマクドナルドをはるかに凌駕している。同じように、外食ランキング2位のすかいらーくをローソンの惣菜売上が上回る。さらに、ほっかほっか亭本部をファミリーマートが上回る。不振に悩むCVSであるが、広い意味での外食のチャネルキャプテンは依然としてコンビニエンスストアである。
ちなみに、惣菜専門チャネルの大手であるほっかほっか亭本部は約2000億円であり、次いで本家かまどやが1150億円である。この両者とも昨年実績を下回っている。この傾向は、以前から引き続いており、ほっかほっか亭本部は、03年に2000億であったが、それ以降伸び悩んでいる。また本家かまどやも、03年1200億円から徐々に売上げを落としている。
同じ持ち帰り弁当のオリジン東秀がイオンの傘下に入ったように、惣菜の「専門チェーン」は、やや厳しい状況にある。惣菜も、コトブキ、不二家
などの専門店が衰退したスイーツと同じように、「CVS・スーパーなどの量販店」に大きくシフトしている。GMSで惣菜の売上が最も高いジャスコはスターバックスの売上を超える780億円である。
「惣菜革新」に挑戦するGMS
急ピッチで惣菜への取り組みを強化しているのはGMSである。オリジン東秀を傘下に入れたイオンは、「デリカ事業改革チーム」を立ち上げ、惣菜売上構成比を現在の10%弱から15%に引き上げる目標を立てた。オリジン東秀の商品をグループに導入するほか、そのノウハウを活用して、開発・生産、オペレーションまでを一貫して仕上げる「SPF」(スペシャルキー・リテーラー・オブ・プライベートラベル・フード)に挑戦する。
イオンの惣菜戦略の特徴は、惣菜とリカーを関連づけている点である。イオンでは各店舗で「地産池消」を強化しており、特に日本酒においては、その土地の地酒をほとんど店頭化している。たとえば、千葉の店では、飯沼酒造・吉野酒造・守屋酒造・鍋店・寒菊銘醸・寺田本家・亀田酒造・岩瀬酒造などが店頭化されており、埼玉では武甲正宗・秩父錦・晴雲・帝松・晴菊・力士・文楽・寒梅・都鷹・天覧山などである。それぞれの蔵の特定名称酒までの品揃えを実現しており、店舗によっては各蔵の杜氏の顔写真まで掲載している。
日本酒と惣菜との関連付けは、「デパ地下」ブームを再来させた新宿伊勢丹と同じ方向性である。新宿伊勢丹では日本酒の売り場は和惣菜と同じゾーンにあり、ワインや洋酒とは離れている。購入履歴分析で、和惣菜と日本酒の関連購買が多いことに着目したと言われている。イオンも、同じ事を発見したのかも知れない。
またイオンでは、オリジン東秀の「量り売り」などの売り方を取り入れた「彩り畑」の展開に入った。
イトーヨーカ堂では、惣菜売り場が、店舗活性化プログラムの中で大きな位置を占めている。和菓子売り場で取り入れた「実演コーナー:杵餅コーナー」のように、「サラダコーナー」「中華惣菜コーナー」「まぐろショップ」が作られており、「ららぽーと横浜」では、フルーツ&ベジタブルマイスターのいる「フルーツステーション」も新設している。
これらの仕掛けは、グループのシェルガーデンのノウハウを取り入れたものだという。
ダイエーでも惣菜は、革新プログラムとして取り上げられいる。05年に全員女性の「デリカプロジェクト」を立ち上げ、MD・オペレーションの革新プランを築き上げた。革新策には辻クッキングスクールと連携し、新しいレシピにも着手している。さらには、顧客アンケートから季節・歳時のメニューを強化している。
こうした惣菜の革新的な取り組みは、食品スーパーでも共通している。
東急ストアでは、地盤の東急沿線の駅に「エキナカ」として出店し、その地の乗降客のニーズにきめ細かく応えようとしている。
ヤオコーでは、「第四の生鮮」と言われる惣菜を、青果売場と一体化させたフロアレイアウトに取り組んでいる。
ユーストアでも、日雑売場を縮小し惣菜売場を拡大、さらにゆったりとした通路を実現している。
さらに、「高級スーパー」での惣菜の取組は出店戦略の重要な要素として重視されている。成城石井は、ミニスーパーの展開の重要な要素として惣菜を位置づけている。生鮮をおかない「高品質ミニスーパー」では、他の店との圧倒的な差別化を実現するポイントが惣菜であるとしている。また、「新丸ビル」への出店のように、店舗の多くを惣菜売場が占めるようなフォーマットも開発している。
紀ノ国屋も、出店戦略の要が惣菜である。包括提携を結んでいる高島屋へは、新宿で小型高質スーパーを出店した。また、JR平塚駅の「アントレ」に出店し、07年10月にはエキュート立川に出店している。いずれも、惣菜を基軸にした店舗となっている。(図表6参照 21-22頁表示)
GMS、食品スーパーには共通する取組方式がある。
まず、第一には「提携・共同する」ネットワークを構築しているという点である。オリジン東秀と組んだイオン、シェルガーデンのノウハウを活用したイトーヨーカ堂、辻クッキングスクールのダイエー、さらに、高島屋と取組んだ紀ノ国屋などがそれである。
イオンの岡田社長が言うように「惣菜はPBである」。NBの商品力を頼っているような訳にはいかない。かといって、量販小売りには開発力・生産力の資源が乏しい。結果的に、多くのネットワークに支えられながら、「プライベートブランド」としての惣菜を、「店舗選択のてがかり」として強化しているのである。
第二には、大きな店舗フォーマットの変化を伴っている点である。単純な既存売場のゴンドラの中だけでの話ではない。青果売場と一体化させたヤオコー、様々なコーナーを作り上げているイトーヨーカ堂、惣菜を基幹売場にした東急ストア、紀ノ国屋、成城石井などである。
そして、これが最も共通している点かも知れないが、第三には「手間をかけている」点である。
多くのGMS・食品スーパー、高級スーパーの惣菜戦略は「対面」である。しかも、イトーヨーカ堂のように「プロ」のコンシェルジュまで配置しているチェーンもある。また、多品種を作り出す作業も「人手」である。堂々と「手作り」を訴求している「ぎゅーとら」のような店もある。このチェーン、惣菜比率は15%である。
実後で述べるが、この「人手」が惣菜戦略の大きな解決課題となっている。
客層拡大手段としての惣菜:CVS
惣菜におけるチャネルキャプテンのコンビニエンスストアでは、きめの細かい対応が行われている。
多くの店舗を基盤として、量産技術で拡大してきたコンビニエンスストアは、惣菜でもその量産技術を武器としていた。特に、おにぎりは、あの品質であの価格で実現することは、他のチャネルでは不可能に近い。おにぎりの市場ではコンビニエンスストアのシェアが圧倒的なのはこの量産技術によるところが大きい。
そのコンビニエンスが、きめ細かさを武器としてきた。典型的には「地域商品」である。
セブンイレブンでは、お弁当の売り上げの6割が「地域商品」であると言われている。各地域での売り上げのベストスリーにはほとんど異なったアイテムが並んでいることが目立つ。(図表7参照)
ファミリーマートでも、地域商品の占める割合は30%だったと言われ、それが42%に拡大したといわれる。
サークルKサンクスでは、全国を13のブロックに分け、地域の嗜好、素材を重視した開発を行っている。(図表8参照)
こうした地域戦略も、伸び悩む惣菜から脱却する手段である。CVSの惣菜戦略は、基本的には「地域・顧客戦略」と、「差別化戦略」である。
特に、CVSの顧客戦略は、かっての「単身・独身男性」という客層から、少子高齢化の影響もあって、どんどん高齢にシフトしている。ファミリーマートは、中高年層向けに魚を切り口にしたメニューを開発し、ローソンでは、ストア100で、高齢者や女性客の取り込みを意識している。
「差別化」を大きく意識しているのは、トップグループから離れた中堅CVSである。イオンのグループ戦略のバックアップを受けながら、カウンターFF、店内調理で差別化するミニストップがまさにその好例である。ミニストップのカウンターFFは、ファミリーマートにも大きな影響を与えている。
ミニストップ同様、店内調理に活路を見出しているのが、ホットスパー、デイリーヤマザキ、ココストア、セイコーマートなどである。惣菜、ベーキングを柱に、店内にステーション・スポットを開設し「できたて」を強調している。(図表9参照 23頁表示)
ただし、この「手間・人手」が販管費を引き上げる元凶になっており、経営のバランスは決して楽なものではない。
「手間・人手」をサポートするベンダー・メーカー
成長市場である惣菜、「PB」としての差別的な手段としての惣菜、しかし、それを追及すればするほど、ついて回る「手間・人手」の壁、小売チェーンはこの壁に悩んでいる。
各量販チェーンには、惣菜を開発・製造・運営する会社が外部にある。
例えば、イオンではフードサプライジャスコという調達・加工会社がある。860億円の会社である。イトーヨーカ堂では青果、乾物、中華惣菜の製造および販売のアイワイフーズがあり、同じグループのヨークベニマルにはライフフーズがある。ライフフーズは370億の売上げである。ヤオコーでは、惣菜・寿司・ベーカリーを製造・販売する三味を別会社化した。
これらは「自前」の開発・製造・販売組織である。
しかし、7兆円もの大きなフィールドでは、自前の会社だけでカバーすることはできない。
各社には「ベンダー」という、協力会社が存在している。
セブンイレブンにはわらべや日洋という、おにぎりからスタートした協力集団がサポートしている。この会社、売上げは連結で1400億円である。その大半がセブンイレブン1社に供給されている。
ファミリーマートにはトオカツフーズ、朝日食品というベンダーがある。
こうしたベンダーには、大手の食品メーカーが設立した会社も珍しくはない。
フジパングループには、富士でりかぐるーぷ本社があり、ミニストップ向けの「日本デリカフレッシュ」、サークルKサンクス向けの「日本フーズデリカ」、ファミリーマート向けの「フジデリカ」の3社がある。
日清製粉グループには、中食・惣菜事業の戦略会社であるイニシオフーズという会社がある。その日清製粉では、2年前からドーナツミックスに注力し、リテールベーカリー、CVS、ドーナツカフェ、ドーナツ専門店などへ向けて提案を強化している。ユーザーとのコミュニケーションサイト「創・食Club」を充実化、これを活用してドーナツ類の品揃え、売場提案をユーザーに絶えず発信している。
06年からは、業態対応を明確にするために第1課(CVS、スーパー)、第2課(外食)、第3課(惣菜、加工メーカー)にそれぞれ専門担当別に編成し、さらに営業技術課を設けて4課体制としている。
CVS惣菜での協働取組みの早かったキューピーでも、カゴメでも、業務用惣菜向け事業商品は好調である。
この他、卸もGMS、SM、CVSの惣菜にかける「手間・人手」を軽減しつつ、新たな開発、店作り、惣菜の製造に協力している。
まさに、量販店惣菜の世界は、「協働」の大きなネットワークである。単に、自社商品を売り込めばよいというような営業ではすまない世界といえる。
開発・製造連合を超えて
これまであまり触れてこなかったが、マーケティングの基本である(惣菜の)「ターゲット」は誰なのか?
様々な分析があるが、グリーンスタンプの「家庭の惣菜利用調査」によると、惣菜を3日に1度以上購入している主婦の割合が高いのは50代以上や40代後半で、逆に低かったのは30代前半や20代などの子育て世代だった。
育児、子育てに忙しいステージより、それをちょっと抜けられたステージの方が惣菜をよく利用している。このステージ、まさにGMS・SMの顧客層である。
惣菜の主なターゲットが、「シングル」であることは容易に想像がつく。しかし、この「シングル」、昔の「独身」ではない。NTTデータライフスケープマーケティングは、単独世帯の食実態「シングルス食マップ」をまとめた。それによると、20年前、団塊世代は30代であったころ、男性シングルスの7割以上が40歳未満で、30歳未満が5割を占めていた。
現在のシングルスは男性の5割が40歳以上、女性は60歳以上が5割を占めるという。「未婚の若い人」ではなく「未婚の中年」が大勢になりつつある。女性は「シルバーシングルス」が主流である。
さらに、死別の「高齢者女性単身」も確実に増加している。こうした層が惣菜の成長を支えているのである。
だからこそ、CVSが苦しくなる。米飯・主食しかない、CVSの惣菜が「高くて・みすぼらしく」なる。
日ごろ通いなれたSMで、副惣菜を購入すれば、ちょっとリッチで安くて済む。これが、現在の「惣菜ターゲット」である。
冒頭、百貨店の「デパ地下」が再度、ブームになっているといっ た。デパ地下に加え、「エキナカ」が話題になっている。大宮、品川、立川の「エキュート」は、乗降客以上に人を呼んでいる。そこで買い物をする多くが、先のターゲットとダブる。その人気のテナントは、CVS、GMS、SMとは、またワンランク違う「選択のてがかり」をもっている。(図表10参照)
量販店惣菜は、いわば「家庭の味」の再現を目指してきた。名もない一般の人が作ってきた料理を、量産してみせたのである。しかし、もともとがあまり「差別性のない」(心理的には別であるが)「家庭の味」は、結局、どこにでもあるものしか作れないし、「選択のてがかり」とするほどには、付加価値も低い。
それに比べて、「デパ地下」「エキナカ」で話題になっている店の惣菜は、その食材選択、調理技術、できばえ、見栄え、季節感、変化、鮮度、パッケージ、どこをとっても十分な「選択のてがかり」がある。
量販店グループの「別会社」として、独自性を強要されるであろう、各惣菜会社、さらには、ベンダー、メーカーとも、これからの「選択のてがかり」となるような、一歩前に進んだ「惣菜」の開発・生産・そのオペレーションが求められるであろう。
期待の「成長市場」、「惣菜」のマーケティングはまだまだこれからである。
|