2012年、味の素ゼネラルフーズ(AGF)は〈ブレンディ〉スティックシリーズからスティックタイプの紅茶
「ティーハート」を発売。天然果汁を使用した本格的なフルーツフレーバーティーである。インスタント個包
装なので簡単・手軽、冷たい水にもとけ、ホットでもアイスでも本格的な風味が楽しめる。
■開発当時の紅茶市場概況
開発当時の2011年、紅茶市場は約200億円で、トップ3社が7割のシェアを持っている寡占市場で、或る意味で
は非常に安定した市場であった。当時の紅茶の飲まれ方を分析すると、ほとんどストレートで、無糖ストレート
が45%、甘みありストレートが12%。ミルクティーでは無糖ミルクティーが12%、甘みありミルクティーが24%。
フレーバーティーはほとんど飲まれておらず、無糖フレーバーが4%、甘みありフレーバーが3%であった。
■紅茶市場の構造を考え直す
当時のブランド想起率は7割程度の消費者がリプトンと答え、次に日東紅茶、トワイニング、フォションと続い
た。そのような中、AGFはあらためてマーケット全体の構造を考え直す作業をおこなう。一般的に知られてい
る購買のディシジョンツリーを検討の糸口とした根源的なニーズの探索である。例えば朝食用ドリンクを買いた
いとき、商品の絞り込みのディシジョンツリーでは、まず消費者はドリンクのカテゴリーを決める。仮に朝はパ
ン食で、コーヒーが嫌いであれば紅茶になる。次にサブカテゴリーを決める。茶葉は器具がない上に面倒くさい、
インスタントは少し品質が悪そうだと思ってティーバッグに。次にセグメントを決定。ストレートがいいと思っ
て選び、次にフレーバーを選んで、最後に価格を比べて選ぶ。それぞれの階層でお客さんが何を基準に選ぶのか、
そもそもどういう階層になっているのか、各階層で何が選択基準になっているのか。それらの持つ様々な重要性
にも着目した。
■ディシジョンツリーの書換えから新市場創出
そこでAGFが本当にしなければいけないことは、消費者の頭の中のディシジョンツリー自体を書き換えること
である。お客さんの購買行動のパターンをどう変えるかにチャレンジすることである。では、意識のツリーをどう
やって変えるのか。紅茶=ティーバッグと思っている消費者が一般的には多く、紅茶とティーバッグの結び付きは
非常に強い。AGFの商品はスティックであり、サブカテゴリーでティーバッグを選ばれた瞬間に、お客様がいな
くなる。ボトルネックとなる紅茶=ティーバッグという構造を変えなければならない。理想的な構造は、紅茶の形
態を選ぶ前に、紅茶の種類で選んでもらい、種類と形態を結び付けていくという流れだ。これが当時ニッチであっ
たフルーツティーを選択した大きな理由である。セグメントとしては非常に小さくなるが、発想としては既存市場
を切り取っていくのではなく、新しい構造をつくっていくということとなり、市場の現在規模をさほど大きな問題
と捉える必要はない。むしろトレンドなど、小さくても何らかの動きがあるというところが、取り込みやすいと思
われた。
■紅茶市場の構造変革
ティーハートの発売によって、今まで無いに等しかったスティック紅茶という市場が立ち上がり、かつ10億円を
超える市場を単年度で創出させた。その中で約7割のシェアをティーハートが占めている。明らかにティーハートの
影響で、紅茶市場全体が変わってきている。直近の調査では、茶葉と併せたティーバッグの構成比は5割を切るとこ
ろに来ている。残りの5割は、スティックや個包装でないインスタントの紅茶で占めている。紅茶市場全体の構造変
革が起こり、ディシジョンツリーをどう書き換えるかという話が実態となって現れたのである。3社で約7割の寡占状
態だった市場において、2014年に入り、AGFはメーカー別シェアで2位となったのである。