年々競争が激しくなる鍋用調味料市場。この業界に2012年“革命”を起こしたのが味の素「鍋キューブ」である。
従来の鍋用調味料と言えば3〜4人前の液体パウチや濃縮のビンやペットボトル入りが主流だが、液体パウチは、一
旦封を切ると使い切らねばならず、また、ボトルは使用量が調整できる半面、重くて持ち運びしづらいという欠点があ
る。味の素は自社商品のコンソメにヒントを得て、キューブ状というアイデアから商品の開発を始める。ただキューブ
状というアイデアの根幹にこだわったため、開発は困難を極め、満足のいく商品ができあがるまでには2年以上の歳月
を要したという。
■「鍋キューブ」の特性
「鍋キューブ」とは、キューブ1個が1人前になった固形の鍋つゆであるが、これが従来の液体の鍋つゆと大きく異なる。
一つ目に、既存の鍋つゆは量が決まっており、開けたら使い切りである。キューブは1個1人前なので、使いたいときに使い
たい量だけ使える自在性がある。二つ目に、鍋つゆは液体故に結構な重量になる。特に家族が多い方は、鍋つゆを二つ買っ
て、さらに水と牛乳と白菜を買ったりすると、買い物がとても大変なものになる。特に鍋をするときはいろいろな食材を買
わなくてはいけない。その様な状況でも固形キューブは軽くコンパクトで負担にならない。三つ目は固形キューブにすれば、
加熱したり殺菌したりする必要もないので、より経済的に製造することができ、お買い得で提供できる。最後は汎用性である。
家庭で常温のまま常備できるので、鍋つゆに使った残り1個を鍋以外の料理にも使うことができる。今までとは違ったもので、
より良いものを作れないかとの思いをキューブで実現したのが、「鍋キューブ」である。
■開発の意図
まず食品市場全体の状況を整理し、検討を開始した。市場規模と成長性をマッピングする中で、味の素の既存製品がどこに
位置するのか。味の素は大きな市場には既に多数の製品を持っており、シェアも高い。結果、現状での売上規模は大きい。
ただし、今後の成長が見込めず、縮小してしまうカテゴリーでの製品が多く、会社全体の商品のポートフォリオからも、数
年後を見据えると、下降の方向は否めない。成長性のあるカテゴリーは限られている。だからこそ、新しい領域として、成
長性があり、できる限り規模が大きい領域で、何とか新しい事業の柱になるような製品ができないかと考え始めた。
■アイデア発想の視点
最初にアイデアを作るときに、2人の上司から相反する命題が与えられる。「死ぬほど考えろ。人を頼るな。自分以上に考
えてくれるやつなんていない。だからこそ、自分が徹底的に考えろ」もうひとつは「一人で考えるとどうしても視野が狭くなる。
そして、一人分の発想、知見、パワーしか使えない。だからこそ、なるべく一人で抱え込まずに、たくさんの人の目線と、
たくさんの人の知識と、たくさんの人の頭を使って考えろ」この2つの意見は両方併せ持って初めて意味あるものとなってくる。
また、アイデアを考えるときに気を付けていることが二つあると言う。一つは「できないものは価値にならない」つまり、
われわれはメーカーであり「できること」が重要であると考える。アイデアというものはできて初めてアイデアだと、
「できないものは価値にならない」当たり前の事だが、最初にこれを決めると、アイデアの絞り込みがとても明確になる。
もう一つは、「もうからないものは事業にならない」われわれが製品を出すのは、事業をより良くし、製品に価値を付けて、
お客さまからお金を頂ける。それこそが初めて「価値になる商品=アイデア」である。
この二つのスクリーニングだけでも大変厳しい絞込みが可能である。広告を作る時にも、販促を考える時にも、同様にこの
二点を常に徹底している。