缶コーヒー市場は9,500億円の巨大マーケットだ。この魅力ある市場では「コーヒー戦争」といわれるように
日々生き残りをかけた激しい戦いが繰り広げられている。参入企業はいずれも大企業でマーケティング巧者、
しかもパワーマーケティングともいうべき物量作戦が展開されている。
厳しい競争が展開されている缶コーヒー市場の中で、パワーマーケティングとは一線を画する独自な
マーケティングを展開しているのがポッカだ。
■“期待されていないこと”への挑戦
ポッカの基本戦略は“マルチプロダクト戦略”である。これは「特定のお客さまに長くご愛顧いただける商材を提供していく」
ということであり、“特定”というところがポイントだ。
この“マルチプロダクト戦略”を担っている商品の一つが「アロマックス」である。「アロマックス」の開発を一言で言えば、缶コ
ーヒーのタブーであった?香りへの挑戦といえる。缶コーヒーは「香りがよいこと」は最も期待していないニーズでもある。この
「期待されていない香り」を独自に技術開発で、香りの強さ、質ともにレギュラーコーヒーに近い品質の実現を可能とした。
■“ながら飲み”需要開発への挑戦
ブラック無糖の市場を切り開いたのが「BIZ TIME café」である。これはコーヒーでの止渇や“ながら飲み”といういままで缶コ
ーヒーが見逃してきた需要への挑戦である。しかし、単なる400 mlという容量自体は差別化にならない。そこで、強い支持を
受けるブランドとして育成をするためによりターゲットをセグメントし、 “ビジネスシーン”に特化したポッカしかないというポジ
ショニングとしている。
■“買いまわり”需要への挑戦
「BIZ TIME café」は、お茶や水の無糖飲料の買いまわり需要への取り込みというねらいがあったが、ポッカの挑戦は、さらに
新規需要開発にも及んでいる。
それは、男性の甘いものニーズへの対応であり、男性が9割り以上を占める缶コーヒー市場への女性ユーザーの取り込みで
ある。“男性の缶コーヒーをデザートへ”として「抹茶ラテ」、“女性のデザートを缶コーヒーで”として「泡立ちカプチーノ」を開発。
このように買いまわりニーズを取り込む積極的な需要を開発する商品開発にもポッカは果敢に挑戦している。
■すべの人に愛される必要はない
このようなポッカの缶コーヒーマーケティングの根底に流れている考え方は何であろうか。それは徹底したターゲットセグメン
テーションといえよう。そのターゲットを明確にするのがプロファイリングによるユーザーの特定化であり、そこにある未充足の
ニーズ、ベネフィットの探索である。
しかもそのベネフィットは「軽く刺さっている程度では私どもは他社に勝てない。刺さって抜けないぐらいの刺さり具合がないと
戦っていけません」とその刺さり具合を強調している。
また、「すべての人に愛される必要はない。ただ、特定の人には長く愛していただける商材をポッカは作っていきたい」という
考え方が“尖がった商品”が生まれる源泉となっていることがわかる。しかし、コンセプトだけで“尖がった商品”が生まれるわ
けではない。ポッカの需要創造型商品の開発は、「遠赤外線焙煎」「脱酸素製法」「ファーストドリップ製法」「フレッシュナチュラ
ルアロマ製法」などのたゆまざる技術開発に裏打ちされていることを忘れてはならない。