2009年の農地法改正以降、農業ビジネスに参入する民間企業が増えている。
しかしながら事業が軌道に乗っていると言えるのは大企業を含め今のところ
少数である。1998年に本格参入を果たしたカゴメ株式会社では、施設栽培で
の新しい農業形態の事業化により、2012年度、15年目にして念願の黒字化を
達成。現在、生鮮野菜事業の売上高では100億円を超す規模にまで成長して
いる。中でも生食用トマトは年間約1万4000t生産しており、北海道から沖縄まで、
全国約7500店の量販店でカゴメのトマトを扱うまでになっている。
■カゴメ参入当時の日本のトマト
ヨーロッパではマルシェでも八百屋でも30種類ほどの色や形の違うトマトが並んでいる。生食用では○○
サラダに向くトマト、調理加熱用でも○○料理に合うトマトなどと、種類が非常に豊富である。それに対し
て当時の日本では、トマトといえば桃太郎だった。桃太郎はおいしいが、トマト文化としては、まだまだ乏
しくて、寂しい状況であった。
■生鮮事業の三つの挑戦
カゴメは、1998年に生鮮事業を起こす際に、三つの狙いを定めた。
一つ目は、新しい農業生産を実現すること。1990年代後半の日本におけるトマトの生産農家は、露地栽培でうま
く作って単収が5〜6t、篤農家のハウス栽培でも20tが限界であった。一方、その当時のオランダでは平均40t作
ることが可能であった。日本でもそれを見習い、新しい農業、収益性の高い農業の実現を目指した。様々な先端
技術で高収量を達成し、現在では平均43tを実現している。さらに、山梨県北杜市に建設中の最新型施設では初
年度から55〜57tの栽培を見込んでいる。
二つ目の狙いは、野菜の流通を近代化することである。今は若干変わっているが、当時は市場流通が一般的であ
った。その中で、独自の物流と需給システムを構築し、菜園から量販店まで直接届けることと、経路を短縮する
ことで低価格化を狙った。
三つ目は野菜でナショナルブランドを確立することである。これは最大の狙いでもあり、カゴメの生鮮事業での
志ともいえる。当時、生産者の顔の付いた野菜は販売されていたが、カゴメはナショナルメーカーがナショナル
ブランドを付けて、全く同じものを北海道から沖縄まで多くの量販店に並べたいと考えたのである。
■生産拠点、栽培技術の現状と今後
現在、全国11カ所に大型菜園を保有。総面積は53ha、トータル年間出荷量は約1万4000tである。例えば、いわき小
名浜菜園は10.2haの敷地の中央に選果場と事務所、その両側に5haずつの菜園があり、約200m×250mの圧倒されるほ
ど広大な建物である。その他にも、主に夏出荷向けの契約菜園も約20カ所保有している。
栽培には大型のガラス温室を導入し、土耕栽培ではなく完全に養液栽培である。温度・湿度・CO2濃度、外気の風、
中の滞留のあり方など、相当な因子をコンピュータで総合的に制御し環境整備する。閉鎖型の室内でLEDや蛍光灯だ
けで作る植物工場というイメージが強いが、実際には太陽光が入る解放型で、高い技術を結集し栽培されている。
こうした努力の結果、「こくみトマト」「高リコピントマト」など8種類のカゴメブランドが誕生した。
また、これら生産技術や制御技術についてはパナソニックや日立、富士通などとノウハウが蓄積されており、カゴ
メと組んで栽培ノウハウをブラックボックス化してシステムの中に組み込み、輸出まで含めて技術資産、農業振興
を一つの事業として展開しようという具体的な動きも始まっている。