ライオンのペット事業が二桁の成長を続けている。その要因は営業改革と家庭品マーケティングを徹底的に活用した新製品開発にある。
ライオンのペット市場への取り組みは早く、「ニオイをとる砂」などヒット商品が出たものの、安売り競争が常態化して業績は低迷していた。
■事業低迷の本質的要因は何か
売上は目標に届かない、在庫は過剰、利益は出ない。このような事業の建て直しを任せられたら、あなたなら何から手をつけるだろうか。
当然、売上低迷の要因が何であるかを認識することによって異なるであろう。売上・利益の低迷は、市場や流通のせいではないことはも
ちろんであるが、単純に言えば、商品から手を着けるのではないだろうか。売上、利益の源泉は商品であることに間違いはない。しかし、
それ以上に社内の人間の習慣化された意識や行動に本質的な問題があることにはなかなか気づかない。
■悪魔のサイクル
問題は特にそこで働く人たちが自ら生み出していることが多いのではないか。ライオンのペット事業改革で最初に手をつけたのが営業であった。
売上不足→卸への押し込み→過剰な販促費→安売の原資化→見せ掛けの売上→在庫過多→利益圧迫という悪魔のサイクルに陥った。
この悪魔のサイクルから抜け出すことは容易ではない。それは部分の改善では済まない。サイクル全体を善循環に変えなければならないからである。
■「人間力」づくり=「思想革新」
では悪魔のサイクルを抜け出すためのキーは何か。
齋藤常務は、事業の成長には「商品力」と「店頭力」と「人間力」の3つが不可欠だが、一番前提となるのが「人間力」と言う。この「人間力」
そのもの作り直しが事業革新のキーといっても過言ではないだろう。
具体的な営業改革は「消費者接点の拡大」「データ(事実)に基づく営業」「なぜの検証」「人的ネットワークの活用」「相性をつくる」
である。この当たり前のことができる「人間力」をつくることが営業革新の具体的内容であった。これはまさしく「人間力」の作り直しは「思想革新」
ともいえる取り組みであったともいえる。
■インキュベート
もう一つこの事例から学ぶべき概念がある。それはペットのマーケット自体をじっくりと大きく孵化させていく「インキュベート」
という考え方である。1品1品、各カテゴリー・各市場をペットとペットオーナーに役に立てるよう大きく育てていくようなマーケティングである。
新製品の乱発や安売りなどの「消耗」戦のマーケティングが跋扈している。これからのマーケティングを考える新たな視点である。
■「人間力」マーケティング
「人間力」は営業だけに止まらない。“作業”になりがちな開発者担当者にも「好奇心」「感受性」などの「人間力」づくりが実践されている。
さらには全社員に対しても、「われわれはどんな事業をしているのか」という思想的な問い直しを迫っているなど、一貫した思想革新が行われていることは見逃せない。
ライオンのペット事業の革新は、マーケティングの源泉は「人間力」というまさに当たり前だが重要なことを気づかせてくれる事例といえよう。