1877年に北海道開拓使が石狩に缶詰工場を建て、鮭の缶詰の量産化を開始する。
日本の缶詰の歴史はここから始まった。缶詰販売は1980年代に山を迎え、90年代は
次第に規模が縮小し、現在は最盛期の半分程度の約1500億円の市場である。市場が
縮小の主要因は、生鮮食品や冷凍食品、チルド食品などの製造技術の進歩、冷蔵庫
など食品保存に優れた家電製品、さらにCVSやフードサービスの普及による社会環境
の変化である。缶詰は必要性が薄れ、食品の中でもコモディティ化した商品の最たる
ものとなっている。
■「缶つま」登場の契機
そんな中、2009年に缶詰のおつまみレシピ本である『缶つま』が、世界文化社から発行された。
この本は世界文化社が主導し、国分、マルハ、はごろもフーズなどが商品情報を提供、缶詰メーカ
ーの協力のもと出来上がる。その中身を見た国分の担当者は、自社の缶詰のおつまみレシピ本を作
って酒の売場に置いておけば、缶詰が売れるのではないかと閃いた。すぐに国分の缶詰を使ったレ
シピを載せた配布用の本が5万部作製された。後に「缶つま」のラインナップとなる霧島黒豚や広島
県産かき等は単品の高価格帯商品として、すでに販売されていたが、小売店の缶詰売場に並べるだ
けでは、なかなか厳しい状況であった。「缶つま」は新たな需要喚起の仕掛けやイノベーションに
向けた取り組みの始まりであった。
■「缶つま」発売
2010年2月から広島産かきや霧島黒豚などを全て「缶つま」に意匠替えし、新規開発アイテムも
含めて14アイテムの商品を「缶つま」シリーズとして発売。コモディティ化した缶詰が、おつまみ
という嗜好品の方向に動き出すのである。その際にターゲットを、お酒を飲む人に絞り、その方向
で販促していく事を決定し、まずは酒売場でプロモーションを開始する。平均価格が約500円、高い
ものは1000円近くし、当初は「こんな高い価格で誰が売るんだ」との批判もあったという。しかし、
イトーヨーカ堂が最初に着目し、酒と一緒にした面白い売場を店舗で展開していくことで、大きく
注目されるのである。
■成功への仕掛け
価値訴求をしていく過程で、家飲みの需要は潜在的に大きいことが解ってくる。「缶つま」の
メーンターゲットは、性別や年代に関係なく、お酒の好きな方とした。また製品用途も「つまみ」
に絞り込み、それを徹底的に訴求するプロモーションを実施しいく。この意思決定の背景には、
国分は国内最大の酒類卸で、多くの酒類メーカーと接点があり酒売場を作ってきたという強みが
あった。企画をすぐに酒類メーカーと売場でコラボレーションできる機動力があり、メーカーで
はなく問屋だからこそできたプロモーションおよび商品開発であるとも言える。売場を変えると
いうことに徹底的にこだわり、酒売場の方が3倍も4倍も売れるという事例、実績を積み上げてい
くのである。
■現状とこれから
2014年「缶つま」は、スモークシリーズ18アイテムを追加し、3月現在で80アイテムとなり、
年間で735万缶を売り上げる。昨年の年間販促テーマは「日本各地の名産と缶つま」「モルトウイ
スキーと燻製の相性」。クックパッドでの「缶つまJAPAN C1グランプリ」という料理コンテスト
や実食会、モルトウイスキー対応として「缶つまジャズナイト2」、80種類の「缶つま」を使って
フレンチのフルコースを作る「晩餐缶」、中華料理のバイキングの「缶ちゅうか!? 本中華!!」
等々、様々なイベントが開催された。2015年以降には100アイテムで1000万缶の売上を達成すること
を目標としている。2010年の発売以来、現状に至る5年間で、「安くて、長持ち」という点ばかりが
強調されていた缶詰のイメージを「価値ある、おいしい、楽しい」というものに変えていく活動が、
多くの顧客に支持されたのである。