光文社の生活実用雑誌「Mart(マート)」が“消費を動かす装置”として注目されている。
例えば、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」をはじめ、アクタス「スーホルムカフェ」のバッグ、
貝印の弁当関連グッズ「シリコンカップ」、パナソニック「家庭用パン焼き器」、P&Gの衣料用洗剤
「ボールド」など、次々とヒット商品を生み出しているからだ。
■歳をとらない雑誌−変化する「Mart(マート)」
「Mart」は大都市周辺に住んでいて、新しい地域社会でのコミュニケーションツールとしてのモノ情報を
探している主婦に向けた情報誌だ。その大きな特徴は大給編集長が言うように「歳をとらない」稀有な
雑誌ということだろう。
それは、特定のスタイルにこだわらずに読者の変化に対応して「Mart」も変化するからだ。その変化対応を
保証するのが質の良い読者と双方向コミュニケーションである。
■変化対応を支える“質のよい”コミュニティ
顧客を囲い込むコミュニティづくりは雑誌に限らず様々な企業が盛んに取り組んでいる。しかし、
「Mart」のコミュニティづくりは他とは一線を画す。その考え方は「池ではなく川」という考え方にある。
現在「Mart」が様々な意見交換ができるコミュニティには2500人以上の読者会員とWEB会員併せて
約1万3000人がいる。数としては決して多くはないが、すべての会員の個人情報が登録されており、
トレーサビリティが効く。しかも変化の激しい時代に“池”のように生態系が同じになってしまい
停滞しないように、会員の中でカリスマをつくらない新陳代謝を絶えずしている“川”のようなコ
ミュニティづくりが大きな特徴といえる。
■ブランドを動かす人−生活を楽しむ人
質のよいコミュニティを構成する消費者とはどんな人たちなのだろうか?例えば「ル・クルーゼ」
を高級調理器具として認識していない人たちよりも、キッチンに“飾ること”にも価値を見出したり、
キャンプなどでも徹底的に使いこなす人の方がブランドロイヤルティが高いという。所得が上とか下とかいうのではなく、
“付加価値をもって商品を見られる人たち”、“生活を楽しむことができる人たち”が消費を動かす人たちといえよう。
■人を動かすメディア−雑誌
この“生活を楽しむことができる人たち”との関係が構築できるのが、他のマスメディアを比べて仲間意識があり、
媒体との距離感の近い雑誌メディアの大きな強みではないだろうか。
実際に「スーホルムカフェ」のバッグの事例はまさしくこのことを実証しているといえよう。テレビ媒体と比べれば
雑誌のスケールメリットは限られていることは自明だ。何千万人にも電波と違って知らせることはできないが、
2万人を3000円弱のバッグのために足を運ばせるということは電波ではできないのだろう。
■商品の“遊びしろ”と“二次創作”
大給編集長は「Mart」の編集を通じて、現代のヒット商品の条件の一つとして「遊びしろ」というキーワードをあげている。
桃屋のラー油は本来の機能以外に「遊びしろ」があった。「遊びしろ」によって付加価値が生まれる。
この「遊びしろ」を意図的に活用するのが「二次創作」だ。この「二次創作」こそが“生活を楽しむ”ことでもある。さらに
“生活を楽しむ”ことによってクチコミが生まれ、それが広がっていく。