
インバウンドについてのニュースを、毎日必ず1つは見つけるほど、新しい動きには事欠かない。その中でも、「爆買い」という言葉に象徴されるように(この言葉は2014年頃から定着してきたようであるが)、年々、日本国内における消費への影響度が高まってきている。
観光庁の試算によると、2020年東京オリンピックを迎える時期には、訪日客数は2000万人に達する。経済効果は、旅行消費額4兆円、生産波及効果10兆円、付加価値波及効果5兆円と予測されている。
そこで、本稿においては、インバウンド需要の現状と変化について、それらに対する流通、メーカー、サービス事業者の施策事例をあげながら考察する。
また、インバウンド需要の中心である中国訪日客について、日本における消費選択行動や中国に戻ってからの消費行動の変化(日本製品に対する関心やリピート購入など)について、弊社中国マーケティングパートナーより、中国からの現地レポートをお届けする。
さらにインバウンドの高まりが、日本の生活者において、どのような影響をもたらしているのかについても、弊社モニターへのアンケート調査をもとに考察をする。


訪日客の数は、2011年に日本を襲った東日本大震災の影響で一時、年間622万人に落ち込んだが、その後急速に回復し、2014年は対前年比29.4%増の1341万人となった。2015年も、勢いは加速しており、1?6月までの累計値(推定値)で914万人、対前年同期比で288万人増加している。
2015年の訪日客数は、JTBの試算では1500万人の大台に達するという。
2014年度の訪日客1341万人のうち観光客は、その8割の1088万人である。
さらに、その観光客の国別内訳を見ると、アジアからが85%を占めている。
とくに2010年から2014年にかけての増加数が大きいのは「台湾」「中国」であり、100万人以上増加している。
この大きな増加の要因として、
1.中間所得層の激増
2.旅行客へのビザ要件の緩和
3.「円安」による為替効果
があげられる。
■図表1 訪日客数の年次推移
■図表2 訪日客の国別推移


2014年度の訪日外国人旅行消費総額は2兆305億円で、前年比43.3%増となった。旅行消費額が最も多い国籍は「中国」で5,583億円。
前年比2倍に増え、全体の3割を占める。中国では8月に株価が急落し、その影響で中国訪日客の消費減退が懸念されたが、全国百貨店における2015年8月の訪日客への販売額は、前年比259.6%増の約172億円で6カ月連続前年比増となっている。また、2015年10月の「国慶節」を祝う1?7日の大型連休では、松屋銀座はこの期間の外国人向け免税品の売上が前年同期の2倍に拡大、家電量販店ビックカメラも同様に前年同期の2倍強に増えたという。
■図表3 旅行消費額の国籍・地域別構成比

訪日客1人あたり旅行消費額は、15万円/人(前年比11.1%増)であるが、中国訪日客はさらに高く、23万円/人である。
費目別の消費額が高いものは「宿泊料金」「買物代」。「中国訪日客」は、「買物代」が13万円/人と他国に比べて圧倒的に高い。消費全体の5割を「買物代」が占める。
■図表4 訪日客1人当たりの消費額


訪日客の日本への訪問回数を示したものが図表5である。全体では「2回目以上」のリピーターの方が多い。とくに「台湾」「香港」からの訪日客で高い。
逆に「中国」からの訪日客は「1回目」が6割と高い。但し2013年度と比べると、「2回目以上」が1割増えている。
■図表5 訪日旅行客の訪日回数


訪日客の日本への旅行形態を示したものが図表6である。全体では「個人手配」の方が多い。特に、「欧米」からの訪日客で多い。
逆に「中国」からの訪日客は「ツアー」が半数と多い。但し、2013年度と比べると「ツアー」は2割減っている。訪日回数の増加(左記参照)に伴い、「個人手配」が増える傾向にある。
■図表6 訪日旅行客の旅行形態


訪日前の情報収集源を示したものが図表7である。全体的には「旅行ガイドブック」「旅行専門雑誌」が多い。
「中国訪日客」では、「Trip adviserなどの口コミサイト」「テレビ番組」「家族・親戚」など、様々な項目で他国より高くなっている。特に「SNS・ツイッター」は中国が他国と比べて突出して高い。
■図表7 訪日前の情報収集源
訪日後の日本での情報収集源を示したものが図表8である。多いものは「旅行ガイドブック」「無料旅行情報誌」「無料パンフ・小冊子」といった紙媒体からの情報収集が目立つ。
「2回以上リピーター」は、上記紙媒体に加えて、「ホテル・旅館の従業員」も増える。
「中国訪日客」は、訪日前と同様に他国より高い項目が多い。「SNS・ツイッター」も他国より突出している。
■図表8 訪日後の日本での情報収集源

2014 年10 月1 日から、消耗品を含めたすべての品目が新たに免税対象となったことで、訪日客の購入率、購入単価が、「医薬品・健康グッズ・トイレタリー」「服・かばん・靴」「化粧品・香水」、そして「電気製品」(カメラ・ビデオカメラ・時計)でも大きく伸びている(図表9)。
特に、「中国訪日客」での購入率、購入単価が様々な品目で高くなっている。(図表10)
■図表9 買い物品目別購入率と購入単価

■図表10 国別買い物品目別購入率と購入単価
ジャパンショッピングツーリズム協会の調べによると、免税改正によって、「女性向け商品(特に、化粧品、下着、パンスト)」「食品(日本的素材の加工品、日本酒、日本茶)」「伝統工芸品(鉄器、茶器)」「高級品(宝飾、時計)」「サプリ(ビタミン剤など)」「文具」が特に伸びたという。
中国訪日客が情報を多く得ていたのはSNSであったが(前頁参照)、そこに春節期間中に訪日して買った物の書き込みがあった件数を数えた調査では、「医薬品」「化粧品」「温水洗浄便座」が上位となった。(図表11)
■図表11 中国SNSでの話題商品ベスト7

そこで、次章からは、これらのインバウンド需要への各社の取り組み事例を見てみる。
※本提言「インバウンド需要の変化と影響」は、「営業力開発」誌 2015年・No224号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:マーケティング・コミュニケーションズ)へ掲載されています。尚、誌面では以下の様な構成にて続きます。
インバウンド需要の変化と影響
Ⅰ. 訪日客の動向
Ⅱ. 「日本品質」を伝えるメーカーの工夫
Ⅲ. 「日本のコト提案」に注力するチャネル
Ⅳ. 「日本文化」を安心して体験できるサービス
Ⅴ. 「利便性」を高めるサービス
Ⅵ. 「ハブとなる」インフォメーションセンター
Ⅶ. 中国訪日客における爆買いの裏側
Ⅷ. 日本の生活者における意識と変化
Ⅸ. インバウンド需要の将来予測

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