プラス「フィットカットカーブ」

 

プラス家庭用ハサミ「フィットカットカーブ」

プラス株式会社の家庭用ハサミ「フィットカットカーブ」は、2012年の初年度販売目標200万本 に対して、発売後1年で約400万本を売り上げた。事務用はさみのメーカー出荷量は、年間約1500万本 である。プラスはもともと、事務用はさみのシェアはナンバーワンであったが、「フィットカットカーブ」 投入でさらに、そのシェアを高めた。

■ターゲットユーザーの再確認

開発段階では、はさみを購入するターゲットユーザーをウェブ調査や店頭インタビューなどで、 徹底的に調査した。店頭で、誰が、どんな目的で、どのように買っているのかを調査したところ、 思わぬ事実として、ホームセンターやスーパーマーケットなどの量販店を中心として、購買客の 8割が女性であることが判明した。これは、その後のコンセプトをつくっていく上で、大きなポイ ントとなる。  また、家庭で使用するはさみには、どんなことが要求されているのか。要望の、1位は切れ味。 切れ味がよく、しかも持続することが求められる。2位は、ベタつき・汚れ・さびが嫌だという比 較的女性目線も含む要望。3位は、持ちやすさ。持ちやすさは重さや痛くなりにくいという要素と も関わってくる。  次に家庭で何を切るときに、はさみを使うかアンケートを取ったところ、意外にも主力だと思わ れていた紙を切るという回答は、わずか8%であった。食品のパックや洋服のタグなどのプラスチ ックが非常に多く、包材の段ボールを開封するときの粘着物やビニール(プチプチ、ビニール袋な どの包装紙)、最近はごみを分別するので牛乳パックやコートボールなどを切るという回答が出て きた。

■製品コンセプトの決定

これらの調査結果から、家庭の主婦が量販店ではさみを買って、いろいろなものを切る中で、 当然切れ味を求め、その切れ味に不満を抱えていることが判明する。そこで、目指すべきものとして、 家庭で使う新定番をあらためて出そうということになる。「家庭で使う新定番」ということで、 「紙はもちろんプラスチックや厚紙、いろいろなものがスパッと切れる」はさみを作るということが 大きなコンセプトになった。そこに求められるものは切れ味と持ち心地で、そこに付加価値を加えて いくということで開発がスタートした。  切れ味を求めた過去の蓄積と新たに時間をかけた研究の結果、刃の開き角度が約30°のときに対象 物が滑らず、力が入って軽く切れることが導き出され、「ベルヌーイの定理」を利用したカーブ刃の 採用により開き角度を常に30°に維持することに成功する。

■切れるを体験する

こうして誕生した「フィットカットカーブ」はプロモーションにも特徴がある。ハサミでは珍しい 小売店でのデモ販売が行われた。文房具には、店頭で試して買ってもらう売り方があるが、はさみは 取扱いでの事故の可能性もあり、店頭でのお試しは難しい。しかし、切れ味は体感しないと伝わりづ らい。そこで、プロのデモンストレーターによる店頭販売を実施する。デモ販売のできない売場では プロのデモンストレーターがあたかも店頭でデモをしているかのようなDVDを流した。この試し切り の映像の前には、はさみをアクリルの箱で覆って、刃が全く露出しない状態で切れ味が体感できるデ モンストレーションキットも投入した。こうした売り方へのこだわりが、切れ味のよさを認知させ、 購買やクチコミでの広がりにつながったと言われている。  「フィットカットカーブ」の成功には、市場の成熟化を乗り越えていく製品開発のストーリー、 その価値を伝えるために考え抜かれたプロモーション施策など、様々な要因を読み解くことが出来る。