アメリカで始まったビジネスモデルの一つにネット証券がある。また現在ではネット損保も世界中にある。
しかし、ネットでの生保の販売はライフネット生命が誕生するまでどこにも存在しなかった。その理由とし
て、証券は瞬時に取引が終了し、損保も通常の契約期間は1年で終わる。しかし生保の商品はその契約期間
が例えば、終身、最低でも10年という期間に及ぶからである。すなわち、認知度だけではなく、顧客から信
頼できる会社だということを分かってもらわなければ成り立たないビジネスなのである。
■なぜ保険料が半分になるのか
ライフネット生命は国内では74年ぶりにゼロから設立された保険会社である。人生で一番お金がかかるのは
子供を育てることであり、それを担う20歳代、30歳代が安心して赤ちゃんを産めるような社会をつくりたい
という思いから始まっている。
統計のビジネスである保険商品の製造原価(=純保険料)は変わらない。変わるのは会社の運営経費(=付
加保険料)だけである。インターネットを使った販売では保険料を半分にすることも可能となる。設立より
5年、ライフネット生命のお客さまの8割が20歳代、30歳代である。
■「思い」と「算数」
どんな会社を作るのか。設立時に会社のマニフェストとして、「私たちの行動指針」「わかりやすくする」
「安くする」「手軽で便利にする」が徹底的に検討され、かつ詳細に作り込まれた。
設立のもう一つの柱は綿密なシミュレーションを何度も経て練り直された収支計画である。出口氏曰く「ベ
ンチャー企業は「思い」と「算数」に尽きる」のだと。
■信頼を築くには
単純にテレビコマーシャルへの投下量を増やすことは、保険料半分という、根本的な会社の理念に抵触する。
コストをかけずに認知度や信頼度をどうやって上げていけるのか、これがライフネット生命のこの5年間の最
も困難な課題であった。
「結局、認知度や信頼度を上げるためには絶えざる発信しかないということが5年間でようやく分かりました。
お金をかけないでマーケティングをやるということは、いろいろな発信をひたすらやり続ける、駄目元でやり
続けること以外にはなかったような気がしています」免許事業である銀行・保険業界の会社の最高経営責任者
がツイター・フェィスブックを自分で更新し、講演会では自らハガキサイズの“大きい名刺”と呼んでいる会
社概要を配る。この一見単純なツールが、一人に何枚でも持ち帰ってもらえるサイズにしたことで、その後の
口コミの敷居を低くする情報ツールとして活躍するのである。すべては徹底的に検討された強固な会社理念マ
ニフェストがあってのことである。
■真っ正直に経営する
昨年ライフネット生命はマザーズに上場。約1万2000人の株主のほとんどが個人である。そのため、昨年の初め
ての株主総会は平日でない日曜日に日比谷公会堂で開催された。また有価証券報告書もすべて事前に開示。当
然、契約者も自由に参加できる。テレビを含めメディアにも、すべてオープンである。株主総会自体が質疑応
答も含めホームページ上で100%再現されている。「真っ正直に経営していくということはそういうことで、
マニフェストに象徴される会社のすべての活動が最終的にはお客さまの共感を呼ぶもとになると私は考えて
います。それが恐らく21世紀のビジネスのマーケティングと20世紀のそれとの違いではないかと考えています」