厳しい業績が続く百貨店業態の中でも京王百貨店の営業戦略がいま注目を集めている。
百貨店の苦境を脱する戦略として多くの店舗がヤングキャリアや高級感へ戦略をシフトしているが、京王百貨店は 中高年ミセスに照準を合わせた店舗づくりを徹底している。
京王百貨店の営業戦略は、百貨店業態に止まらず、多くの小売業、さらにはメーカーにとっても団塊世代アプローチへの示唆に富んでいる。いくつかのポイントを整理した。
◎“変える”よりも難しい−“変えない”戦略
京王百貨店ではMD面では、変化に戸惑いを感じやすいシニア層の離反を防ぐため、大型改装に際しても「変えない」ことを基本としている。この9月の婦人服フロアの全面改装では、60歳代を中心顧客とする4階は、大きな売場移動を行なわずに環境のリフレッシュにとどめている。
“変えない”ことは“変える”ことよりも戦略性と信念がいる。“変えない”こと、不易の重要性をもっと見直すべきではないか。
◎サービスの本質−居心地のよさ
サービス面では高級感の演出よりも、店内で買い物する居心地の良さを高めることを重視している。例えば多目的トイレや薬が飲める飲料水ブース。化粧品売り場では、カウンセリングを行うイスの高さや靴売り場で試し履きするためのイスの形状、売り場の場所などを示す店内表示までも中高年へ徹底した配慮がされている。
◎絞りながら拡げる−ダブルターゲット
百貨店のポジショニングから言ってもターゲットを絞りすぎることにも問題がある。その矛盾を様々な仕掛けでクリアしている。夫婦での買物や主婦の買物を促進する紳士服売場でのスポーツウエアの集積。孫需要への対応による3世代をターゲットとする子供服フロアや母娘消費をねらう婦人服フロアなど、“ターゲットを絞りながら広げる”仕掛けがある。
◎“場所貸し業”からの脱却−平場戦略
京王百貨店はいわゆる“平場”が多いという特徴がある。“場所貸し業”から自ら企画し、自ら販売する、これが最大の強みだ。
中高年ミセスにピッタリするファッション商品は意外に少ない。体型をきれいに見せる婦人服・紳士服のパターンの研究など、独自商品開発にも力を注いでいる。“平場”運営でお客さまのニーズをきめ細かく対応する、まさしく顧客に一番近い小売業ならではのMDといえよう。
◎“らしさ”の発揮−接客
京王百貨店が強化しているのがコンサルティング機能。百貨店だけでなく、小売業の復権には接客が決め手になることは明白である。
しかし、それは従来の接客技術ではない。「商品知識に詳しい」、お客さまの質問に、キチンと答えられる販売員が求められている。中高年ミセスは自分に似合うものがよくわかっている。むしろ知りたいのは、商品の特徴やコーディネートの仕方など、専門知識を持った上でアドバイスである。
「神は細部に宿る」。京王百貨店のケースはまさにこのことを示している。一見些細に見えることを「ブレないで」追求し続け、徹底できるかが小売業にとって最も重要な戦略であり、マネジメントではないだろうか。
ようやく百貨店の復権の兆しが見えてきた。