デジタルサイネージは、従来から様々な実証実験が繰り返されてきているが、その本来の効果を十分発揮できていなかった
のが実態であった。しかし、ここにきて表示機器の品質の向上、通信技術の進化などによってデジタルという特性を最大限に
活かせる非常に強力なメディアとなり得る可能性を秘めている。特にインストア・メディアとしてマーケティングコミュニケ
ーションに与える影響は大きいものがあると考えられる。
■未経験メディア
デジタルサイネージのインストア・メディアでの可能性という点では、現状では大きな進展があるとはいえない。
しかし、井上氏が紹介しているように、この市場へ様々な業界から参入が活発化しており、また大手流通業が積極的な姿勢
を示していることから、マーケティング領域に新たなビジネスチャンスが生まれようとしていることは明らかであろう。
しかし、どのメディアにもいえることであるが、メディアはハードであり、あくまで情報というソフトを入れる器
にしか過ぎない。特にデジタルサイネージは、いままでのメディアにない特性をもった“未経験のメディア”ということが
できる。その価値を最大限活に活かすにはコンテンツとその運用手法の新たな開発が不可欠となることはいうまでもない。
■“いまここにいる”メディア
デジタルサイネージのメディアの価値は、“時間と場所を特定できる”メディアということにあるといわれている。
デジタルサイネージの場合、設置場所に合わせたコンテンツのコントロールが可能であることが大きな特徴である。例えば
量販チェーンであれば、都心の○○店の□□売場なのか、郊外店の□□売場なのかがわかっている。店舗別・売場別・
時間帯別に客層や購買目的にあわせたコンテンツを流すことが可能といえる。
このセグメンテーションは、従来の年齢・性別・職業などのデモグラフィックだけでなく、“いまこの時間に○○売場”
という切り口は、従来とは全く異なるセグメントの考え方になる。
従来にはない“いまここにいる”にセグメンテーションにリーチが可能となるメディア、それがデジタルサイネージの
本質的な価値といえるのではないか。だからこそ、この“いまここにいる”コミュニケーションとなるコンテンツが不可欠となることは明白である。
■買いたくなる理由の発信
このように考えると、今後より一層、買物客のインサイトや買物行動の科学的で的確な把握が重要視されることになる。
そのコンテンツの内容は“買いたくなる理由”である。行動経済学を持ち出すまでもなく、消費者は「選ぶ理由」を欲している。
このコンテンツとデジタルサイネージというハードが両輪となって運用されたときにメディアとしての価値が発揮されるといえる。
また、井上氏が最後に提言しているように、インストア・メディアを考える上で、パーソナル・メディア(携帯電話等)
も忘れるわけにはいかない。特に売場を考えたときの携帯電話はある意味でインストア・メディアの有力なメディアとなるか可能性をもっている。
当然ではあるが、パーソナルメディア、インストアメディア、アウトストアメディア、マスメディアなど多様なメディア
とコンテンツが連結、統合されることが、デジタルサイネージの可能を一層広げていくことはいうまでもない。