「暴君ハバネロ」が発売5周年を迎えた。発売早々、世界一辛い(当時)トウガラシ
「ハバネロ」を使った刺激的なウマ辛さと暴言をはく個性的なキャラクターなどが話
題になり、生産が追いつかないほどの大ヒット商品になった。その後、「暴君ハバ
ネロ」は現在まで継続して菓子売場の一角を占め、いまでもコアなファンを持ち続
けている。
商品寿命の短い菓子カテゴリーで「暴君ハバネロ」のようなコンセプトの商品がな
ぜ5年もの間、継続して売場の棚を確保し続けてきたのか。ヒット商品をいかに定
番商品に育成してきたのか。しかも、マス広告に依存せずになぜ独自の世界観を
つくり上げることができたのだろうか。
■新生「東ハト」
この疑問に答えるための前提が「暴君ハバネロ」の“出生の秘密”にある。「暴君ハ
バネロ」は、単なる新商品ではなかった。新生東ハトを象徴し、社内外にアピールす
るという特異な使命をもった商品であった。
そのためには「“圧倒的”差別化」が絶対条件であった。なぜならば商品アイテムを
多く作り出す体力がなかったこともあるが、それ以上に一つの失敗が社内外に与え
る影響があまりにも大きかったからである。まさしく背水の陣から生まれたブランド
といえる。
■「安・本・単」+「物語」
「“圧倒的”差別化」は、定番売場を確保し続けるためには必要条件ではあるが、
十分条件ではない。その十分条件の一つが「物語性」である。食品でのヒット商品
のキーワードは「安(安全)・本(本物)・単(単純)」だそうだが、「暴君ハバネロ」は
それに加えて「物語」がマーケティングの大きな特徴としてあがられる。
それは「暴君」というネーミングや多くの話題を呼んだ数々のWebを中心にした
「物語」のあるプロモーションが独特の世界感を作り出している。このことこそ、
「暴君ハバネロ」の強さの源泉といえる。
■ガヤ芸人
「物語性」はソフトだけでなく、ハードによってさらに強化されている。例えば暴君の
子供時代という設定の「暴君ベビネロ」など、キャラクターストーリーを軸にいままで
40アイテムの商品によって消費者との接点を多元化してきている。
このことを、バラエティ番組の芸人の「ひな壇」の「ガヤ芸人」を例にして、一つのブ
ランドを長い間成立するための「ガヤ芸人」の存在の重要性を指摘。この「ガヤ芸人」
の計画的・定期的な発売によって、レギュラー製品に刺激を与え、話題を喚起させる
手法をとりながらブランドを育成してきている。「広告やパブリシティだけで、ブランドの
下支えはできない。プロダクトありき!」との指摘は非常に重要だ。
■オンリーワン
なぜ継続して売場を確保しているのか。その答えを縷々探ってきたが、最終的な
結論はオンリーワンだからだ。売場の品揃え中で「暴君ハバネロ」に代替する商品
が登場していない。この答えはあまりにも単純すぎるだろうか。「“圧倒的”差別化」、
「物語」、「ガヤ芸人」などの情緒的価値の追求は、このオンリーワンを作り出すため
の要素であったといえる。しかし、もっと重要なことを指摘しなければならない。それ
は「味」という機能的価値だ。「暴君ハバネロ」は単に辛いだけの味ではない。思わ
ず手が出る美味しさがある。このことこそ、最も重要なオンリーワンの源泉である。