農薬や化学肥料を使わない素材で作った有機食品。世界の有機食品市場の半分近くを占める米国では、
この10年で約5倍となり、食品市場全体に占める割合も約3%になっているともいわれる。しかし、
日本市場では食品全体の1%弱に止まっている。
有機食品という新しいカテゴリーを創造する前提として、新たなライフスタイルの提案とその
浸透が戦略課題となることはいうまでもない。そのためには、企業の1社1社のマーケティング投資と
努力には限界がある。「オーガニック・ギルド」は、この有機食品の開発・販売するための業種の
異なる食品メーカーによる統一ブランドだ。
■生産者へ支援
オーガニック食品への関心には安全・安心意識の高まりなど多様な要因があげられるが、
中でも注目すべきは「食への感謝、生産者支援」である。 オーガニックは農業の中でも非常に労
働集約的な農法で、通常の農法より人手と手間がかかる。さらには、偏屈者扱いされ周囲の協力や理
解が得られない場合もあるという。有機への取り組みは強い「志」がなくては、成立しえない。この有
機生産者への理解や評価ということがオーガニック食品への関心の高まりの背景にあることは非常に重要であろう。
■メーカーのカテゴリー戦略
「オーガニック・ギルド」は、単に食品としてではなく、食卓や食文化という価値を提案する
「業界横断型協業ブランド」だ。
この取り組みにはユニークな点が多くある。一つは、食品という枠の中でお菓子、加工食品、
嗜好品、ハムなどを多様な業種が集まっていること。さらには、単なる短期の販促的な取り組みではなく、
新たなブランドを構築しようとしている。三つ目は一つの新たな市場を創造しようという取り組みである。
単品ブランド戦略から“カテゴリー戦略”という視点からみても注目すべき事例といえるのではないか。
■理念ベースの協働
「オーガニック・ギルド」の組織運営もユニークだ。まず入会の基準が「行動理念に賛同すること」
という理念ベースでアライアンスを志向している点にある。また、メンバーの多くがオーナー企業という点も
注目される。オーガニック市場に対して長期的に辛抱強く取り組むためには、トップのコミットメントなくしては難しい。
組織の運営もパッケージデザイン以外の商品規格や価格設定、受発注、物流、品質管理などは各メー
カーが行っている。このことによってリスク分散という以上に、自主性・自立性と統一性というパラドックス
を超える組織運営を可能にしているといえるかもしれない。
■大きな二つの壁
オーガニックだから売れるのではない。このことが、ある意味でこのビジネスの本質を言いえていると思われる。
消費者はオーガニクの前にライフスタイルや価値観に共鳴しないとオーガニックという食品にはたどり着かない。
また、日本の小売が大きな壁となるのではないか。バイヤーの選択基準は価格であり、広告投下量だ。販売条
件である理念の共有、長期的取り組みやコーナー化は生命線だが、同時に隘路だ。
この大きな困難な道にオーガニック・ギルドは挑戦しようとしている。この壁を乗り越えたときに新しい市場を切り開くことになる。