5年ぶりに復活したヤクルトの「ミルミル」が好調だ。しかし、1978年発売のロングセラーブランド
「ミルミル」も、売り上げの大幅減少を理由に2005年には販売休止に追い込まれていた。
「ミルミル」のような復活商品はかつての知名度を活かした効率的なマーケティングが可能となると
いうことで、景気低迷下の現在では一つの戦略とし注目を集めている。しかし、一過性のプロモーシ
ョンとして話題になるレベルではなく、主力商品として定着させるためには単に復刻させるだけでは
成功にはおぼつかない。
■ミルミル復活の真の目的
「ミルミル」の復活は、単なる昔懐かしいブランドを再現した復刻版プロモーションではない。
その目的はビフィズス菌を浸透させるためであり、一過性のプロモーションとは一線を画する戦略的商品
政策である。もちろん、8割の知名度や7割の飲用経験というブランド資産があったことが前提であること
は言うまでもない。
■変化と不変
「ミルミル」成功のキーワードは「変化と不変」といえよう。変えるべきところは思い切って変える、
しかし変えてはいけないところは変えない、ということを明確にしたことにある。
変えたものの中で注目すべき点は内容成分だ。以前の「ミルミル」は、付加価値を上げるためにDHAやラ
クトフェリンが入っていたが、今回の復活ではそれを外していることだ。リニューアルというと付加価値
を上げることが一般的で、足し算発想はあっても引き算の発想はなかなか出にくい。既存商品や競合との
差別化を意識するあまり個アアとなる基本価値から乖離してしまうのが多くの商品改良の辿る道だ。
「ミルミル」は本来の成分である菌の強化を追及したことで、商品の基本価値という原点に立ち戻った
ことが成功の大きな要因ではないだろうか。
■価値訴求の“場面づくり”
もう一つ成功のポイントが “価値訴求”の“場面づくり”強化だ。具体的な体制がフィールドスタッフと
プロモーションスタッフの体制である。
メーカーのマーケティング課題の一つが「店頭エクセキューション」(Store Execution=店頭実現・実行)
と言われてきた。いかに素晴らしいマーケティングを企画しても、店頭でしっかり品揃えされていなければ
意味がない。「店頭エクセキューション」は価値訴求の場面づくりの前提で、それを担うのがフィールドス
タッフだ。
■真のワンツーワンマーケティング
店頭実現だけでは価値訴求の“場面づくり”には片手落ちだ。買物客に商品価値を理解してもらい、飲用習慣
やリピート客づくりによって定番、定価での購入を促進する、その役割を担うのがプロモーションスタッフで
あり、単なるデモ販売要員とは異なるのはこのことにある。
また、注目したいのがこのプロモーションスタッフの活動こそ真のワンツーワンマーケティングであるとして
いる点だ。ヤクルト商品の多くは購買者と飲用者が違う。売場で買物客と対話をすることによって、実際の飲
用者に合わせた適切な商品の推奨が可能となる。ITや機器を使った顧客アプローチが話題になりがちだが、人
を通じたコミュニケーションを今一度見直したい。
「ミルミル」の成功は単なるテレビコマーシャルだけではなく、このような地道な価値訴求の“場面づくり”
にこそ成功の大きなポイントがあるといえるのではないか。