KKベストセラーズより創刊された料理マガジン『男子食堂』が話題だ。
コンセプトは「簡単なのに本格派!男子の料理心を刺激するワンテーマ料理マガジン」。
創刊の背景には男性向け料理教室の盛況や「弁当男子」が流行語になるなど、料理好き男子の増
加がある。しかし、この傾向は単に料理に止まらず、「草食系男子」、「カジメン」、「イクメン」、
「家デート」などの言葉が表すように男子の“ウチへ向かう”という潮流の一つの現れとして料理が
あるのではないか。一方の女子は「山ガール」、「つりガール」、「バイクガール」など、男子とは
逆に“ソトへ向かう”。このウチとソトへの逆転現象は、現代の消費を読み解く一つの視点といえよう。
■新たなジャンルの創造
『男子食堂』は雑誌の世界に新たなジャンルを創造したといっても過言ではない。
それを証明するように、この男性向け料理雑誌のジャンルに、続々と他社からの参入
が相次いでいる。また編集長100人、書店員100人が選ぶ「雑誌大賞」で、トレンドを
つくった雑誌として『男子食堂』が「トレンドメイクマガジン賞」を受賞している。
さらに新たなジャンルという意味では『男子食堂』が目指しているのは“ハイブリッ
ドメディア情報誌”だ。ホームページ、SNS、インターネットTV、携帯などのデジタル
メディアやリアルな場である読者参加型の男子食堂料理教室「LIVE KITCHEN」の開催など、
雑誌というメディアの枠を超えたまさしく新ジャンル情報誌といえよう。
■徹底した読者中心主義
しかし、話題の『男子食堂』もテスト版の『メンズキッチン』は失敗している。
それは新雑誌に共通する失敗の要因である「編集者の個人的な思い」であった。
このことを高橋編集長は「読者がどう感じるか、何を求めているのか、それだけ
を基準に、自己のエゴを徹底的に排除して」して、
読者への意見を徹底的に聞くことによって『男子食堂』は、コンセプトワークを
全面的に見直している。
このことはいわゆる消費者中心主義といえるが、この“当たり前”を実践、徹底
するのは難しい。その徹底は「編集者が考えたことは、基本的には間違っている
と考えています。お金を出して買うのは読者ですから読者に聞くのが正解だと思
っています」。ここまでの徹底した信念がなければ、読者に受け入れる雑誌とは
なりえないのだろう。
■ニュー・ノーマルの時代
『男子食堂』は現代の消費を読み解く鍵を握っている。その鍵は「ソトからウチへ、
ウチからココロへ」である。それは、言葉を変えれば、非日常から日常へ、さらに
ココロの満足に価値を求めているということができる。そのことを『一個人』とい
う雑誌の特集テーマの変遷をみてみるとまさしくこのことが明白となっていること
がわかる。他誌だが、「妻にほめられる週末クッキング」という特集にもみられる
ように、料理が楽しいと感じるのは「相手が喜ぶ、誉めてくれたとき」が多い。
料理をするモチベーションは「誰かに喜ばれるのが嬉しい」からだ。社会学者の
リチャード・フロリダの「グレートリセット」の中で、次代を担う新しい消費ト
レンドの層を「ニュー・ノーマル族」と名付けている。この従来一部の人たちの
トレンドであった「次元の異なる新しい消費トレンド」が、いまやノーマル(普通)
になっている。『男子食堂』はこの「ニュー・ノーマル」を具体的に示す指標となっ
ているといえるのではないか。