少子化や電子化、低価格化などによって年々市場が縮小する国内文具業界。その中にあって、
資本力や技術力を持つ大手メーカーに対してアイデア一つで数々のヒット商品を生み出しているサンスター文具。
このアイデア商品の開発を担当する部門を率いるのが高畑正幸氏。使う人が思わずにやりとしたり、
あっと驚いたりするような楽しくて便利な仕掛けがある。しかもそれは単なるアイデアに止まらず、
基本的機能をしっかり備えているのが特徴だ。それは数々のグッドデザイン賞をはじめとした受賞歴が証明している。
高畑氏はテレビ東京の番組「TVチャンピオン」の「全国文房具通選手権」で3回優勝の文具王。文具王の担当した
開発事例を中心にヒット商品開発の秘訣を学ぶ。
■飽くなき差別化追求競争
文房具業界が元気だ。ボールペンやノートといった文具を代表する商品もシンプルで完成された商品で、
素人目にはこれ以上改良の余地がないように思われる。しかし、業界全体で新たな商品を開発して市場を活性化し続けている。
この元気の元は、これでもかという差別化の追及ともいえる。ボールペンのクリップ競争や消しゴム・カド競争の事例から
文具開発に携わる開発者たちの情熱と意地が伝わってくる。このようなアイデア競争が文具の機能そのものの追及以上にコ
モディティ化を防ぎ、業界を活性化し続ける源泉なのだろう。
■柔軟な開発姿勢
このようなすさまじいアイデア合戦の文具業界の中で、文具王の開発の切り口の一つが、正面から勝負しない」だ。
ホッチキスの基本機能である “綴じる”に対して針を“取る”に着目。差別化といってもスペック競争の泥沼に陥ら
ずに、異なる切り口で新たな価値をつくりだしている。
二つ目が「ユーザーに言われて」。ユーザーに言われてあわてて仕様変更をする。このことはどの業界でもやってい
ることだ。しかし、ルーペやハサミの事例からその肩の力が抜けた柔軟な対応と起動力が重要であることを感じる。
三つ目が「枯れた技術の再発見」。ある限定された技術を異なる分野に転移させて新たな価値を生み出す。
固定観念に囚われていたのでは、新たなアイデアを生まれない。当たり前だが、通念や常識を超える柔軟な姿勢こそ、
大前提といえる。
■普段の暮らし方
しかし、このようなアイデアを次々と生み出す能力はどのようにしたら身につくのだろうか。文具王は以下のよ
うなことを日常で心がけ、しかも実践している。
・三日坊主の薦め
・読書と非言語知識
・デジカメを持って歩く
・観察・記録する
当然前提として文具を楽しむということはもちろんだが、仕事上で能力を発揮するためには、仕事以外の日常でど
のように暮らすかが重要であることをこれらのことは示唆しているのではないか。
■神は細部に宿る
上記の暮らし方は何を意味しているのだろうか。それは、日常での身の回りにある細かいことに、
どれだけ気づくことができるか、そこから何かを感じ取とれるか、さらにそのことを楽しめるか。
そこに“神は宿る”。