営業力開発誌

OUR PROPOSAL

トレンドの発生と拡散の今

進む、トレンドの発生・拡散の“クラウド化”

今、トレンドに3 つの変化が起きている。

@価値観・サービスの多様化

「価値観の多様化」という言葉自体、使われるようになって久しい。しかしそれでも、着実に多様化は進んでいるように思われる。

消費者の興味の対象は拡がる一方、企業は、よりニッチなニーズに対応した新商品・新ビジネスの開発を進め、個客に向けたOne-to-One マーケティングを展開させている。

こういった、マーケティング活動の進化は、消費者の細かな要望・欲求を満たす反面、いったい世の中にはどんな商品・サービスがあり、何が主流なのか、というトレンドの全体像を掴みにくくしている。

近年の「○○離れ」という言葉も、すなわち消費者の興味対象が、非常に多岐に分散化していることの表れではないだろうか。

A情報の発信源・経路不明瞭

「SNS をはじめとしたネットサービスの出現によって、消費者は自分の好きな時に、好きな形で「欲しいもの」「関心があるもの」についての情報を得られるようになった。また、欲しい情報は様々なネットメディア、マスメディアを通して得ることができる。

さらに近年では、“情報を得る”手段としてだけでなく、あらゆる人が“自分の情報、考えを広く世界に向けて発信する”手段として、SNS を活用できる状況にある。誰もがトレンドの発信源に成り得る一方で、トレンドの拡散経路は、より可視化しづらくなったと言えるだろう。結果、「いったい誰が情報の発信者なのか?」ということが、掴みにくくなってきている。

B高速化

ネットメディアの普及により、情報の拡散速度が飛躍的に高まる一方、トレンドの流行り、廃りは短期化・高速化している。消費者の関心は次から次に移り変わり、トレンドは目まぐるしく変化している。

この3つのキーワードを眺めてみると、ネットを通じてありとあらゆる人が仮想空間の中で繋がりあい、新しいコミュニティの在り方や新しい価値観を生み出している姿が思い浮かぶ。その一方で、情報の発信源や経路を意識しないまま、より高速で、トレンドは動いていると言えるだろう。

この現在の「トレンドの姿」を考えた時、IT 分野における“クラウド化”がイメージできる。クラウド化は、コンピューターのネットワークをベースに、世の中に様々な新しいサービスを生み出す一因となった。

この変化は、マーケティング戦略に大きな課題をもたらしている。「いったい、自社の顧客はどこにいて、普段何に触れているのか?」「どうすればリーチできるのか?」ということが、霧につつまれつつあるのだ。

また、SNS という新しいメディアに対しても、果たしてこの消費者と直接繋がることができる強力な武器を、どのように使いこなせばいいのか、その扱い方はまだまだ手探り状態にある。

トレンド発生と拡散の“クラウド化”が進む今、企業は、雲のようだがそこに確かにある“顧客の関心”を掴むことが求められている。

■ トレンドを読み解く

1. 変わる、コミュニケーション戦略

◆ 3 つのコミュニケーションモデル

まず最初に、トレンドの発生と拡散経路を表すコミュニケーションモデルの変遷を考えたい。

図表1 に示すように、これまでトレンドを牽引していたのは、マスメディアと言われていた。マスメディアの発信する情報がきっかけとなり、新しい情報がトップダウン式に世の中に広まっていく。ある意味トレンドの拡散経路はわかりやすく、企業側はどこに、どのように注力すればいいのか、読み解きやすい状態だったとも言えるだろう。

読み解きやすい状態だったとも言えるだろう。そしてインターネットの普及により、少しずつその流れが変わっていく。SEO 対策などの知恵と工夫、そして集客ポイントを的確に捉えることができれば、自社HP を通してこれまでにない形で消費者とコミュニケーションをとることが可能となった。有名ブロガーなどを使ったインフルエンスマーケティングが登場したのも、この段階である。フィーチャーフォンからスマートフォンに移行していく中で、インターネットはより広く、気軽に消費者と接触できる手段として、重要度は高まった。

そして近年、多種多様なSNS の出現とその盛り上がりによって、第3 のコミュニケーションモデルが出てきている。SNS の特徴の一つとして、情報があらゆる経路を通して拡散していくことが挙げられるが、もはや情報の発信源は著名なインフルエンサーでだけではない。一般の消費者からトレンドの種が発信されることもあれば、タイミングやキーワードなど、複数の要素が互いに作用しあってトレンドが拡がっていくこともある。フォロワー数やいいね数など、数値で把握しやすいように見えて、その実態は何が鍵になっているのか、可視化しづらい状態になってきているのではないだろうか。

現在、この3 つのモデルが連携してトレンドが拡がることもあれば、各モデルのみで普及することもあるだろう。3モデルの利点を踏まえた上でターゲットや商品特性に応じて、戦略を考え、活用することが求められる。

■図表1 コミュニケーションモデルの変遷

図表1 コミュニケーションモデルの変遷

2. 消費者をどう捉えるか?

◆ トレンドの実態を掴め

SNS の出現が、トレンドの発生から拡散に大きな変化をもたらしたことは先述のとおりである。企業側は様々なコミュニケーション手段を手に入れたが、それ故に、どの方法を使うべきか、どこに力を入れるべきかという戦略の組み立てに、苦戦しているように思われる。各メディアへの予算配分に頭を悩ませ、SNS を自社のマーケティングに活かすべく、試行錯誤している企業も多いだろう。SNS の影響力を意識しながらも、自社の戦略の中でどうフィットさせるのか、その正解はすぐに導き出されるものではないと言える。

そこで、3 つ目のコミュニケーションモデル、特にSNS 型モデルへの対応の示唆を得るべく、「トレンド調査」を行い、消費者のSNS の利用状況や、トレンドとして成功した商品・サービスの普及の仕方と、消費者のSNS の利用実態の把握を試みた。

3. トレンド調査について

ここからは、弊社が実施した調査結果を基に、トレンドに対する消費者の認知度と関心度を紹介していく。調査概要は、次に示すとおりである。

■調査期間
2016 年11 月11 日〜 16 日
■調査対象者
全国男女 1536 名
■調査方法
インターネット調査
■分析使用サンプル数
男性 女性 全体
全体 761 775 1536
20代以下 186 189 375
30代 182 192 374
40代 192 194 386
50代以上 201 200 401

今回は、トレンドに関する感度を測定するため、弊社にて予め、近年のトレンドワードを45 個ピックアップして、認知と関心を聞く調査を行った。

(※使用したワードについては、図表2 にまとめている。トレンドワードの詳細については、巻末の「トレンドワード解説」にて説明。)

各ワードについて、「1. 知らない」「2. 知っているが関心はない」「3. 利用はしていないが関心はある」「4. 既に利用している」の4 段階で回答を得た。これより先は、「2. 知っているが関心はない」「3. 利用はしていないが関心はある」「4. 既に利用している」と答えたものを“認知度”、「3. 利用はしていないが関心はある」「4. 既に利用している」と答えたものを“関心度”として扱う。

■図表2 トレンドワード一覧

■図表2 トレンドワード一覧

◆ トレンド認知度・関心度ランキング

まず、トレンドワード45 個に対する認知度・関心度の年代別一覧を、図表3 に示す。

認知度について、各年代で共通して最も高かったものは、「ポケモンGO」となった。2 位を見てみると、20 代〜 40 代では「君の名は。」、50 代以上では「水素水」が挙がっている。順位の違いはあるものの、年代によって上位5 つに入る顔ぶれに、大きなバラつきはない。但し、20 代以下では「おそ松さん」が、40 代以上では「シン・ゴジラ」が他年代に比べると認知度が高い。どちらも嗜好性が色濃く出るエンターテイメント作品である点が興味深い。

関心度の結果を見てみると、認知度の順位とは必ずしも一致せず、ワードによっては認知度が10位以下ながら、関心度が5 位以上となっているものも多い。全年代の1 位は、ここでは「君の名は。」となった。認知率では最も高かった「ポケモンGO」については、20 代以下では3 位と上位5 つに入っているが、それより上の年代では入っていない。他年代に比べ20 代以下で高かったのは、「ポケモンGO」と同じく、ゲームというカテゴリーに属する「Playstation VR」だった。更に詳しく見てみると、20 代以下〜 30 代と、比較的若い層で支持されているのが「メルカリ(どちらも2 位)」、「アマゾン・プライム(20 代以下5 位、30 代4 位)」。「radiko」は30 代以上でいずれも上位5 つに入っている。「チアシード」は30 代〜 40 代、「GYAO !」「47 都道府県の一番絞り」は40 代以上で支持された。この結果が示すとおり、認知度に比べ、トレンドの関心度については年代毎に差がでている。つまり、トレンドへの関心や集中を読み解くにあたり、「年代」による分析は現在でも有効な軸であると言えるだろう。これより詳しい順位とトレンドワードの概要については、巻末の「トレンドワード解説」にてまとめている。

■図表3 年代別 認知度・関心度ランキング

■図表3 年代別 認知度・関心度ランキング

◆ 性別・年代別の傾向分析

次に、これらのワードに関する性別・年代別の傾向の俯瞰図を紹介する。性別、年代をカテゴリー変数として、コレスポンデンス分析を行ったところ、図表4 のような結果になった。コレスポンデンス分析とは、クロス集計表の結果を2 次元のマップ上で視覚的に表現する分析手法である。カテゴリー変数と関連の強いトレンドワードが、より近くにプロットされるようになっている。

これをみると、まず性別によって2 つの両極が出来上がっていることが分かる。左下にいくほど男性寄りのトレンドであり、右上にいくほど、女性寄りのトレンドであることを表す。更に、年代による流れが、左上から右下にかけて連続していることが見て取れる。

具体的には、例えば「ミンネ」は「女性20 代以下」の非常に近くに位置しているため、これらは関わりが強いことが推測される。次いで、「女性30 代」に少し近づいたところに、「おやすみロジャー」が来ている。ここから、他年代に比べ、小さな子どもがいる人が多いという年代特性も関係してか、子を持つ母親層に認知が広まっている姿が推測できる。反対側の「男性30 代」を見てみると「iQOS」などが配置されている。

また、認知度が最も高かった「ポケモンGO」は、この中で中央〜右下に位置している。性年代の影響をあまり受けておらず、幅広い層まで浸透していることが分かる。

この図から、デモグラフィック属性に左右されず広く認知されるトレンドワード、性年代の特性によって認知度に差があるトレンドワードの違いが読み取れる。

■図表4 性別・年代とキーワード認知度のコレスポンデンス分析

■図表4 性別・年代とキーワード認知度のコレスポンデンス分析

◆ 高認知層の特定

次に、今回の対象者が、45 のトレンドワードの内どれだけの数を認知しているのか、認知数の分布はどのような状況になっているのかを見ていく。トレンドワードに対して認知がある数(「知っている」以上の回答の数)を5 個刻みで集計し、その分布を示した結果が図表5 である。

この結果が示すとおり、ワードの認知数は「15〜 19 個」とした人が最も多い。次いで分布の移り変わりを見ると、「20 〜 24 個」と「25 〜 29 個」の境で、その割合が急激に減少していることが見て取れる。また、ワードを30 個以上認知している層は、全体の大よそ15%程度であることが分かる。

そこで今回は、トレンドワードの認知数によって、14 個以下、15 個〜 29 個、30 個以上の3 区分に分け、それぞれをひとまず「低認知層」「中認知層」「高認知層」として、各層の傾向を見ていく。

まず、この3 区分の割合であるが、「低認知層」が44%と最も多く、「中認知層」が41%、「高認知層」が15%となった。

年代別で見たところ、年代が若いほど「高認知層」の割合が増え、「低認知層」の割合が減るという傾向がややみられるものの、20 代〜 40 代では3つの層の構成比は大きくは違わない。だが、50 代では「高認知層」が6%のみとなり、「低認知層」が57%を占める。

続いて性別で見てみると、「高認知層」の割合は男女で大きな違いは見られない。男女で異なる点は、女性では「中認知層」が46%で最も多くを占めるのに対して、男性で最も多いのは「低認知層」で47%となっている点である。

この結果から、性別や年代を問わず、非常に情報感度の高い一部の層が存在することが確認される。消費者は、非常に情報感度の高い一部の層とそうではない中間層、低認知層という大きく3 つに分けられる。当然のことではあるが、情報を得るツールが増えても、すべての人が多くの情報を得て、そのすべての情報を吸収しているわけではない。このことは、コミュニケーション戦略を検討する上で、基本的な事項として念頭におかなければならない。

■図表5 キーワード認知数別分布

■図表5 キーワード認知数別分布


※本提言「トレンドの発生と拡散の今」は、「営業力開発」誌 2017年・No225号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:マーケティング・コミュニケーションズ)へ掲載されています。尚、誌面では以下の様な構成にて続きます。



進む、トレンド発生・拡散の“クラウド化”
Ⅰ. トレンドを読み解く
Ⅱ. トレンドとSNS の関係性
Ⅲ. アクティビストの実態
Ⅳ. アクティビストを捉える戦略ポイント
Ⅴ. 第三次・購買行動モデル
Ⅵ. シャープ株式会社 ロボホンに見る、「愛着」の育て方
Ⅶ. 株式会社宣伝会議 市場の「断片化」を切り開く8つの視点
Ⅷ. 日本の生活者における意識と変化
Ⅸ. 【付録】トレンドワード解説


 
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