宝島社

 

宝島社

今や付録付きが当たり前の女性誌だが、そのブームの火付け役が宝島社だ。 本が売れないといわれる出版業界にあって、宝島社は快進撃を続けているが、それは 付録つきの女性誌の好調だけが要因ではない。従来の出版業界の常識を超える施策に 挑戦している結果に他ならない。

■マーケティング会議

その快進撃を裏で支えるのが「マーケティング会議」だ。「マーケティング会議」 のメンバーは社長のほか営業、広告、編集、広報、宣伝等の担当責任者。会議のテーマは一 般的なマーケティングの4Pが中心で、発売した号の反省から次号の表紙、価格、宣伝まで自 由に議論する。その提案内容を誌面づくりや販売価格設定などを戦略的に雑誌に取り入れて いくことで、次々に業界の概念を覆す施策を断行している。 この「マーケティング会議」の意義は、出版社には出版物は「文化」的なものという 意識が強くあるが、それを「商品」として捉えたこと、それによって「お客様」という視点に 転換できたことにある。さらにはその「お客様」のターゲットを現在雑誌を読んでいる既存読 者だけでなく、雑誌を読んでいない潜在読者を想定して、どうすれば雑誌を買ってもらえるか という需要創造の視点を取り入れたことも宝島社のマーケティングの革新性といえる。

■書店チャネル活性化

出版業界はオンライン書店や電子出版に注目が集まりがちだが、宝島社はリア ルな出版流通である全国約5万8千店(コンビニエンスストア含む)の出版流通のポテ ンシャルに早くから注目して、書店活性化策を次々に打ち出している。その一つが「書 店内書店」という新しい売り場づくりへの取り組みだ。これは書店の一角に人気ファッ ションブランドなどを特集した商品である「ブランドムック」や雑誌、DVDなど宝島社の 売れ筋商品を集めた「ファッション雑貨のような売場」。書店に新しい顧客を呼び込む ことが狙いで現在全国への本格的展開を準備中だ。 出版業界固有の資産がリアル書店チャネルといっても過言ではない。こ顧客接点 の衰退は出版業界そのものの衰退を意味する。宝島社という一出版社が書店チャネルの 活性化を単に自社だけのプロモーションレベルに止まることなく、業界全体の問題とし て取り組みに、マーケティングを超えた“こころざし”があるように思われる。

■時代先取りのコンテンツ

宝島社の快進撃の重要な要素として、雑誌そのもののコンテンツの先進性がある。日本で初めての普 段着を中心にしたストリートファッション誌を出版したのも宝島社だ。「sweet(スウィート)」は100万部 を越える現在日本で一番売れているファッション誌だが、その付録(ブランドアイテム)に注目が集まり 勝ちだ。しかし、この付録はその後さらに売上げを伸ばす戦略であり、その前から読者のファッション傾 向を先取りしたコンテンツになっていたことこそ、「sweet」躍進の本質的な要因であることを見逃して はならない。
宝島社の雑誌が売れているのは、業界の常識や通念にとらわれず、市場と顧客を起点に発想していることにある。 さらにそのマーケティングが機能していることの要因として企業風土をあげているが、その風土とは当たり前の ことを当たり前に徹底できる組織風土と言い換えることもできるのではないか。なぜなら当たり前を当たり前に 徹底することが一番難しいからだ。