制汗剤の市場規模は約500億である。年間100万個売れれば、まあまあ売れたと言われるなか、
ライオン「Ban汗ブロックロールオン」は2014年2月の発売から5カ月で250万個を販売する。
シェアでも、ロールオンのカテゴリーでナンバーワンの地位を獲得し、現在も1位争いのデ
ッドヒートを繰り広げている。
■ワキ汗が気になる人のグループインタビュー
通常、制汗剤のグループインタビューというのはあまり盛り上がらないという。ニオイが
インタビューの中心になるが、「私はニオイが出ています」や「におっちゃって、失敗しました」
という話はあまりしたがらない。大体出てくるのは、自分自身はそんなに自覚はないのだけれど、
「人のふり見てわがふり直せ」や「もし、におっちゃったら嫌だな」と思って使っていますという
話にとどまるのが一般的なようだ。
これに対して、汗ジミというテーマでグループインタビューを実施すると、失敗談がどんどん出て
きた。例えば、朝の通勤時につり革を持っていたら、汗ジミに気づいて手を下ろすはめになってしま
った。グレーの服を着てデートに行ったら、汗ジミが出てしまって恥ずかしい思いをした。集合写真
を撮影するときに手を思いきり上げたら、汗ジミがくっきり写っていた。クーラーが寒いからと思っ
てカーディガンを着ていったら、クーラーが効いていなくて、脱ぎたいのだけれど汗ジミが気になっ
て脱げなかった。最終面接で緊張して汗がだらだら出てきて、気になって集中できなかった。合コン
でワキ汗が気になって動きが鈍くなって力が発揮できずに、気の利かない女と思われた。等々非常に
盛り上がったという。
■なぜ、今、汗ジミか?
生活者の意識としては、成人女性の8割以上がワキ汗・汗ジミを気にしているという。また、調査に
よって、女性にとって汗ジミはニオイに次ぐワキの悩みだということが浮かび上がってきた。現代の社
会的要因も大きい。一つは、女性の社会進出が当たり前になり、商談やプレゼンをする機会が増え、
女性の発汗シーンも増加している。二つ目は、永久脱毛経験者が20〜30代女性で35%と増加してきてい
ることである。医学的な根拠は明確ではないが、永久脱毛をすると、ワキ汗が気になるようになったと、
ワキへの関心が高まる傾向が見られる。三つ目は、女性服の流行素材の変化がある。制服が減少し、
女性もビジネスカジュアルになっており、ビジネスでフリーに服を着る中、流行素材にはワキ汗ジミが
目立つ素材も多い。このような三つの社会的要因が浮かび上がってきた。
■Ban汗ブロックロールオン
Ban汗ブロックロールオンの商品コンセプトは「ワキ汗対策!」「汗ジミ気にせず過ごせる」である。
まさに「汗ジミ」をどうするかである。ここで新しい市場を創造していこうということでスタートした商
品なのだ。
それまでの制汗剤市場の争点は二つあった。一つは、対人を意識して、臭くない人、清潔な人と見られたい、
不潔な人と見られたくないという、ニオイ予防(=「嗅覚」)である。もう一つは、自分自身が快適でベタつ
かない肌でいたいという、サラサラ感(=「触覚」)を重視するもの。これに対してBan汗ブロックロールオン
は、ワキ汗・汗ジミ防止という第三の切り口、「視覚」で入り込んでいったのである。この視覚のニーズには2点
あり、一つは、他人から汗ジミができていて不潔な人と見られたくない、清潔な人に見られたいという対人の
ニーズ。もう一つの大きなポイントが、色や素材に制約なく好きな服が着られるという自分自身のニーズである。
最大の転換点は「汗ジミ」の防止にはこの二つのベネフィットが存在することに着目したことである。