「日常性」の代表である食品スーパーに「楽しさ」を最初に持ち込んだのは、横山和夫氏だ。クイーンズ伊勢丹、サニーマート、スピナなど業界で話題の店舗の設計を次々に手がける「ヒットSMの仕掛け人」でもある。
従来、食品スーパーの店舗デザインは、その日常性ゆえにあまり重視されてこなかった。横山氏の設計のポイントは「食料品や日用品が買える楽しくワクワクする店」。トータルな「魅せる売場」や天井や壁面いっぱいに広がるイラストや演出は多くのスーパーで真似をされるほどになっている。
しかし、横山氏の仕事の領域は店舗設計というハードの領域に止まらない。「ソフト抜きハードは意味なし!」と、ハード以上にソフトの重要性を強調する。そのソフトの指導は接客や商品構成、経営者のマネジメントにまで及ぶ。
◎店作りの最後プロセスが店舗設計
横山氏の店づくりの基本ステップは8ステップという。
ステップ1:ポジショニング、ステップ2:経営方針・販売方針の見直し、ステップ3:テーマの設定、ステップ4実現するための教育、ステップ5:取扱商品の選択、ステップ6:取引先の選択、ステップ7:テーマに沿った商品の品揃えで、ようやくその後に設計のイメージがスタートする。
店舗設計は店づくりの最終ステップということは、ある意味で当たり前のように思われるが、海外に限らず国内の同業他店を真似ることが当たり前という日本小売業にはまさに逆転の発想であろう。
◎エデュケーション(教育)
店選びの4つ要素、@アメニティ(快適)Aアミューズメント(楽しい)Bカルチャー(文化)Cエデュケーション(教育)の中で特にエデュケーション(教育)の重要性を強調している。
食品スーパーはセルフ販売がその大きな特徴で、売場は当然サイレントな売場である。この教育は接客やコンサルティング販売などの人的な販売強化に止まらず、店頭からの情報発信やコミュニケーションの重要性を示唆している。メーカー視点で見ると「教育」がトレードプロモーションの重要な課題となろう。
◎気づかない「当たり前」
食品スーパーには改善しなければならないことがいくらでもある。しかもそれらはほとんどお金をかけずにできることでもある。
- 名札のつける位置と表記の方法
- 牛乳箱・パン箱・段ボールを使わない陳列
- エスカレータのスピード
- クリンリネスの重要性
- 刺身などの盛り合わせ数
- “いらっしゃい”から「こんにちは」「おはよう」
- 風景・風土でつくる店づくり
- スタッフ全員による試食や油モノの試食の時間
- お値打ち品、見切り品、奉仕品などの使い方
- 禁煙への徹底した取り組み
これらのことは、従来「当たり前」という常識の中で誰も疑うことなく習慣化していたことである。逆に言えばそういうことを変えることが一番難しいのかもしれないが、この小さな改善の積み上げによって、店は確実に良くなっていく。
「日本の小売業は自分たちが便利になるための『後ろ』に対する多くの投資をしてきたが、お客様のための『前』の投資は全くしてこなかった」という横山氏の指摘は、今後食品スーパーが生き残るために何がキーになるかを明示している。