SNSによる
コミュニケーション・マーケティング
日々の生活の中でSNS に接する(利用する、見聞きする)ことがない日の方が少ないぐらい、身近なものになっている。日本国内におけるSNS の利用者は年々増加しており、2017 年末には7,204万人、利用率は72.0%(ネット利用者全体における利用割合)と推定されている。
SNS の定義は、広義には、社会的ネットワークの構築が出来るサービスやウェブサイトであり、コメントやトラックバックなどのコミュニケーション機能を有しているブログ、電子掲示板も含まれる。狭義では、人と人とのつながりを促進・サポートする「コミュニティ型の会員制のサービス」と定義される。あるいはそういったサービスを提供するウェブサイトも含まれる。
SNS の当初は、ユーザーが自身のページを作成してプロフィールを掲載し、知人のページとリンクする機能だけを備えていたように、目的は、知人関係との情報共有、個人間のコミュニケーションにあった。その後、日記やコメントといったテキストでのコミュニケーションだけではなく、写真・音声・動画の共有機能などマルチメディア化や多機能化が進んだ。そのようなことも相重なり、個人間のコミュニケーションだけでなく、ゲームやニュースなど、情報共有・コミュニケーションメディアとして拡大をしてきた。
記憶にも新しいアメリカ大統領選挙では、クリントン、トランプの両氏は、1 日に何回もツイッターを投稿し、両氏のフォロワーは1000 万人を超え、テレビを凌ぐ情報伝達手段としての役割を担っていた。メディアも、ツイッターを情報源に記事にするケースが増えてきており、ツイッターが、単なる有権者へのアプローチだけではなくなってきている。
日本においては、安倍首相のツイッターのフォロワー数は69 万人程度というように、政治やメディアにおける影響力はまだ大きくはない。
日本企業においては、総務省の「平成26 年通信利用動向調査」によると、ソーシャルメディアを活用している企業の割合は、平成27 年度末で回答企業の23%にとどまっている。
また、別の経済産業省の調査では、SNS を活用している企業の内、「効果が得られている」とした企業は32%(「ソーシャルメディア活用先進事例報告会(2016.3)」参加企業に対するアンケート結果)と高くはない。
SNS は、もともとが「個人と個人を繋ぐコミュニケーションツール」である為、いくら企業が発信しても、個人が共感しないものは届かないという特性がある。また、コミュニケーションがベースとなる為、効果として、「集客」や「売上」という即効性のある数字には、(目に見えて)つながりにくいという面もある。が、SNS のユーザー数は年々増加し、また、リアルタイム性、拡散性など、従来のマスメディアでは難しかった部分へリーチできる媒体として、マーケティングに活用したいという期待は高い。
そこで今回は、SNS によるコミュニケーション・マーケティングについて、生活者と企業の視点から、そのトレンドを分析していく。
■ 4大SNSの特徴
1. 利用者数が多いLINE、
利用時間が長いTwitter
利用者数伸長率が高いInstagram
日本において、利用者数が多いSNS は、「LINE」「Twitter」「Facebook」「Instagram」であり、各々 の利用者数を示したものが図表1、2 である。
ユーザー数で最も多いのは、「LINE」。アクティブ率(実際に利用している率)も最も高い。日本におけるLINE の利用は、無料電話やメール代わりなど、個人の連絡・通信手段として使われていることが多いことにも因っている。
次に多いのが「Twitter」。利用者数は2 番目であるが、図表3 のように、ツイート数は日本語が2 位(さらに1 秒間のツイート数トップ5 は全て日本人という)であり、利用者の利用密度が高い。1 人あたりの平均利用時間は7時間31 分/月(ニールセン社調べ 2015 年1月)と長い。
3 番目は「Facebook」であるが、アクティブ率が他より低く、アクティブ数(利用者×アクティブ率)では4 番目の「Instagram」に追い抜かされそうである。
4 番目は「Instagram」。利用者数は他の3 つより低いが、成長率が非常に高い。
2. SNS 利用者は「30代以下」の若年層では6割以上を占める
年代別のSNS の利用割合を見たものが図表4 である。「30 代以下」の若年層では、利用率が2015年度は6 割以上と特に高い。
このことからも、従来型のマス媒体では届きにくくなっている年代への有効なリーチが期待出来ることがわかる。また、「40 代」「50 代」でも、2013 年から2015 年にかけて利用率が1割以上あがっている。
各SNS 利用の性別・年代別構成を示したものが図表5 である。どのSNS もやはり「30 代以下」で6 割を占めるが、もう少し詳しくみると、「Facebook」「LINE」は、20 〜 40 代にかけて同程度であり、男女間の年代比率についても大きな違いがない。
「Twitter」「Instagram」は10 代、20 代の若い世代で半数を占めているが、徐々に30 代も増加傾向にあるという。
また、「Instagram」は女性比率が6 割と高いが、昨今は男性も増加傾向にあるという。
3. 各SNS の特徴と目的を踏まえた活用
〜 LINE は商品・店舗・EC 誘導
Facebook は既存客・ファン育成
Twitter は新規獲得(拡散)
Instagram は世界観醸造
各SNS は、備わった機能により、ユーザーの利用目的や使い方が異なってくる。それをまとめたものが図表6、7 である。これらの特徴から、向いているマーケティング活用の用途やポイントを考察する。
@ LINE
友だち登録をしてくれたユーザーに対してメッセージを流す、その企業独自のキャラクターをスタンプ化(スポンサードスタンプ)して、ユーザーへ無料配布することができる。
NHN Japan の調査によると、LINE ユーザーの58%が「何らかの企業公式アカウントを登録した」と答えているように登録率が高い。
また、メッセージはプッシュ通知が届くため、一般的なメルマガの開封率は3%と言われる中、LINE メッセージの開封率は60%以上と高い。ユーザーにとっては、常日頃から使用しているツールなので、企業からのメッセージであっても自然に開封する傾向が高いようである。
MMD ラボによると、「クーポン目的で公式アカウントを追加した」48%、「メッセージ内の割引クーポンを利用したことがある」38%と、クーポンの有効性も高い。その為、店舗(EC 含む)への誘導期待も高い。
このように、リーチ率が高いLINE 公式であるが、LINE ユーザーは、無料スタンプやクーポン獲得を目的として複数のアカウントをフォローしており、多くのお友達登録の中から、「有用だと思わないものは、ブロックまたはメッセージ通知オフにする」人が54%ある。一方、「プッシュ通知をきっかけに商品を購入した」19%もある(MMD ラボ同調査より)。
登録初期費用800 万円〜、月額250 万円と高く、いかに、費用に見合った効果を継続的に得られる活用ができるかが鍵となる。
A Facebook
Facebook は、『実名登録』が基本で、仕事の繋がりを持っている人も多く、「いいね!」する際は、他の友達登録されている人たちにも有益な情報だと思った時であることが多いという。砕けた感じより真摯さや有益さを訴求する場合に相性が良い。
また、投稿は、時系列ではなく、エッジランク(そのユーザーがどれぐらいアクションをとっているかの密度)や「○○さん(友達)がいいね!と言っています」といった形で優先して表示されるので、ツイッターと比べるとリアルタイム性は低い。
これらのことから、ユーザーとの中長期的なロィアリティをつくっていく、ファンを継続的に育てていくものに向いているといえる。その為にはエッジランクを高め、リーチを拡大させることが鍵になる。
また、拡散性はツイッターに比べて低くなっている。が、実名性であることからの安心感と、友達の友達にまで拡散する機能により、ファンが新しいファン(友達)づくりに一役買ってもらうことも期待でき、ファンの先のコミュニティも意識した、コメントなどのコミュニケーションが発生しやすい投稿をしていくこともポイントとなる。
B Twitter
Twitter は主要SNS の中で最も『拡散力』に優れたSNS である。リツイート機能によって、友達という枠を越え、知らない人のところまで情報を拡散することができる。ハッシュタグによるコミュニケーションが一般化しており、自社のフォロワー以外にも情報を届けられやすい。そのため、多くのフォロワーを抱える有名人やインフルエンサーのツイートがリツイートされることで、ツイートが拡散していく、ハッシュタグによる検索など、拡散の形も様々に期待できる。
また、Twitter は、文字数が少なく、時系列に表示される為、リアルタイム性・瞬間での反応性が高い。イベントなど実況中継型の投稿も、有効である。
Facebook とは反対に、フレンドリー感やポップ感、オモシロ感、話題性、リアルタイム情報との相性が良い。これらの特性を活かした投稿や、トレンドになっているハッシュタグを使うなど、いかに多くのツイートが、多くの人に(フォロワー以外も含めて)リーチできるかが鍵になる。
C Instagram
写真の投稿が主になるInstagram は、文字よりも、写真の魅力が第一であり、いかに写真により、『店舗・企業・ブランド・商品の世界観や魅力を伝えることができるか』にかかっている。(最近は、ファッションイラストなど、ファッション誌にあるような、おしゃれなコーディネートを紹介するイラストも人気となってきているが)
並んでいる写真は、一瞬をとらえることが出来ないと、逆に通過してしまいやすい。その為、オシャレ、楽しい、感動的など、ユーザーの感情をとらえる視覚に訴える質の高い写真を使い、世界観になじむ投稿をすることが鍵である。(文字を入れることも出来るが、文体が写真の世界観となっていることにも気をつけなければならない)
画像の次に重要なのが、ハッシュタグ。必ずしもつける必要はないが、Instagram には拡散機能がないので、ハッシュタグを上手く使い、ハッシュタグで検索してもらうことで、同じような興味を持っている人に届きやすくなる。ハッシュタグは、より多くの人が検索している人気タグを使うのが効果的である。一方、人気のあるハッシュタグだけでは、他に埋もれてしまう可能性もあり、投稿数の少ないオリジナルのハッシュタグの組み合わせもポイントになる。また、オリジナルハッシュタグは、口コミ検索を増やす為には統一設定をしていく必要もある。
このように、SNS の特徴により使い分けることが、SNS の有効性を高める1つの要素となる。1つの企業・ブランドで複数のSNS を運用するのであれば、そのSNS に合った仕様に変更することや、力をいれる・運用するSNS を絞りこむことも重要である。
4. 効果を測る指標はエンゲージメント
〜いかに顧客とつながっているのか
SNS の効果を測る指標の1つに、「エンゲージメント率」がある。エンゲージメントという意味は、マーケティングでは、「企業と顧客の結びつき」を示す用語として使われる。SNS 上では企業とユーザーが対等な関係でやり取りできる部分があり、ユーザーからブランドへの積極的な関与が、マーケティング用語としての「エンゲージメント」を表すと考えられ、指標になったとされている。エンゲージメント率は一般に「クリック数」や「フォロー」、「いいね!」などユーザーのアクションを踏まえて計算するが、各SNS でその方法は異なる。
@ LINE
現在、明確なエンゲージメント率を算出する指標はないが、2017 年中に「エンゲージメントランク(仮称)」を導入予定とされている。エンゲージメントランクは、グーグルが検索連動型広告の掲載の有無を決める際に用いる「広告ランク」と考え方が近いという。友だち数の増加推移やブロック率、LINE 上のタイムライン投稿に付けられた「いいね!」数などから、企業の公式アカウントの支持率をエンゲージメントランクとして算出される。導入後は、ランクの高い企業アカウントはLINE利用者の目に触れやすくなるなどの優遇が得られる。アクティブである「友だち」登録を今以上に増やすことを重要視していくようである。
A Facebook
「エンゲージメント(いいね!・コメント・シェア・クリック)を行った人数」÷「投稿がリーチした人数」がエンゲージメント率である。「投稿がリーチした人数」とは、投稿がユーザーのタイムラインに表示されることを指す。
※その他の指標として「話題にしている人(Facebookページに何らかの反応をした人数)」もある。
Facebook の場合は、特定の投稿に対してある人が何度もアクション(コメント、クリックなど)を行ったとしても、「1」とカウントし、ページに対して「どれだけのファンが行動したか」を重要視している。より多くの人に情報を届けるためには細かく設計された運用が必要になってくる。
B Twitter
「アクション(クリック・リツイート・返信・フォロー・いいね!)の総数」÷「インプレッションの総数」がエンゲージメント率である。「インプレッション」とは、投稿がユーザーのタイムラインに表示されることを指す。
Twitter の場合は、特定の投稿に対してある人が何度もアクション(返信、クリックなど)するとそのまま累計して計算され、「どれだけ反応されたか」と「総数」を重要視している。多くの人に多くの回数ツイートを届け、想起率や認知度を上げるために使っていくことが必要になってくる。
C Instagram
「エンゲージメント」という項目はあるものの、「エンゲージメント率」という項目はない。ここで言う「エンゲージメント」とは、「投稿にいいね!やコメントをしたユニークなInstagram アカウントの総数」のことを指す。率ではなく、質(数)を特に重視しているためとも読み取れる。
Instagram のエンゲージメント率を計算する際、分母になり得る項目は、「フォロワー」、「インプレッション数」、「リーチ」の3 つが考えられる。
どれを分母とするかは、目的によって自由に選ぶことになる。
※本提言「SNS によるコミュニケーション・マーケティング」は、「営業力開発」誌 2017年・vol2・No226号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:マーケティング・コミュニケーションズ)へ掲載されています。尚、誌面では以下の様な構成にて続きます。
SNS によるコミュニケーション・マーケティング
Ⅰ. 4 大SNS の特徴
Ⅱ. 企業におけるSNS 利活用状況
Ⅲ. 生活者におけるSNS 利活用状況
Ⅳ. 「今」を発信するファンストーリー 〜欧州サッカークラブ
Ⅴ. ユーザー参加のピノジェニックでつながる 〜ピノ 森永乳業
Ⅵ. 体験ツイートで「私も行きたい!」が高まる 〜ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
Ⅶ. SNS カンバゼーションでリアルを演出 〜リカちゃん タカラトミー
Ⅷ. Instagram Stories を使った限定感による話題性 〜アディダス
Ⅸ. リアルイベントで熱狂的なファンにする 〜ヤッホーブルーイング
Ⅹ. SNS 利活用の課題と今後
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