貝印が新しい考え方のWebマーケティングに挑戦している。「人を呼び込むのではなく、担当者が訪問する」
というコンセプトのもと、貝印に関して書き込みのあるブログを担当者自らが探し出し、コメントを書き込むことで、
製品への理解やファンの育成を図る「KAI TOUCH Project!」だ。企業の担当者自らがブログに“出向いて”コメント
を書き込むという斬新さから注目を集めている。
■通念を超える
マーケティングコミュニケーションチャネルとしてWebの重要性はいまさら言うまでもない。マス広告への逆風の中、
ブログ(CGM)が新たなメディアとして注目されている。
ブログがコミュニケーションチャネルとして注目を集める理由は、他のメディアと比較したコストの低さと効率性であり、
さらにはインセンティブによる口コミへの誘導などである。しかし、「KAI TOUCH Project!」には、これらの通念を
超える考え方がある。
■嬉しいという「感情」
「KAI TOUCH Project!」の通念を超える考え方の一つが、口コミのトリガーに対する考え方だ。 一般的にはこのトリガーは、
得する、自分にメリットがある、お金がもらえるということだろう。しかし、口コミの本来的な意味合いから言えば、金銭的な
インセンティブではなく、本音で書いてくれているブログをどれだけ取り込めるかが重要だが難しい課題である。そのためには
金銭以外のトリガーが前提となるはずだ。
金銭以外のトリガーは何だろうか。嬉しいとかちょっとビックリという「感情」ではないかというのが「KAI TOUCH Project!」
の基本的な考え方だ。ブログの場合は読んでもらった、レスがあった、それがちょっとびっくりにつながる。つまり「感情」が
口コミを促進するトリガーといえるのではないか。
■“非効率”なコミュニケーション
もう一つの通念は効率という考え方だ。Webコミュニケーションを活用する動機の多くを占めるのが効率性だ。しかし、
「KAI TOUCH Project!」は、ある意味、“非効率”なコミュニケーションともいえる。
それは、担当者が一つ一つのブログにコメントを書き込むという作業レベルの話ではなく、コミュニケーションの本質は、
ヒトのあたたかみを醸成すること、という考えだ。ハイテクな世界にハイタッチという考え方で、Webマーケティングの
新たな可能性を切り開く試みといっても過言ではない。
■社員のマーケティング感度養成
もう一つ「KAI TOUCH Project!」の取り組みで注目しなければならないことがある。それはコメントを書き込む担当者が
専任者だけでなく、多くの社員が担っていることだ。
これは、ブログに訪問するのが社員であることによって驚きにつながる効果もあるが、それよりも大きい効果が社内に対する
マーケティングへの関心や意識付けである。社員が直接お客さまに触れることによって、貝印がどう見られているのか、
お客さまの視点に立つとはどういうことなのか、このような意識づけも大きい。
「KAI TOUCH Project!」は、従来のWeb利用のマーケティングコミュニケーションに対するアンチテーゼに止まらず、
コミュニケーションの本質とは何なのかを再考するきっかけを与えてくれるケースともいえる。