「セイコーM」は、女性用高級腕時計市場に新たなジャンルを切り開くセイコーウオッチの新たな挑戦である。
ブランドの開発テーマイメージは「”女スパイ”が身に着けるウオッチ」と斬新だ。
「セイコーM」が新たに挑戦する高級腕時計市場はスイス勢を中心とする舶来が圧倒的シェアを占める。この高
級腕時計市場に食い込むためにはいままでとは異なる発想の商品開発が不可欠であった。「セイコーM」は女性
だけのプロジェクトによってセイコーの女性用高級腕時計で足りなかったファッション性やスタイリッシュ性を
重視した商品開発への挑戦といえる。
■ブランディング発想の商品開発
「セイコーM」の開発でユニークなのがブランディング発想の商品開発といえる。一般的にはSTPを中心とした
マーケティングによって商品を開発していく。しかし、今回の「セイコーM」ではまずブランディングからの
発想での商品開発にトライしている。
それはヨーロッパと比較すると日本のメーカーはブランディングが非常に下手だとよくいわれる。しかし、
舶来中心の高級腕時計市場で戦おうとするとこの苦手なブランディング発想での商品開発は逃げては通れな
い道であった。
■bit(brand inspiring tour)
ブランドを開発するにあたってポイントになった手法が、bit(brand inspiring tour)
である。bitとは、製品開発上、チームがブランドの価値観を共有するために開発テーマに関わる体験や情報
収集を共同で行いながらプロジェクトとしての精度を高める、いわゆる“開発合宿”のことである。
このbitは一見、遊びのように思えるが、非常に重要な“仕組み”といえる。ブランドにとって重要なのが世
界観。その世界観を開発メンバーがブレないで共有することが最も重要で困難なことであるからである。価値観
やモノをみる視点がバラバラではブランドの世界観もバラバラになってしまうことは自明であろう。しかし、こ
の当たり前のことが一番難しい。bitという仕組みのもっている本質的な意味を学びたい。
■世界観のマーケティングへ統合
さらに困難は続く。開発メンバー以外の関連部門への説明と納得だ。「セイコーM」が世の中に出るための最大の
関門が社内である。社長はじめ開発、営業、製造各部門をそれぞれ納得させたのもbitの成果が大きい。
また、最初に立てたブランドコンセプトをブレないでマーケティング活動を徹底していくことも重要だ。マーケ
ティング活動での些細な妥協がブランドの世界観を簡単に壊してしまう。「セイコーM」では、女スパイが密談を
しているような演出をした「プレス発表」、エリア別のショップ制の「限定流通政策」、実際の商品ラインナップ
の前のコンセプトを先鋭化した「コンセプトモデル」など、この世界観が一貫されている。
■感性と理論
過去に女性プロジェクトのブームが何度かあったことを記憶している。「セイコーM」も女性だけのプロジェクトに
よる商品開発である。女性プロジェクトが成功するための条件はなんであろうか。
女性プロジェクトはどうしても感性を中心とした展開となりがちであり、それが非常に大きな力を発揮することは間
違いがない。しかし、一方でその裏づけとしての「理論」を忘れてはならない。「感性」と「理論」が合わせ鏡となっ
ていること、このことが女性プロジェクト成功の一つのそして大きなポイントといえるのではないか。