消費者行動の変化、企業の新しい取り組みをみると、今のままの顧客接点だけでは、不十分であるということが分かる。量的な接点、ネットとリアル店舗との融合、その組み合わせ、質的なマッチングという観点から考えると、これまでとは違った視点が見つかるのではないか。
今号では、「顧客接点のリデザイン」を全体テーマとして、論文とマーケティングケース、消費税増税後の消費に関する論文を掲載した。
基調論文では、なぜレガシーマーケティングが通用しなくなったのかを解説し、顧客接点のリデザインと再構築ためのグランドデザインを描く。続く5つのコンテンツは、その各論としてセグメンテーション、商品、流通、小売店頭、プロモーションについての処方箋となっている。
後半には新しい接点構築の試みとして、企業の新しい取り組み事例を紹介する。
キユーピーは、消費者と社会の長期的な変化を先取りした事業の事例である。北野エースは、食品スーパー業界の中で、独自の出店戦略とロングテールの品揃えを実現して成長している。ネットに対抗するリアル小売りの可能性を示している。セブン&アイグループと、イオングループのオムニチャネルの事例は、2大流通企業グループがそれぞれの強みを活かして、ネットを取り込もうとする事例である。ケースの最後はアマゾンの薬のネット販売をとりあげた。最大のネット小売企業が酒類販売など規制業界を突破し、さらなる生活カバー力の拡大を図っている。
最後に、消費税増税後の消費の行方について4月の家計調査をもとにした研究短信をお届けする。足下の消費は底堅く、顧客接点再構築のチャンスである。
レガシーマーケティングが売りに効かない。
このマーケティングは、アメリカの先進的な消費財メーカーの成功事例を手本にしたものであり、長年、世界のリーダー企業が採用し、構築してきたものである。
しかし現在は、この教科書的マーケティングによって業界トップの座を築いた企業ほど、業績の長期低迷に苦しんでいる。もはや、レガシーマーケティングは、部分修正では済まされないほどに劣化している。寧ろ、レガシーマーケティングを追求すればするほど、収益が悪化し、売れなくなっていると言っても過言ではない。
レガシーマーケティングが通用しないのは、2010年代に入って、企業の提供する商品サービスと消費者を結ぶ接点が、質的に変化し、ビッグバンを起こしたからである。ここでいう接点とは、商品サービスと消費者を結ぶ「場や機能」のことだ。レガシーマーケティングは、この顧客接点に対応できていないのである。
売れないレガシーマーケティングは6つの特徴をもっている。@新技術によって品質を差別化することAブランド認知をマスメディアの活用によって浸透させることB消費者の知覚上のポジショニングを明確にすることC小売業を組織化し、中核的な自社チャネルを形成することD全国への配荷率を最大化することE店頭での売れる状態をつくるリテールサポートをすることである。
この6つの特徴は、1950年代からの顧客接点の強みを積み上げたものである。1950年代の戦後復興期に生まれた「よいものを安く」の大量生産システム、1960代の系列小売店と量的営業システム、1970代のマス広告による大量販売システム、1980年代のブランドづくり…と、レガシーマーケティングは、消費者の変化に合わせて次々と顧客接点をデザインし、強固なものにしてきた。
マーケティングの教科書を少しでも読んだことのある読者には、レガシーの弱点は見つけにくいのではないだろうか。しかし、生活実感からしてみると、レガシーマーケティングでは顧客接点との結びつきが薄いことに気づくはずである。
ここで平均的な都市における消費者の購買を想定してみる。
欲しい商品サービスの品質は大切だがよくわらない。品質の判断は、友人や知人の口コミや、SNSやブログのネット情報に頼っている。テレビも見ないし新聞も読まない。欲しい情報を得るにはネットのまとめブログで十分間に合う。ドラマは話題になったものをCFなしのオンデマンドで観る。買い物をするのは会社帰りのコンビニが中心になる。重いもの、大きいもの、かさばるものはネットで注文する。自分が関心の高い商品やサービスは、ネット検索で世界の情報を集めて、専門店に行ったうえで、もっとも安いところで買う。少し贅沢したい商品は、都心の百貨店で割引カードを利用して買う。
この行動とレガシーマーケティングは明らかにすれ違っている。品質の判断ができない消費者を相手に品質で差別化をし、ほとんど接触がないマスメディアへの宣伝広告を投下し、ほとんど行くことのないチャネルに営業資源を投入して、売場作りを支援している。
なぜすれ違いが起こっているのだろうか。
それは、想定している購買行動が違うからである。レガシーマーケティングは、消費者がパッシブ(受動的)にマスメディア情報を受け取り、ブランドイメージを形成して、小売店で比較購買をして持ち帰る、という買い物行動を前提にしてデザインされている。
しかし実際は違うのだ。レガシーマーケティングが想定している買い物行動は、ネット社会化によって消えかけている。
買い物行動の独立性が消え、商品サービスを入手することが、生活行動のなかに吸収されようとしている。
その背景には、買い物行動が情報依存的になったことがある。人々は情報によって行動する。インターネットと携帯端末が普及した結果、情報技術が発展し、人々は買い物に関するあらゆる情報を入手、処理をすることが可能になった。
買い物行動とは、@商品ブランドを認知A選択候補を比較、評価B個々の商品ブランドに態度を形成C購入、という「情報処理プロセス」である。
ネット社会の進展は、この情報処理プロセスをすべてネット上で行うことを可能にした。アマゾンなどの成長にみられるEC化である。このEC化により、通勤時や待ち時間中に買い物ができるようなった。そして、この情報処理プロセスは、ネットとリアルの世界での、専門化、分業化、連携化が可能になったのである。
例えば、欲しい商品が専門店の店頭で見つからなかったら、販売員に助言してもらったり、ショップカードの特典を利用してネットで注文し、配送して貰ったりする連携が可能になった。こうした初歩的なリアル店舗とネットの連携は、アメリカの「オムニチャネル」の事例や、国内でのパソコン販売に早くから応用されている。こうした連携があらゆる領域で起ころうとしている。
昨今、多くの消費者がスマホなどの携帯端末を持つことによって、わざわざ時間を割いて買い物に行く必要はなくなってきた。そして、買い物行動の独立性は消え、生活行動に吸収されつつあるのである。この結果、消費者と商品サービスを結ぶ接点は膨大に増えた。
接点数を、1日当たりの集客数で任意に選んで比較してみる。最大の接点数を誇るのは郵便局で、1日当たり6,103万(取扱数)だ。次いでNTTドコモが2,426万人、コカ・コーラが1,960万人と続く。これは、テレビドラマの視聴率40%とほぼ同じ数字である。系列店政策の代表的な事例として注目されてきた、資生堂やパナソニックの専門店では約8万人である。この数字は、断トツの集客を誇る百貨店、伊勢丹新宿店と同じ数字である。
ネットとリアルの連携が可能になったということは、他業種の企業にとってみれば、郵便局はメディアとしての役割、購入場所としての役割、物流としての役割を、連携企業として担えるということである。これは、買い物行動が雲散霧消して生活行動に組み込まれた結果でもある。
また、従来の買い物行動が消えていく背景には、家族の代理購買者として買い物を専門的に担っていた、専業主婦が少なくなったことがある。女性の労働力率の増加、晩婚化、少子化による単独世帯の増加も、専業主婦の減少に拍車をかけている。そして、何よりも、買い物が楽しくなくなったことは大きな原因である。買い物を「作業」とみるなら効率的にすませた方がよいと考える人も増え、余暇のなかで買い物が占める役割は大きく低下している。そして、1920年代に生まれた「ウィンドーショッピング」という言葉は死語になりつつある。収入が上昇して個人の機会費用が高くなり、買い物に求める楽しさを算出すると、1時間あたり2,250円だ。
つまり、映画を1本見るよりも楽しくない限り、買い物は損なのである。チャネルを制したと思われた取引先数は、せいぜい数万人、5桁のオーダーである。現在の顧客接点数は数千万人、8桁のオーダーだ。3桁の違いがある。レガシーマーケティングで築いてきた数万の接点で、数千万の接点をカバーできないことは言うまでもない。
消費者との接点が大きく変わる一方で、企業サイドの供給システムの革新も起こっている。ひと言で表現するなら、寡占企業の市場支配力は終焉を迎え、高まっているのは「ロングテール企業」の優位性、である。
寡占企業が市場支配力を持ち、高い収益性をあげることができたのは、市場の「売れ筋」が明確であり、量産優位によって市場価格をコントロールできたからである。ところが、実際に売れているのは、これまでの「死に筋」商品だ。
例えば、近年ヒットしている家電製品は、これまでの常識では「死に筋」だったものである。約7万円のお掃除ロボット「ルンバ」は世界市場で約500万台を売上げ、サーファーなどが愛用しているウェアラブルカメラ「GoPro」は300万台も売れている。日本メーカーが寡占支配していたカメラ市場に、アメリカのニッチ企業が風穴を開けた形だ。青汁がつくれる2馬力のブレンダーや、10万円近くする炊飯器、デザイン性の優れた扇風機など、他のジャンルでもニッチ企業の躍進が目につく。同様の現象はあらゆる市場で起こっている。寡占企業のシェアが継続的に低下し、その他の企業のシェアが増加しているのである。
■図表1 変わる消費者との接点 ― 1 日当たりの集客数
「売れ筋」市場では、激しいコスト競争による利益なき消耗戦が繰り返されている。一方「死に筋」の「ロングテール」市場では、消費者は、高い価値を認めたユニークな商品サービスにより高い対価を払うため、高い収益性を誇っている。このように、多くの消費市場で、商品サービスの上位集中傾向が弱くなり、「すそ野」(ロングテール)が広がっている。つまり、寡占企業よりもロングテール企業が優位性を持ち、成長しているのである。
ロングテール企業が寡占企業に対して優位性を持つようになったのは、ユニークな顧客ターゲットを開発し、顧客ニーズを深掘りできる能力を持っているからである。さらに、ものづくりの垂直統合により、「擦り合わせ」による高品質化や高効率化の技術を生かすよりも、グローバルな“ものづくり水平プラットフォーム”を活用することによって、「生産の最小ロット」の壁が低くなってきている。従って、顧客接点があり、顧客ニーズを満たすことができれば、少ないロットでもものづくりをアウトソーシングできるようになったため、誰でもメーカーになれる生産システムの革新が生まれたのだ。代表的なのは、3Dプリンターを利用したものづくりである。供給サイドから市場のロングテールが進むバックグラウンドである。
顧客接点が幾何級数的に増えて、1日当たり1,000万人を集客できる接点が必要になっている。これを推し進めているのは、ネット社会の進展と買い物行動の生活行動への吸収である。他方で、ものづくりの主役は、寡占企業からロングテール企業へと移行しつつある。 21世紀の企業は、レガシーマーケティングから脱却し、リアルな顧客接点をリデザインし、どのように再構築していくかが問われている。 私どもは顧客接点のリデザインに向けて5つの提案をする。
第1は、顧客の捉え方とセグメントのリデザインである。直近の消費者変化を捉える手法は数多くある。しかし、10年先、20年先の消費者変化を睨み、現在の消費者を分析する方法はあまりない。新しい区分を使った世代分析によって、中心となる顧客接点と顧客ニーズの深掘り策の検討が必要である。2030年への変化に向けた筋書きづくりを提案する。
第2は、品質差別化戦略のリデザインである。商品サービスの品質への価値観が多様化することによって、プレミアム市場が生まれている。この機会を生かすには、プレミアム市場のセグメント開発と品質差別化が成功の鍵となる。さらに、顧客が何によって品質判断するかを捉え(シグナル基準)、商品サービスの使用基準とリンクさせることが重要になる。セグメント開発、使用基準によるシグナル基準の情報発信をベースとした品質差別化戦略を提案する。
第3は、多元チャネルのリデザインである。顧客接点の中心はチャネルであった。そして、そのチャネルは業種未組織小売業から業態組織小売業へと多元化している。他方で、顧客接点は幾何級数的に増えている。顧客接点のカバー率を上げ、多様な業態と多元的なチャネルを、機能分担で使い分ける。そして、買い物行動が消滅するなかで、それぞれの連係をどう進めるかが重要である。将来への先手戦略を提案する。
第4は、リアル小売の売場力開発である。買い物の情報処理化は、過剰な情報量のなかで、商品ブランド選択の意志決定時間を長引かせる(ロングデシジョン)。売場は、現物による直感的な把握に依存し、衝動買いによって、意志決定の時間を短縮できる(ショートデシジョン)。顧客接点としての売場の魅力は、このショートデシジョン環境の提供によって時間価値を提供できることにある。衝動買いのできる売場づくりを提案する。
第5は、消費者ネットワークへのアプローチ戦略である。顧客接点が多様化し、接点ごとの独立性が高まる(タコつぼ化)ことによって、個人説得が難しくなっている。課題は、「ママ友集団」などのネットワークを「丸ごと」「包囲」説得することや、売り場などとの連動をしていくことである。そして、説得の鍵は、関与者の取り込みと、コミュニケーションの立体的設計である。新しいネットワーク説得型プロモーション戦略を提案する。
最後に提案したいのは、プラットフォームビジネスモデルへの転換である。
顧客接点をリデザイン、再構築し、新しいビジネスモデルを構築することである。レガシーマーケティングは垂直統合型のビジネスモデルを前提にしている。しかし、顧客接点を8桁持ち、顧客ニーズを深掘りして、さらなる顧客接点を構築していくロングテール事業には、垂直統合では柔軟に対応できない。
これから大切になるのは、自社の製品サービスとの依存関係、あるいは補完関係にある他業界や他商品サービスと連係して、顧客に商品サービスの利用価値を高める新しい「エコビジネス環境」を提供することである。このようなエコ環境が生まれれば、多様な顧客が集まり、多元的な接点が生まれるのだ。従って、成功の鍵を握るのは、この供給サイドと需要サイドを何らかの機能で結ぶプラットフォームの探索、設計と構築である。顧客接点のビッグバンに対応するには、新しい水平型プラットフォームへの転換と構築が必要である。
■図表2 顧客接点のリ・デザイン
現在はますます不確実な時代にある。現在進行している少子化・晩婚化などに伴う人口減少と単身世帯増加による世帯数増加がどのような影響を市場に及ぼすのか予測することが難しい。現在の日本の人口は約1億2,800万人と言われる。国立社会保障・人口問題研究所は、人口が2030年には1億1,522万人と約1,300万人が減少すると予測している。約15年間の間に神奈川県と埼玉県のふたつの県がなくなる計算である。人口減少により市場規模が縮小するという単純な構造でもなさそうである。一方で、東京への人の移動は止まらない。東京の人口は増加し、東京集中・都市化が進んでいる。東京がますます大きな市場になり、舛添都政の結果によって、東京の姿が大きく変わる。2014年4月に消費税8%になり、2015年10月に消費税10%になる。日本は諸外国から比べても消費税の標準税率が低い。韓国で10%、中国で17%、イギリスで20%、デンマークや北欧のノルウェーやスウェーデンで25%である。政策の違いにより一概には言えないものの、日本の消費税は2020年、2030年に向けて税率UPすると言われている。この消費税導入により、短期的には消費の落ち込みはあるものの、10年20年先を見るとどのよう影響を及ぼすのか読むことができない。ビール業界で見れば、消費税の他に酒税改定の動きもある。第3のビールの酒税があがるのか、通常のビールの酒税が下がるのか、どのようなパターンになるのかによって、大きくビール類市場の構成も変わり、中長期的な消費者の需要構造も変わっていく。さらに、毎年徐々にあがっている厚生年金保険料の引き上げなど消費者の負担はますます増えていく。その一方で、2020年の東京オリンピック開催によるオリンピック前の好景気の影響、オリンピック後の反動など、不確実な要素が多過ぎる。
近視眼的な見方でシナリオを読み誤ったのがシャープである。2012年度のシャープの売上高は2兆4558億円、純利益は3,760億円の赤字であった。経営危機が注目された。2014年3月期連結決算では、本業のもうけを示す営業利益が、1,085億円。通期の売上高は、2兆9,271億円となった。スマートフォンやタブレット端末向けの中小型液晶パネルなどが好調なためだ。黒字転換し、経営再建がうまくいっている。大型液晶パネルを中心とする投資で失敗し、中小型液晶パネルで回復するという皮肉な結果になっている。
シャープは、98年に「2005年にすべてのテレビを液晶にする」と宣言。液晶ディスプレーの大型化と量産化に経営資源を集中していく。そして、01年に液晶テレビを「AQUOS」ブランドとして発売し、07年まで増収増益を続ける。2009年には大規模な投資を行い、第10世代マザーガラスを使用する世界最新鋭の堺工場を稼働させている。しかし、液晶テレビの売上低迷、低価格などによりテレビ事業が赤字化し、堺工場への投資がさらに足をひっぱる形になった。シャープの失敗は、アプリケーション開発の先細りなど様々言われているが、大型液晶パネルへの読み間違いが大きいと考えられる。短期的には液晶テレビを中心する薄型テレビの拡大があった。一方では、長期的には半導体と同じように液晶も低価格化し、利益が取れなくなるとも言われ、さらに日本の住宅事情から大型液晶の需要は大きくならないとも言われていた。つまり、短期的な視点で大規模投資をした結果、長期的なトレンドとは逆の戦略をとってしまったことが失敗である。シャープに限らず不確実な時代において短期的な近視眼的見方をしたために、失敗・苦戦しているケースは多い。
不確実な時代において、持続的成長を実現していくには、「顧客の捉え方とセグメントを近視眼的(短期的)見方ではなく、短期と長期のふたつの視点から検討し、幾つかのシナリオを作り、最適なシナリオになるように、対策をしていかなければならない」ということである。2030年への変化に向けた筋書きをつくり、最適な対策を立てていくことである。
先読みするには何を見ていければ良いのか。弊社が継続して研究している「新しい区分を使った世代分析」により、需要の先読みをすることができる。短期の流れを読むには「心理世代区分」を活用する。心理発達段階をもとにした区分であり、消費水準と消費パターンの質的変化を捉えるには有効な区分である。団塊世代、断層世代、新人類、団塊ジュニア、バブル後世代と区分されるものである。長期の流れを読むには「20年世代区分」が有効である。20歳から成人となるので、20年を1局面とするライフサイクルとなり、この期間を根拠に世代区分の長さとするものである。1936年?1955年生まれが第9世代戦後世代、1956年?1975年生まれが第10世代成長世代、1976年?1995年生まれが第11世代転換世代、1996年生まれ以降が第12世代である。自社が持つカテゴリー市場の需要ボリューム層がどの世代で、どのライフサイクルを通過しているのかによって、長期的トレンドを読むことができる。
■図表3 世代区分
※クリックで拡大このふたつの世代区分を活用して、価値意識を基軸に、カテゴリーの需要に影響を与える幾つかの意識や行動の変化を捉え、その組み合わせを考え、シナリオを作っていく。ビール市場で考えると、ビールの需要ボリューム層は50代である。現在の50代は心理世代区分では断層世代であり、20年世代区分では成長世代であり、ライフサイクルは壮年成人期である。この時期は家庭では子供が独立し、会社では出世コースか、安定コースかが定まる時期である。しかし2030年の時の50代は、現在の33歳頃であり、バブル後世代であり、転換世代である。現在の成長世代とは価値意識が異なり、消費者やビールに対する意識も変わってくる。さらにビールの需要に影響を及ぼす三つの意識や行動が考えられる。ひとつは消費意識であり、消費に対して、嫌消費なのか好消費なのかという意識である。ふたつめは組織意識である。ビールを飲むシーンは、サラリーマンの飲み会の最初の「乾杯」が象徴的である。そこには会社などの組織に属する時の意識が反映されている。正社員と非正規社員に組織に属する意識の違いがあるならば、正規社員比率の変化や正規社員に対する意識を見ることが必要である。三つめは、景気や消費に対する将来の見通しである。将来の見通しが暗ければ、貯蓄が増え、消費支出が減少し、ビールの飲酒量が減少する。一方で、見通しが明るければ消費支出が増加し、ビールの飲酒量が増加する。2030年時の50代にあたる転換世代、バブル後世代がこの三つの要素に対してどのように捉えているのかによって、短期的動きと2030年までの動きを把握することができる。この三つの要素の高低、好嫌、明暗の組み合わせによって八つのシナリオを描くことができる。八つのシナリオにはビール市場にとって最悪のシナリオもあれば、成長を続けるシナリオも存在する。ビールメーカー各社は、このなかで成長とつづけるシナリオに進むような手立てを打つことが2030年に向けた最適な対策となる。
具体的にどのように進めていくのか。まずは2020年?2030年までの外部環境変化をオープンデータ等から整理していくことが必要である。そのうえで、消費者調査を行う必要がある。そこでは、
1)ビールの需要ボリューム層の世代の価値意識を把握する。
2)ビールの需要に影響を与える要素を抽出する(仮説:消費意識、組織意識、将来の見通しなど)。
3)三つの程度の要素を抽出して、その要素に対するボリューム世代の意識や行動を把握することを消費者調査から明らかにする。
最後にこの三つの要素を弊社との需要シナリオ検討会を行い、八つのシナリオを作成し、自社にとって最も良いシナリオに進むための対策や最悪のシナリオに向かわないための対策を検討し、戦略案としてまとめていくことが必要となる。
不確実性が増す時代において、シャープのような対応をとることは、経営や事業にとって最悪の結果になりかねない。ポイントは「世代」を活用して、短期と長期という遠近両方の視点から中心となる顧客接点と顧客ニーズを深掘りすることである。それにより、最適な対応を取ることができ、持続的成長を実現することができるのである。
※本提言「顧客接点のリ・デザイン」は、「営業力開発」誌 2014年・No220号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:JMR生活総合研究所)へ掲載されています。尚、誌面では以下の様な構成にて続きます。
「顧客接点のリ・デザイン」
Ⅰ. 顧客接点のリ・デザイン―次世代マーケティングの提案
Ⅱ. 顧客の捉え方とセグメント
Ⅲ. 品質差別化
Ⅳ. 多元チャネル
Ⅴ. リアル小売の売場力開発
Ⅵ. 消費者ネットワークへのアプローチ戦略
Ⅶ. 半歩先の食需要の変化を予測したキユーピーのカット野菜
Ⅷ. 「個性あふれる専門店」で差別化する北野エース
Ⅸ. セブン&アイのオムニチャネル戦略
Ⅹ. イオンのオムニチャネルの取り組み
Ⅺ. アマゾンの大衆薬のネット販売本格化
Ⅻ. 消費税増税後の消費の行方
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