醤油は和食には欠かせない調味料であり、日本人にとって身近な存在だが、逆に言うと典型的なコモディティ商品であり、
商品特長での差別化が難しく、またブランドスイッチの難しい商品の一つである。
■醤油市場の変化
醤油の売上は1990年代以降右肩下がりである。食の洋風化、また外食・中食の増加により醤油の消費量は減少している。
家計調査から2人以上の世帯で醤油が1カ月に何ml使われるかを見て取ると、1985年が1200ml(1.2L)と最も使用量が多かったが、
現在は500ml程度しか使われていない状況である。
1Lパック醤油のブランド別購入年代比率を分析してみたところ、ナショナルブランドの購買者は50〜70代の層が中心で。プライ
ベートブランド、安い醤油は30代と40代が中心である。
このような背景の中、店頭でも激しい競争にさらされている。スーパーも昔は醤油の売り場が三尺に2本あったのを、三尺に1
本も要らないのではないかという話になる。そうなるとトップブランドと安いブランド、両極端をそろえればいいという考えも
あり、ナンバー2ブランドであるヤマサ醤油にとって好ましい展開ではない。
■そもそも醤油の劣化とは
醤油は保存食品なので2〜3カ月たっても食べられなくなることはないが、酸化によって風味がどんどん劣化してくる。まず見
た目で色が濃くなり、酸っぱくなり、切れ、香りの低下、苦みも出てくる。毎日少しづつ変わっている味の劣化に私たちは中々
気付かないのである。しかし、現状どの容量のパックが最も買われているのかを見ると、7割が1Lパックを購入している。つまり、
2〜3月をかけて1Lパックを使い切る人が多数存在するのである。
■脱コモディティ
そんな中、2009年8月にヤマサ醤油が発売した 「ヤマサ 鮮度の一滴 特選しょうゆ」は世界初のパウチ型容器を採用。開封
後も容器の中身をほぼ真空状態に保つことによって常温で90日間経過しても酸化せず、新鮮な醤油を味わうことができるという
大きなベネフィットを持った画期的な商品である。
この「鮮度の一滴」を商品化する過程でヤマサ醤油では脱コモディティのモノ作りに向け、様々な工夫、挑戦をおこなう。また、
お客様にとっても、イノベーティブな“鮮度”をどう伝えていくのか。そのこだわりから、ヤマサ醤油は販売戦略の中心にコミュ
ニティーサイトを置いたのである。
■ヤマサ流トライバルマーケティング
メーカーからの情報は伝わらないということを大前提に様々な施策がおこなわれる。ヤマサ醤油のトライバルマーケティングの
原点はペルソナマーケティングである。ヤマサ醤油のファンになっていただきたいお客様像を明確にして、その方の喜ぶ情報、
コンテンツを流していくという考え方でのペルソナマーケティングであるが、ペルソナを複数設定し、マスに対して同じコンテ
ンツ、メディアでパワーマーケティングを展開するのではなく、さまざまなトライブ(種族)、例えばモバゲー族とかmixi族とか
グリー族とか、テレビ族やコミック族、コンビニ族、こういう方が耳を開くチャンネルに対して、耳を開きそうなコンテンツを
流していくという戦略なのである。
■マーケティングは戦争型から恋愛型へ
今迄のマーケティングは戦争型である。ヤマサ醤油が考えるこれからのマーケティングとは、どんな競合が来てもヤマサが好きと
言ってもらうためにはどうするのか、である。逆に言うと、2番手以下はトップよりもさらに好きになってもらわないと厳しいと考
えている。そういった恋愛型のマーケティングを実現させなければいけない時代が来ているのだろう。