View Point ワコール「クロスウォーカー」

 

顧客接近チャネルの新展開

通信販売市場は、小売業全体の市場が縮小する中で成長を続けている。2007 年度の通信販売業界全体の売上高は、 (社)日本通信販売協会によれば推計で 3 兆 8,800 億円となり、調査開始以来の最高額となっている。このような 背景から通信販売にナショナルブランドメーカーも盛んに参入を試みているが、大企業やマーケティング巧者といえど も、必ずしも成功しているとは言いがたい。それはリアルなチャネルで築き上げたマーケティング力とは異なる力の開 発が要請されているともいえる。

■総合企業から専門特化企業へ

通販企業の売上高ベストテンの推移をみると非常に興味深い。1998年にベストテンに入っていた企業のうち、 2007年で同様にベストテンに入っているのは3社しかないという事実だ。しかも新たにベストテン入りした企業の通販 市場への参入は10〜20年に過ぎない。これはリアルな小売業にはありえない通販の大きな特徴であり、ダイナミック な機会と脅威が存在することがよくわかる。

■利用層の構造的変化

このようなダイナミックな変化は利用者である顧客の変化がその構造的変化をもたらしている。通販の利用率は07 年で61.2%と大幅に伸張している。その要因は男性の利用率、特に60歳以上の男性の伸びである。すでに通販に対する 一般的な通念は通用しなくなっていることに注意しなければならない。このことはメディア戦略を考える上でも重要で ある。例えばダイレクトメールや新聞折り込みチラシもターゲットによっては欠かせないメディアとなっている。

■価値を伝えるチャネル

ここにきてこの通販市場に改めてナショナルブランドメーカーが通販事業を強化しているが、通販専業メー カーとは異なる、超えなければならない壁がある。それはリアル流通チャネル中心の考え方から脱却できない 「認識の壁」、この社内の認識の壁を突破できるリーダ不在の「人材の壁」、認知率や流通カバー率など通念 の呪縛である「マーケティングの壁」など、従来のマーケティングとは異なる力が前提となる。 しかし、一方で通販チャネルはナショナルブランドメーカーにとっては大きな価値をもったチャネルと いえる。それは作り手であるメーカーの「想い」をダイレクト伝えられるチャネル、「価格を超える」ことを可能 とするチャネルともいえよう。

■マルチ・チャネラー

通信販売という手法は業界あるいは業態というような単純なくくりではなく、小売業やメーカーを問わず、 一つのチャネルとして位置づけられるようになっている。 このことは一部のリアルな店舗をもつ小売業でも通信販売に積極的に取り組み始めていることがそれを表している。 通販業界、通販チャネルというくくり方ではなく「マルチ・チャネラー」「マルチ・チャネル」という基本認識がい まそこ重要であると思われる。