トップページ
サービスメニュー
営業力開発誌
JMR戦略ケース研究会

→活動内容とサービス
→過去のテーマ(東京)
→過去のテーマ(大阪)
→顧客接点レポート
→お申し込み

セミナー
会社案内
リクルート
お問い合わせ
JMR生活総合研究所

恐慌時の消費と販売力 年末年始=価格訴求と予約商戦!

 

急速な不況への転換

内閣府が毎月発表している月例経済報告で、08年1月は「一部に弱さがみられるものの、回復している」であった。それが6月に「このところ一部に弱い動きがみられる」となり、8月には「このところ弱含んでいる」となった。その時の基調判断では「アメリカ経済や株式・為替市場、原油価格の動向等によっては、景気がさらに下振れするリスクが存在することに留意する必要がある。」となっている。この時点ではまだ「日本は金融危機への対処で先進国」だという自負心もあった。

しかし、10月の「弱まっている」から、ついに12月「悪化している」と02年2月以来6年10ヶ月ぶりに下方修正した。(図表1参照)

【図表1】内閣府月例経済報告08年

この間、わずか3ヶ月という急速な「悪化判断」の局面であった。「生産」「企業収益」「業況判断」「雇用情勢」ともに「大幅に悪化している・しつつある」とされ、「設備投資」も「減少している」と変更された。

弱含みの経済成長を支えていた「貿易収支」も、1月、8月に次いで10月・11月と連続して赤字となった。

家計も急速に悪化している。「2人以上の勤労者世帯」では、実質での「実収入」は、まだデコボコがあるが、8月以降3ヶ月、「消費支出」、特に「食費」の実質支出が急速に減少している。(図表2参照)

【図表2】家計の変化・勤労者世帯・実質

横並びの大幅な「値上げ」があった「パン」と、外出控えの影響で「交通費」が、7月以降連続して二ケタのマイナスとなっている。

「被服」は10月11.3%のマイナスとなり、特に「男子用洋服」が9月-25%、10月-23.2%と振るわない。「男子用下着」も9月-13.8%、10月-24%である。(いずれも実質)

この異常に急速な「不況」への突入を経て、2009年を迎えることになる。

再度、価格訴求の時代へ

「巣ごもり消費」「内食回帰」がトレンドとされているが、その受け皿の量販店の実績も厳しい。

日本チェーンストア協会加盟社の既存店実績では、8月1.0%のマイナスとなり、9月マイナス2.2%、10月マイナス1.6%と3ヶ月連続して前年を下回った。11月では前年より休日が多いため0.6%の増加となったが、全店売上ではマイナス2.8%と前年を下回っている。つまり、不採算店を閉鎖することによって、既存店効率を高めた結果と言えるが、産業としての「チェーンストア」は成熟期に入っており、その上で不況圧力を受けていることになる。

この二重の厳しさにあって、一時期「値上げ」で影を潜めていた「価格訴求」が再度強化されている。

西友は、同じ都道府県の同じ期間の他社チラシに掲載されている価格まで値下げすると発表した。

この間、西友の価格政策のテンポが速くなっており、10月にはP&G商品4品目を直輸入に切り替え売価を下げた。11月には1700品目の値下げを発表し、ボジョレーをイオンより1円安くした。さらに12月にはクリスマスを前にスパークリングワイン、シャンパンの値下げと、直輸入による低価格政策を実施している。

イトーヨーカ堂は、10月15.16日「円高・ドル安」をうたい文句に食品30品目で「円高還元セール」を実施、さらに10月29〜11月3日に食品50品目で「第二弾」を実施、10月31日には毎月2500品目の「超生活応援プライス」をスタートした。また、11月4日には西新井に次いでディスカウントショップ「ザプライス2号店」を川口でオープン、11月28日から3日間は不振の衣料品、暮らしの品で買上価格の5〜20%をキャッシュバック、第二弾は防寒衣料を中心に5〜30%を対象に実施している。

イオンは、10月18日全国のジャスコ・マックスバリュで衣料品・食品・住居関連1000品目の値下げをする「がんばろう日本!とことん価格」を実施、10月27日には300品目で「円高還元セール」、そして12月13日、21日には10%増しで購入できる「がんばろう日本!お買い物カード」を1万円で発売した。

「他社価格追従」「キャッシュバック」「10%増しプリペイドカード」、なにやら家電量販店のような価格訴求手段が展開されている。

ちなみに、西友の価格政策のキャッチフレーズは「KY(カカクヤス)でいこう!」である。

08年に入ってオーケーやトライアルカンパニーなどのディスカウント路線のチェーンが注目されている。また巷ではアウトレットやユニクロ、H&Mが話題となっている。日経新聞の08年ヒット商品番付でも「プライベートブランド、ユニクロ・H&M」が東西横綱で東大関に「低価格小型パソコン」、小結に「円高還元セール、プレミアムローストコーヒー」が並んでいる。まさに、「価格訴求」が08年のキートレンドであるというばかりである。

しかしディスカウントモデルはこれまで長続きはしていない。

70年代から80年代、ディスカウントストアのモデルとされたダイクマ、アイワールドは2000年代に入って再建状態に入っている。ジャパンはスギ薬局の子会社となり、カウボーイはトライアルにリニュアールされた。 2号店をオープンさせたセブン&アイHDの「ザプライス」は、83年に同じ名前で4店舗展開していたが03年にすべて閉店している。

ディスカウントビジネスにおける持続的な成長企業はドンキホーテ、ロジャース、ジェーソンなどが上げられる。ドンキホーテの特徴的な路線選択は「立体陳列」であり、傘下に入ったドイトや長崎屋にも導入されている。

ロジャースは今や食品スーパーである。生鮮を中心として多頻度来店を可能にしている。

ジェーソンが描いた路線は徹底したローコスト経営によって、「1品平均単価」を下げ、販売数量、客数を増加させることにある。

他業態でディスカウント色を強くしているオーケーやアオキスーパー、コメリ、ジョイフル本田、カインズなども「単に安い」だけではない、独自の路線を選択している。

ディスカウントビジネスを標榜するチェーンの販管費は、ジェーソンで21.4%、ドンキホーテで20.2%、ミスターMAXで24.8%である。オーケーでは16.8%、大黒天で18.8%である。(いずれも07年度決算)

そのビジネスに販管費26.3%のイトーヨーカ堂、31%のイオンが挑戦するのだから、「単に安い」を超えた独自の路線が必要だが、まだその路線は明確ではない。

需要期・年末年始の消費

価格を巡る喧噪の中で、12月は需要期である。日本チェーンストア協会の12月の売上は暦年の9.9%を占める最大の月である。(07年通年実績)

その12月の需要は、24・25日のクリスマス、31日の大晦日・年が明けてのお正月に大きなピークがある。家計調査2人以上総世帯の日別集計では、消費支出が一番多い日は07年7月から08年6月の1年間で、08年1月1日の元旦15850円、2番目は07年12月25日のクリスマス13405円である。期間中の一日平均支出7340円を100とした対比では、元旦が214.2、クリスマスが181.2である。

食費支出では、12月31日が最大で、一日平均を100として258.9、このピークをめがけて12月24日156.6、28日161.8、29日199.1、30日244.9と上昇する。この5日間で、食費支出のベスト5を独占している。

日別の傾向で、クリスマスに大きく需要が伸びるのは、当然「ケーキ」一日平均対して2433.3、つまり24日分近くを24日一日で支出する。他に「ワイン」が425.4、意外なのは弁当寿司が350.1、清酒が237.8である。クリスマスはホームパーティが中心となっており、寿司にワイン、お父さんは清酒で、デザートがケーキとなっている。

大晦日の31日は、年越しそばがメインディッシュとなるが、弁当寿司が579.1、正月用にさしみ盛り合わせ1497.6、まぐろ794.9とピークになっている。さらに、清酒616.6、ビール340.7、ワイン607.3とストックされる。ビールは発泡酒や第三のビールよりは季節、歳時によって変化があり、「ハレの酒」という性格がでてきた。

30・31日は生菓子にとっても需要期となり、まんじゅう、他和生菓子、(ケーキ・プリン・ゼリー除く)洋生菓子に支出される。

元旦の食費支出は減少するが、2日は外食支出が231.0と年間で一番外食が多い日となる。次いで3日214.8となるが、この2日間は、5月子供の日を挟むゴールデンウィークと並び、外食が多くなる期間である。注目すべきは、年末にストックされたはずの清酒・ワイン、洋・和生菓子も支出が高まる。

こうした需要の高まりに対して、先の「価格訴求」はまとめ買いの促進という意味で効果があるが、1年の中でも「ハレの気分」が高揚するクリスマス、お正月に「価格」だけという選択基準では寂しい。

幅広い選択を促進する予約

クリスマス、お正月に彩りを与えるのが「予約」である。クリスマスは「予約ケーキ」で、お正月は「予約おせち」である。この小稿で年末年始の「予約」を取り上げるのは3年目になるが、不況感が高まる08年の「予約」がどのように変化するかに注目する。

08年のクリスマスイブ24日は水曜日である。06年、07年は前日23日に続く連休で、ファミリークリスマスを意識していた。人数では3〜4人用が中心で、価格は3000円台が中心であった。

他チェーンとの差別化ポイントは、著名パティシエの監修を受けることにあったが、多くのチェーンがこれに習ったため、かえって横並びとなってしまった。

ファミリークリマスの品揃えとして、ケーキ以外の「フルーツポンチセット、カットフルーツ、オードブル、握り&手巻き寿司、ローストビーフ、ローストチキン・・」などの品揃えを強化している点が変化であった。

08年のクリスマスは平日水曜日がイブ、翌25日も平日の木曜日ということから、親夫婦のみのパーティや、カップルでのミニパーティなどに分散される傾向になる。

08年クリスマス予約セールの特徴は、以下のように整理される。

  • ファミリー分断のパーティが増えることを想定してデコレーションケーキは「2〜3人用」の品揃えが増えた。逆に「4〜5人用」のファミリーサイズが少なくなった。
  • チェーン別では、イオン、ダイエー、西友がアイテム数を増やした。特にイオンは07年46アイテムが08年に54アイテムに増加させ、その多くを「3人以下(2〜3人用)」に当てた。
  • デコレーションケーキの価格が上昇している。平均価格では3%アップとなっており、特にアイスクリームケーキやキャラクターのアップ率が高い。

07年.08年と同じアイテムで見れば、特に苺を使ったケーキが200円ほど上がっている。

  • カップケーキ詰め合わせ、ツインケーキなど、ミニケーキやプチケーキが増えている。
  • デコレーションケーキ以外のアイテムとして、焼き菓子、ベーカリー商品が増えている。また、パーティフードにしても、寿司メニューが増えており、明らかに「小人数パーティ」をターゲットにしている。

全体としては、昨年から顕著になったバラエティ化が進行し、クリスマス=丸型デコレーションケーキという画一的な品揃えから進化している。それだけに「商品力」が鍵を握るわけだが、パティシエ監修が横並びになった現在では、チェーンとベンダーのオリジナリティを重視する開発協働が必要になる。

一方、お正月の「予約おせち」では、若干価格抑制の傾向が伺える。価格帯分布では、「1万円未満」「3万円以上」の両極が減り、「1万〜3万円未満」のボリュームゾーンが厚くなっている。

高価格ランキングでも、昨年の10万円以上という高価格は消え、最高でマルエツの「ホテルオークラ・和洋二段重」57750円となっている。上質スーパーの成城石井ですら最高は「和食三段重」の53000円、クイーンズ伊勢丹でも「和風おせち」の52500円である。

08年の「おせち」の企画で目立つのは「中華・和洋折衷・ミックス」の「おせち」である。マルエツは赤坂離宮の「中華おせち」52500円、成城石井も「和洋中三段重」50000円、プレッセも東天紅「中華おせち」43650円を揃えている。

旭化成が08年9月に実施した09年のおせちに対する調査では、

  • 正月におせちを食べるのは89.2%
  • おせちを食べる人で、そのおせちの手配については、「ほとんど購入」が8.5%、「買ってくるものが多い」は21.9%、合わせて30.4%が「予約おせち」の受容層と言える。

北海道消費モニター調査では、「ほとんど市販のもの」が07年で13.6%、03年で5.6%と大幅に増加しているとの報告もある。

また、少人数用のおせちに人気があり、西武池袋では10500円の「京・嵐山 錦味」、15750円の「懐石 瓢庵(ひさごあん)」など1〜2人用のものが2割増しという。またイオンでも1人前5800円の「昴」が売れ筋であるという。

予約の具体的な売上規模は各社との公表していないため、よく分からないが、日本能率協会調べでは07年のクリスマスケーキの市販規模を350億円としている。

かってのように洋菓子チェーンや独立店のパワーが低下しているだけに、百貨店を含め量販店の「予約規模」は大きなものがあると推測できる。

また、おせちにしても主要な購入チャネルは百貨店・量販店に限定されると推測される。

この集中する規模の大きな二つの需要は、少なくとも「価格競争」から抜け出ている。しかも、量販店によって開拓された新しい需要である。

オリジナリティの発揮

「予約」と同時に、量販店の「非価格競争手段」として「宅配・ネットスーパー」が相変わらず注目されている。

日経トレンディは「ネットスーパー」の特集を組んでいるが、25万人の会員を背景にイトーヨーカ堂は08年度120億円になる見込としている。さらに、先発組の西友も15万人の会員を獲得し、黒字化しているという。

先行組に明るさが見えてきたことから、イオンやオークワ、イズミヤなどの新規参入も絶えない。

また、新しい動きとして楽天が「楽天デリバリー」というネットスーパーのポータルサイトを開設し、イズミヤ、紀ノ国屋、マルエツ、サミットが参加している。さらに、Amazonも食品を強化し、生鮮まで販売している。

ネットスーパーが黒字化するのは「リアルな店舗」と「バーチャルなネット」との融合で、商品在庫は店舗、ピッキングは店員が処理するために初期投資が少ないからだと言われている。

その意味では忘れかけていた「クリック&モルタル」のビジネスモデルである。しかし、その発想をした紀伊國屋書店と独自のシステムを構築したAmazonの戦いは、圧倒的にAmazonに軍配が上がった。

新規参入が盛んなネットスーパーではあるが、依然として「1日80件・店」の受注に満たないチェーンも多く、また、会員の利用頻度も低いとされている。

日本で最大の「宅配企業」は生協である。中でも首都圏を基盤とする「パルシステム」の勢いがすごい。07年度は前年比7.2%増の1330億円を記録した。08年上期では中心の「パルシステム東京」が、前年比7.7%増、計画比2.1%増である。

パルシステムの好調さは、すべての商品が「オリジナル」であることにつきる。

宅配事業のもうひとつの雄が「宅配牛乳」である。全国牛乳流通改善協会では、宅配契約数は600万弱で底だった15年前の1.5倍に回復しているという。これも、宅配店専用の商品開発があったからである。

ネットスーパーは所詮は商品を購入するひとつの手段でしかない。商品そのものにオリジナリティがあるか、もしくは、Amazonのように膨大な「ロングテール」の底上げを可能にするシステムがない限り、中途半端なサービスに止まってしまうだろう。

冒頭に述べた、不況期での価格訴求、西友の「競合店のチラシ売価追随」や、イトーヨーカ堂「キャッシュバック」、イオン「10%増しカード」、心なしかパワーが鈍いような気がする。

「価格訴求」という手段も、そのチェーンならではの「オリジナリティ」が必要なのかも知れない。

その意味で、逆風下の09年、独自性に満ちた路線選択の年であると認識しよう。