固形石鹸は1991年をピークに6割減と大幅に市場が縮小しているが、最近では回復傾向が明確になっている。
それは固形石鹸市場を二分する牛乳石鹸の業績が5期連続増収増益であることからもわかる。さらに牛乳石鹸は固形
石鹸市場では花王を抜いて日本一になっている。
固形石鹸の市場縮小は、液体形状などの新しいカテゴリーに置き換わっていったことが最大の要因だが、こ
こにきてなぜ固形石鹸が復活しているのだろうか。また、小さなカテゴリーといえども大企業との競争の中で牛乳石
鹸がなぜナンバーワンになれたのだろうか。
■縮小市場への選択と集中
牛乳石鹸の固形石鹸市場での反転攻勢は、現社長の「化粧石鹸日本一」宣言が起点だ。
固形石鹸はピークの約6割減と、固形石鹸市場が消滅するのではないかという悲観論が蔓延していた。
しかもトップとの差を逆転するには50%伸ばさなければならない状況にあった。
さらに、ヘアケアをはじめとした成長カテゴリーには競合と横並び的な注力をせずに、
石鹸とボディソープに経営資源を集中させる「選択と集中」という方針を打ち出している。
ヘアケア市場では牛乳石鹸は過去に「シャワラン」ブランドがトップになったこともあり、
この市場には思い入れも強いものがあったにもかかわらずだ。さらにマス広告をやらないという決断までしている。
後追いで考えれば、「選択と集中」は牛乳石鹸のポジションから考えれば当然の戦略の
ように思われる。しかし、当時の状況の中で成長市場ではなく縮小市場への特化という戦略判断
があったからこそ、現在の好業績を呼び込むことを可能にした大きな要因といえよう。
■ニッチナンバーワン戦略
しかし、この「選択と集中」戦略はもう一つの戦略と対で語られなければならない。
それがニッチナンバーワン戦略だ。石鹸とボディソープへの選択と集中だけではなく、さらに
そのカテゴリーの中を切り分けて、大手メーカーでは力を入れづらい非常に小さな市場でナンバ
ーワンを目指す戦略といえる。その戦略は必然的に“オンリーワン”となる。例えば、無添加の
カテゴリーでは牛乳石鹸はトップシェア約30%だ。
■“ブレない”マーケティング
牛乳石鹸のマーケティングを一言で言えば、“ブレない”マーケティングといえる。
“ブレない”とは、戦略だけでない。コスト高にもかかわらず釜炊き製法にこだわった石鹸の
「製造方法」、販売よりも品質第一を重視する一貫した「企業風土」、またプライベートブラン
ドを始めとする低価格化やサブプライムローン問題に端を発する原料油脂の高騰への対応など、
環境変化や競合の動きに“ブレない”ことをあげることができる。
その“ブレない”ことが時代の変化の中で大きな機会となる。ギフト需要の減少、洗顔石
鹸のブーム、「青箱」への新たな価値づけ、若い人の石鹸への関心など、時代の潮目が変わるとき
に“ブレない”がゆえに、チャンスを呼び込むことを可能にする。もちろんこれらのことは@コス
メなどの新たなメディアの登場も要因としては大きいものがあるが、量による力の論理ではない従
来とは異なるマーケティングが可能となっている。
マーケティングは、変化対応の技術と思想といわれるが、変わらないこと、“不変”も現代
のマーケティングにとって改めて重要となっている。しかし、変えないことは変えることよりも難しい。