マーケティングにおいて店頭の重要性はいまさら言うまでもないが、消費不振の時代のい
まこそその重要性が増大している。それは店頭でいかに“消費を動かす”かが製配販の共
通の大きな課題といっても過言ではないからだ。そのためにはショッパーが買う理由以上
に、買わない理由の解明が重要となっている。
しかし、過去にインストアマーチャンダイジング(ISM)が提唱されて以来、多様な研究が
行われてきたが、その歴史の長さと関心の高さに比較して、店頭でのショッパー(買物客)
の購買行動の科学的な解明は進んでいないように思われる。
ショッパーインサイトを探る方法としては、「アイトラッキング」、「買い物同行調査」、
「出口調査」などがあるが、ネットワークカメラと動体検知技術を使った購買行動分析に
よって新たなショッパーインサイトを提供するのがITベンチャーのミディーだ。売場に設置
したカメラでショッパーの購買行動を録画し、実際に商品を購入するプロセスのリアルな姿
を『映像』で明らかにするのが他の手法と大きく異なる点だ。
■定性と定量を行き来する
映像で明らかにするのは、買物客が棚前を通りかかり、商品を認識して興味もって立ち止まり、
他社商品と検討する、という購買行動のプロセスを“可視化”することに他ならない。
しかし、ミディーのショッパーインサイトの最大の特徴は定性と定量を行き来しながら分析をす
ることができる点にある。購買者一人一人を定性的に観察するデジタルエスノグラフィー(IT技
術を使った行動観察調査)で気づきを発見することはもちろん、購買行動のプロセスをデータ化
し定量的な分析により購買者の傾向を定量的に把握できる。買物客の特徴ある行動に気づいても、
それがどのくらいの量としてあるのかが捉えられないと、その気づきが個人の独りよがりな視点に
止まってしまい、組織としてコンセンサスを得ることが難しくなってしまいがちだ。
■4つの力学で可視化する
ミディーのもいう一つの特徴は4つの力学という指標でインサイトを“可視化”することだ。それは
「ストップ力」「コンタクト力」「クローズ力」「ブランドロイヤルティ力」の4つだ。特に「接触」
行動を重要視することによって「クローズ力」「ブランドロイヤルティ力」という表層的でない深層
的な“店頭でのブランド力”をインサイトすることができる。
いづれにしてもPOSデータだけではわからない購買プロセスを“可視化することによって、売場とブ
ランドの問題点を明らかにすることを可能にしている。
■店頭で消費を動かす
ミディーの仕組みと分析手法は、ショッパーインサイトとショッパーマーケティングに可能性を広げて
くれる。しかし、ショッパーマーケティングにはもう一つの大きな課題がある。それは店頭での
需要創造だ。いかに店頭で買いたくなる気持ちにさせるか。需要の多くは顕在してはいない。潜在す
る需要を発掘する、そのためには売りの完結の場である店頭で「買いたい理由を創造」することが重
要となっているからに他ならない。「買いたい理由」、それは「なぜこの商品やサービスが必要なのか」の
理由である、それこそ新たな生活価値の発見と提示である。ショッパーマーケティングはこのことの課題に
答えることこそ使命といえる。そのためには深層心理にまで及ぶインサイトも必要となるであろう。