食を巡る環境変化は激変している。少子化・高齢化、個食・孤食、安心・安全志向などの社会環境の変化に一番敏感に反応するのが食卓といえる。
また、食は単純な線的な変化ではなく、建前と本音が入り混じった複雑な変化が特徴だ。このことが食のマーケティングを考えることの特有の困
難さと同時に需要創造のチャンスを生じさせているともいえる。
1999年からのべ約94万件の食卓実態調査「教えて!あなたの晩ごはん」調査(パナソニックネットワークサービシズ実施)の10年に及ぶ食の変化
の報告である。
■オケージョンという文脈
この食卓調査を通じて一つの重要な示唆にオケージョンという視点は重要だ。それは調理機器と食卓評価の分析で、評価の高かったナ
ンバーワン調理機器はオーブン、一番評価が低かったのが電子レンジであった。電子レンジの評価が良くない理由には、電子レンジの
罪ではなく、それが使われる食卓の多くが、余り物を暖める、買ってきたもの暖めるなど、分の悪い食卓に利用されていることに低い
評価の理由があるという。
家電に限らず商品はその機能だけで評価されるわけではない。オケージョンやいわゆるコンテキストでそのコンテンツの意味が変わる
。ここにこそマーケティングコミュニケーションの大きな役割が残されている。
■「買い物」の10年変化
「買い物」のトレンドは、@堅実消費A夜型の買い物B「ネットスーパー」。これらはまさしく、不況という経済環境の変化と共働き
などの就労環境の変化を如実に現している。 特に夜型の買い物という点では、小売の現場ではオペレーションの問題が付きまとうが、
営業時間の延長やタイムセールだけでなく、食品スーパーといえども「時間帯MD」などを真剣に取り組み時期に来ているのではないか。
■「調理」の10年変化
「調理」のトレンドは、@30分以下調理が主流A主婦の調理のスキルの低下B料理本・雑誌、家族の伝承からインターネットへCお手
軽レシピD手作りへのこだわり低下が報告された。
“素敵な主婦”の最も重要な条件の一番が「何事も前向きに取り組んでいる」ことこそ、家事などが上手という単一の価値観から生活
全般の多様な価値を重視する傾向を見て取れる。ただ、手作りへのこだわりの低下は事実だろうが、手作りが軽んじられているのでは
ないところに、まさしく食の難しさとチャンスがあるように思われる。
■「食卓」の10年変化
「食卓」のトレンドは、@“ごはん”に注目A新型シルバーのメニューB“お家”で晩ごはんの増加C規則正しい方向へ向かう食事時間。
内食トレンドは自明だが、シングル30代以下でも急速に増加していることからも絆や家族のあり方、夫婦の役割分担、料理男子などの生
活スタイルの転換を示唆している。
■それでもメニューは店頭で決まる
メニュー情報ではインターネットの利用がすでに浸透しているが、実際にメニューが決定されるのは店頭であるという指摘は非常に興味
深い。インターネットでメニューを決めていても店頭での特売からメニューを変更することの方が現実だろう。EDLPとの関連からも店頭
での価値を再度見直すことが不可欠であろう。