「大地を守る会は、日本の第一次産業を守り育て、人々の生命と健康を守り、
持続可能な社会を創造するソーシャルビジネスである」ということを宣言。すな
わち大地を守る会のマーケティングや事業決定はそういった理念実現への挑戦でもある。
■有機・低農薬野菜と無添加加工製品の会員制宅配
有機・低農薬野菜と無添加の加工製品など取り扱う通販事業は全体の約95%を売上げる。
この通販事業の中に、会員制宅配事業とEコマース事業がある。会員制宅配事業は基本的に
はカタログ購入である。カタログに付いている注文書で注文を受け、それを1都3県のみに自
社便で週に一度、配送している。Eコマースと比べて1割引きにして差別化をしている。
■なぜEコマースへ進出するのか
宅配事業という基幹があるのに、Eコマースを始めた要因には、消費者、環境、競合という切軸がある。
まず、消費者の生活スタイルが変化してきたこと。宅配はこちらが指定した日時に届くのだが、この
サービス自体が現在では、多くの人にとって許容できないサービスではないかと思われる。専業主婦の
減少、核家族化もあって、昼間は不在の家が増えている。しかも主力のエリアである1都3県はオートロ
ックのマンションが増加。そもそも中に入れないという問題が発生する。
二つ目は環境。ウェブの環境、消費者のウェブのリテラシー、またスマホ使用などが急速に発達し、
購入動線が非常に増えている。ウェブには拡散性が高い利点がある。また、これまでの宅配サービスの
場合、営業は電話、契約は紙のやり取り、支払いは口座引き落としであり、それ以降のタッチポイント
に乏しい。直接のアプローチ手段は電話、あるいは、チラシ封入、DM発送しかなく、セグメントが非常
に難しい。メールやネットの場合、レコメンドもでき通販事業には非常に有効なツールである。ただし
全てウェブシフトすれば問題解決ではない。カタログ販売からウェブへなかなかシフトしないのは、
やはりその方が使いやすいという側面があり、購入回数を比較すると宅配会員は1カ月で平均3.5回、
つまり、ほぼ毎週購入しているという計算となる。これは驚異的な数字である。逆にEコマースの方
は1.5回である。やはり毎週毎週紙が届くと「注文しなければ」と動機づけられる。現在、Eコマース
の場合でのメールの開封率はまだ10%程度である。
三つ目は、競合の参入である。食材通販業界は、まず生協という“巨人”が食材宅配のシステムを
築き上げた業界である。自然食品という切り口で宅配を開始も長らく狭い競合状態であった。ここに
違うツールで攻め込んできたのがオイシックスである。商品はライトな基準ではあるが、オイシック
スは上手な見せ方とEコマースを使った巧みな参入展開で、多くの人にこんなサービスがあったのだと
初めて気付かせた。新たな市場を開拓して一大売上を築き上げた。直近2〜3年はセブンイレブンやイオ
ンといったスーパーやコンビニ、三越伊勢丹や阪急などの百貨店が参入。ネットで注文して自宅まで届
けるという利便性での通販事業であるが、高齢化社会で、買い物難民がこれから世間一般に広まってい
く中で、食材を定期的に宅配するという業態自体に大きな可能性が見出されている。さらにEコマースに
楽天、ヤフーも参入。さらにその他異業種の参入もある。
■市場変化への対応
最近はオーガニックやエコ、ロハスなどがメジャーになっているが、有機野菜の一般農業におけるシェア
はまだまだ0.4〜0.5%なのである。例えばニッチな商圏の中で利益を追求するという道も一つにはある。
ただし、それでは有機野菜のシェアが広がらず社会的企業としての使命を果たせない。環境変化に応じて
マスに向けて拡大すべく様々な工夫が必要である。Eコマースにおける大地を守る会の戦略展開がここに開
始されるのである。