ベネッセスタイルケアは介護保険が施行された2000年度に設立。当初は30拠点の有料老人ホームを
中心としたスタートであった。現在は238拠点、2012年度の売上は約700億円、営業利益も50億円を
超え、社員数は約1万2000名である。
■介護事業の事業課題
介護保険は3年おきに制度が変わり、その給付基準が変わる。当然、企業努力で補える部分はあるが、
実際には制度変更で売上・利益が大きく変化する。また事業者の裁量が少ない一面もある。例えば介護
サービスでは、お客様の声を聞き、費用をかけたサービスのレベルアップが、売上・利益につながらな
い可能性がある。訪問介護事業では基本的にサービスのマネジメントが効かない部分が大きい。さらに、
当時はサービス業というよりは福祉という認識が強く、この風潮の中で、市場が本当に活性化するのか
という疑問があった。そして、人材確保が難しいという課題もあった。
■最初の選択
企業理念である「よく生きる」=「年を取るほどに幸せになれること」にこだわれる事業とは何かを
考えた結果、効率よりも質を重視したサービスが提供でき、それが売上や利益につながるジャンルとして、
介護付き有料老人ホームを選択する。
■事業の拡大
本格的な介護事業のスタートは1997年に岡山県と多摩ニュータウンでの「くらら」シリーズである。
その後、介護付き有料老人ホームでの様々な価格帯とサービス形態のバリエーションを広げ、「くらら」
「グラニー&グランダ」「まどか」「アリア」の4シリーズのブランドを立上げる。ブランドと拠点が増
えたことで、一人のお客さまが選択する範囲(地域)の中に、複数のブランドが混在する状況となる。
こういった流れの中、2006年からは、これまでのシリーズ事業部制を廃し、各エリアの特性に合わせた
活動がより可能になるエリア事業部制へと移行する。現在、団塊の世代の資産状況、人口動態を織り込み
ながらマーケットの拡大を狙うため「ボンセジュール」、「ここち」の2ブランドも追加している。
■これまでの事業戦略のKFS
発足時の選択で介護保険制度のリスクが少ない特定施設に絞ったこと。また、入居金があるタイプとない
タイプの、二つの料金形態を意識的に持ち、財務バランスを安定させ、かつ保険制度のリスクをも分散させ
たこと。以前の有料ホームの立地はリゾート地の高額型や都心周辺地型が多かったが、本来の顧客視点で考
えた結果、展開地域を大都市圏の住宅地としたこと。価格帯におうじた複数ブランドを同一エリアで展開し
販売効率を上げていくドミナント戦略を実行。まず上位の価格帯シリーズから進展させ、続きバリエーショ
ンを増やしながら各価格帯の販売も強化、ボリュームゾーンを獲得していく販売戦略などである。
■今後の成長戦略
現在の強みである特定施設に関しては、価格帯を広げてエリア展開していく。在宅サービスやサービス付き
高齢者向け住宅、福祉用具、食事、医療といった事業領域の拡大。もう一つは、カンパニー制の導入である。
全国で230カ所以上、1万2000人の従業員、1万人以上のご利用者がいる現在、いかに地域に合わせた意思決定
がタイムリーにできるのか。組織の硬直化は、サービスレベルの低下、ずれ、につながる大きな要因である。
ベネッセスタイルケアの成長の源泉は、サービスを提供する「人」がきちんと機能し、正しいサービスが提供
されることにある。いかなる成長戦略も現場での信頼を裏切らないサービスがその土台となる。経営と組織風
土が常に表裏一体の関係であってこそ継続的な成長が実現されるのである。